第16話 いざ晩餐会へ

 いよいよ晩餐会当日。拓人たくとたちは世宇主ぜうす超常現象研究所ちょうじょうげんしょうけんきゅうじょで最後の作戦会議を始めていた。

 自宅から研究所に向かうとき妹の真紀奈がワンワン犬のように泣きわめいたせいで、両親から奇異きいそうな表情で見つめられ、急いでその場から脱出しのだった。

 そんなこんなで今は研究所の対策室で愛萌めめの作戦についてのブリーフィングを聞いている。

 今回は世宇主の友人でもあるレンジャー部隊の隊長と、その部下三十名が味方に付いてくれた。

 年が四十近く、過激な訓練や戦場をくぐり抜けてきたような厳つい顔をした体格のいい男が前に立ち、威勢のいい言葉を放つ。


「今回世宇主から協力要請を受けた我々特殊部隊レンジャーの隊長を務めている大森大吾おおもりだいごと以下三十名が未知の敵である吸血鬼を撃退しに来た。諸君、よろしくな!」


 迷彩柄の大吾がビシッと敬礼すると後ろに綺麗に隊列組んでいる三十名のレンジャーがが後に続いて敬礼をした。

 生で見る自衛隊の迫力に拓人と柳場やなぎばはその場で圧倒される。

 続いて愛萌が説明しだした。


「というわけだ。私たちが施設に潜入し、様子を見て博士の合図で大吾隊長率いるレンジャー部隊が施設を襲撃し、その間私たちは地下にある隠し扉に向かいワクチン『女神の涙』を奪えるだけ奪い、他は破壊する」

「でも俺ら三人でうまくワクチンを奪うことができるの?」


 正直、拓人は不安を募っていると、大吾が口を開き始める。


「心配するな。襲撃した時、この五名を君たちに付ける」


 名乗りを上げるように五人の兵士が拓人たちの目の前に立つ。

 その中に女性の兵士も混ざっていた。

 髪はショートヘアの兵士とは疑うような整った顔立ちをしている。


(おい、拓人。あの子、俺のタイプなんだけど、お前はどう思う?)

(確かに美人だと思うが――今はそんな事、話している場合じゃないだろ!)


聞こえないように柳場は耳打ちをするが、エリートの女性兵士にはこちらの会話が聞こえていたらしくニッコリと笑顔を向けてくる。


「よけいな私語は慎みなさい!」

「「はい。すみませんでした!」」


 拓人と柳場はビシッと直立して構える。


 そして三十分に渡る作戦会議が終わり、いよいよ伯爵はくしゃくの本拠地に向かう準備を開始した。



 陽が沈み、賑やかな人混みが消えた頃、拓人たち三人はオシャレなスーツとドレスで晩餐会が開かれる有栖河ブライダルに目の前にやってきた。


「なあ、ひとつ聞いていいか?」


 どうしても拓人は気になる事がある。隣の柳場も同じ事を考えているに違いない。


「何だ目の前は敵の本拠地なんだ、気を引き締めろ!」

「気を引き締めるのもなにも、あんた誰だよ!」

「教師に向かって誰とはないだろバカもん!」


 見間違えるを通り越して、別人へと変わった愛萌の姿に、正直どう反応して良いか悩む。

 清潔感のある艶のある髪に、軽く化粧をするだけで、こんなにも美女に変わるなんて拓人と柳場は驚愕きょうがくした。

 そんな愛萌と一緒にブライダルの施設に入った。

 この前来た時とは雰囲気が違う。周りはドレスの着たマダムやタキシードやスーツを着た紳士など、どれも金持ち風の奴らが沢山いる。

 ここにいる全ては吸血鬼なんだと思うと足がすくみそうに拓人はなった。

 柳場からもらった招待券を係員に見せて、ブライダルの大広間に足を運ぶ。

 しばらく大広間で大勢の吸血鬼たちが賑わっていると、突然教壇の前に伯爵が現れた。

 一斉に吸血鬼たちが伯爵を見つめる。

 ジュラ紀伯爵、拓人を吸血鬼にさせた――吸血鬼の王。

 目の前にいる伯爵に憎悪抱いた眼差しを拓人は向けたが、本人は気づいていない。


「諸君。忙しい中、ご足労頂いて感謝する。驚集まってくれたのは、ただの食事会ではなく、報告したいことがあるからだ」


 いよいよジュラキ伯爵の野望を自ら打ち明け始めた。


「本日深夜0時に女神の涙をルーマニアの全土に散布する」


 会場の吸血鬼たちは驚き戸惑っていると、一人の吸血鬼が口を開き始める。


「ジュラキ様失礼ですが、ルーマニアまでどう散布するのですか?」


 するとジュラキ伯爵は説明しだした。


だ」

「ミサイルですと!? ここの地下にミサイルがあるのですか!?」


 会場は驚きの渦が巻き起こる。なにせ拓人たちの真下には巨大なミサイルが配備されているのだから。


「明日。私の暗殺専門の部隊がルーマニアの本拠地としているシギショアラに向けて進行している。約ミサイルが十五時間にルーマニア全土に散布される。その瞬間ブラドの奴を暗殺して、私が真の吸血鬼の王となる!」


 ジュラキ伯爵の演説が終わると同時に、周りの吸血鬼から、拍手喝采はくしゅかっさいが送られる。

 ジュラキ伯爵の陰謀いんぼうがわかった事で、愛萌は世宇主に報告した。


「拓人、柳場。博士が作戦を実行するとの報告だ」


 三人は気を引き締めると同時に、建物の外から激しい銃声が轟いた。

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