第20話 そして……。
意識を取り戻し、ふと
荷台の上に体を拘束されて身動きが取れない。
施設内の周りには、実験に使われていそうな禍々しい器具や道具が並べられていた。
気を失っていた時に何者かが自分の内臓などを勝手に調べ人体実験をされていたんじゃないかと
「目を覚ましたようだね。拓人君」
声のする方に目を向けると、拓人は目の前の人物に目を丸くさせた。
「なたは……
いつもの白衣姿でなく、黒のスラックスに上は赤いベスト、黒いマントを羽織っている姿は科学者と言うより吸血鬼を
「ああ。だが、その名は日本での名前だ。ほんとの名前はヴァニア・ブラドという。君も知っているはずだ。私はここルーマニアの元国王だ。」
「……それほんとかっ! 博士が吸血鬼の真の王だったのか!! ――それにここはルーマニア!?」
博士が吸血鬼の統括している人物だと言うことも驚いたが、それよりここがルーマニアだったのことの方がさらに驚いてしまう。
「そうさ。ジュラキ伯爵との一戦で爆発に巻き込まれた拓人君を間一髪私が助け、ここルーマニアまで、私が連れてきたのだよ」
「ですが、俺をここに連れてきたのも助けるため……だけじゃないですよね?」
なにかイヤな予感がした。大抵何か事件に巻き込まれるに違いない、と拓人は薄々感づく。
「勘が鋭いね、ご名答。ここルーマニアは今、吸血鬼同士の抗争が続いてるのだよ」
「抗争ってジュラキ伯爵以外にもいるのですか?」
「ああ。ジュラキとは比べものにならないほどの強力な吸血鬼が世界制服を企んでいるのだ。その名はウラデウス――元私の右腕でもあり秘書でもあった人物だ」
「それで、ウラデウスを協力して倒してほしいから連れてきたんだな?」
「もちろん。今は私たちの戦力は
ジュラキ伯爵の一件が終わったかと思ったら、また、新しい勢力との抗争に巻き込まれるのはごめんだ。
「断る。せっかく人間に戻れたというのに、また吸血鬼なるなんて、俺はごめんだ」
するとブラドは小首をかしげた。
「何を言っているのだ? 君はまだ吸血鬼のままだぞ」
「えっ! じゃあ、俺はミサイルに搭載されていたワクチンを浴びなかったてこと?」
「何度も言っているだろ。浴びる前に拓人くんを救出したって」
「人間に戻りたかった……」
肩を竦む拓人にぽんと優しくブラドは叩く。
「もし、この抗争に協力をして見事、裏切り者のウラデウスに勝利したら人間に戻すことを約束しよう」
「どうせ、はなから強制的に協力させるつもりなんだろ」
「なら話は早い。まずは君の拘束具を解除しよう」
ブラドの背後にいた黒いスーツを着た吸血鬼たち二人が拓人を縛っていた拘束具を解除した。
解放された拓人は覚醒についてブラドに聞いてみた。
「なあ、博士。俺は覚醒する吸血鬼とジュラキ伯爵に言われたんだが、そもそも覚醒する吸血鬼は結構珍しいのか?」
その質問にゼウスは微笑み説明した。
「ジュラキから聞いていると思うが、これはあくまでもウィルス感染だ。その中で希にウィルスが進化して通常のウィルスの何倍もの効力がある。それが覚醒と言われている。今まで覚醒状態の吸血鬼は伝説上の存在だったはずなのだが、それが今ここに伝説上から現実となった。君は生まれ持った吸血鬼の才能があるのだよ」
ゼウスは目を輝かせて拓人の両肩に力強くがっしり掴まれるほどの期待感を抱かせていたみたいだが、正直言ってそんな才能は全然嬉しくない――むしろ捨てたい気分だと感じていた。
「そんな伝説上の事が、なぜ俺に? 原因はなんなの?」
ゼウスは顎に手を当て深く考えこむ。
「そのことなんだが、私にもわからんのだよ。気を失っている拓人君の血液を摂取したり体を調べたりしたが、これといって、普通の吸血鬼と変わらなかったのだよ。」
一瞬背筋がぞわっとした。やはり、自分が意識がないときに人体実験されていたのだ。
「ちょっと! 意識がないからって身体を勝手に調べないでくださいよ!」
「すまん、すまん。一応、私は博士なんでな気になることがあると血がうずいて調べたくなるのだよ」
髪の毛が薄い頭を掻きながらブラドは詫びる。
「でも、この俺がそんな協力できるほどの力があるんですかね……」
「まあ、覚醒しなかった拓人君の状態は下級の吸血鬼以下、最下級吸血鬼だよ」
自分は下級のさらに下の扱いとは、せめて吸血鬼になったのだからもっとクラスの高いほうがよかったのに、と内心悔しい気持ちでもある。
「最下級の吸血鬼とはいえ覚醒者でもあるんだ。修行をすれば上級吸血鬼になれる可能性もあるぞ」
甲高く笑うゼウスに拓人は肩をすくめて落胆した。今度の戦いはかなりスケールがデカい。
こうして拓人はブラドの配下に加わり、ブラドの宿敵でもあるウラデウスを倒すことになった。
後に、この戦いは伝説上、世界中から語り継がれるほどの結末になっていくのであった。
バンパイア 関口 ジュリエッタ @sekiguchi
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