第18話 覚醒

 壊された棚の向こうにはさらに続く隠し階段があり、拓人たくとたちは素早く駆け下りた。

 駆け下りていく途中、鳴り響いていた銃撃音がピタリとやむ。

 だが、立ち止まるわけにはいかない。そう胸に強く思い降りていくと拓人たちは思いがけない物に目がとまる。


「これは……ミサイル!?」

「まさか、こんな都市にミサイル兵器があるとは……信じられない」


 あまりの出来事に拓人はあんぐりと口を開けてしまう。


 全長二十メートルは超えると思うミサイルが発射台に置かれていた。

 


「これを発射させたら、それこそ国同士の戦争を引き起こすかも知れません」


 血の気を引いたみさきは声を震えながら話す。

 ミサイル圧倒されていたが、あることに気付く。


「なあ、先生。あの中にがあるんだろ?」

「――ああそうだ」

「じゃあミサイルに入っている女神の涙はどう取り出すんだ? 無理に取り出すと爆発するぞ」


 ミサイルに女神の涙が入っているとしたらどう取り出すか拓人は考えていなかった。


「落ち着け。まずは施設の周りを探すんだ」


 施設内は東京ドームの二個分に近い広で二十メートルをも超えるミサイルの全長の高さだ。


「ミサイルを発射させないように今のうちにC4を仕掛けておいてくれ」

「了解しました?」


 急いで岬はミサイルの方まで向かおうとしていたとき、最悪な状況に陥る。


「まさかとは思うが、君がこのテロを起こしていたとはな」


「この声は――伯爵!」


 階段からゆっくりと降りてきたのは吸血鬼の王ジュラキ伯爵だった。


 拓人に目掛けてジュラキ伯爵は何かを投げつけてきた。

 投げてきた物が拓人の足元に転がり落ち、目を向けると、全身吐き気が伴う気分になる。


「そんな……柳場やなぎば……それに……隊員まで」


 拓人の足元に転がっていた正体は柳場とレンジャー部隊の頭部だった。


〈よくも! 仲間を殺したなぁぁぁぁぁ!!〉


 怒り狂いながら岬は見境みさかいなく辺り一面に短小銃をばらまくように発砲する。


「やめろ! 岬さん! 落ち着くんだ!」

「お前はC4の設置を早く済ませるんだ。任務を失敗してしまったら、それこそ同士の死が無駄になるぞ」


 愛萌めめと拓人は力尽くで岬を取り押さえた。


「仲間割れか? 哀れだな」


 三人のやり取りを見たジュラキ伯爵がクスクスあざ笑う。


「とにかく岬さんはC4設置を急いでください!」

「……わかりました」


 C4設置に取りかかろうとしたとき、


「黙って見過ごすと思うか?」


 突然、瞬間移動をしたかのように岬の目の前にジュラキ伯爵が現れた。


 岬がやられるのはマズいと思って拓人は庇うように目の前に立つ。


「何のつもりだ?」

「貴様には邪魔はさせない!」


 拓人は伯爵に鋭い拳を繰り出すが、ハエでも止まったかのように防御せずに身体で受け止めた。


「邪魔だ」

「――うっ……」

「拓人!」


 急にお腹に違和感と刺すよな痛みが感じ、恐る恐る確認すると、伯爵の手が自分の腹に突き刺さっていたのだ。

 そのまま力尽きるように拓人は倒れる。


「これでも喰らえ!」


 愛萌は胸の裏ポケットから九㎜のハンドガンを伯爵に向けて発砲した。

 弾丸は伯爵の左腕にあたると――なんと、勢いよく腕が弾け飛んだ。


「たかがピストルの弾がこんな威力とはな」


 弾き飛ばされた腕を再生させようと伯爵はするが再生ができない。


「ふ。博士の作った対吸血鬼用の特殊な弾丸だ。当たった吸血鬼は再生をさまたげるんだ」

「この女が!」


 伯爵の爪が伸び鋭くまるで刀のような刃物化となり愛萌に振りかざした。

 しかし、愛萌に振りかざした伯爵の腕を拓人が物凄い握力で阻止をした。


「拓人……おまえ」

「どういうことだ! 致命傷を負ったお前が何故立ってられる!?」


 いつもと雰囲気が変わった拓人を見た伯爵は一瞬ひるむ。

 その隙を見逃さず拓人は力一杯、伯爵の顔面を殴り飛ばした。

 勢いよく吹きおとんだ伯爵は、地面に這いつくばり睨み殺すように拓人を見上げる。


「まさか――覚醒したのか!?」


 もやみたいな邪悪なオーラが拓人を包み、髪色や髪質も銀色の鋭い針のように長髪に変わり、まるで別人に豹変ひょうへんした。


「……拓人」


 変わり果てた拓人の姿を見て、愛萌は声を震わせながら拓人に尋ねた。

 暴走し、理性も抑えることができないんじゃないか、と愛萌は思っていたからだ。


「先生……ここは俺に任せて!」

「おまえ一人で大丈夫なのか!?」


 拓人は今まで見せたこともない落ち着いた表情を愛萌に見せる。


「大丈夫。今の俺だったら伯爵に勝てる! だから今は岬さんの援護に回ってくれ」

「わかった。だが、自分の身体が変化したから、といったて油断はするなよ」

「わかってる」


 愛萌は急いで岬の援護に回った。


「おのれ~。――しかもそれを生んだのはこの私だとは……なんたる屈辱くつじょく


 自分自身を裁きたくなるように伯爵は悲観ひかんする。


「伯爵! ここでケリを付けてやる!」


 吸血鬼の王と覚醒者拓人の戦いが始まりを迎える。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る