最終章 王との決着!

第13話 晩餐会に向けての準備

 研究所に向かった拓人たくと愛萌めめ達のいる研究室に駆け込む。

 施設のドアが開けるとそこには愛萌、世宇主ぜうす柳場やなぎば、三人が集結していた


「遅いぞ! 待たせるな!」


 まだ着いて間もないのに、時間に口うるさく愛萌は怒鳴り散らす。

 理不尽な目に遭いながら真紀奈まきなと行った有栖河ありすかわブライダルで起きた出来事を報告した。


「そうか……ブライダルは伯爵はくしゃくが経営していて地下には隠し通路もあるのか」


 世宇主は、ふむふむと顎に手を当てる。


「それじゃ、俺も重大な情報があるんだ」


 急に柳場が三人に真剣な表情で伝えようとしている。何か有力な情報を持っているのにちがいない。


「三日後の晩餐会で発表すると思うんですけど伯爵はブラド王の本拠地であるルーマニアに戦争をしようとしている、と同胞から教えてもらった」

「「ブラドだと!?」」

「もしかしてブラド・アンドレ四世のことか!?」

 愛萌が真剣な眼差しで柳場に喋りかける。


「そうですよ。あの十五世紀の王様ブラド・アンドレです。」

 世宇主と愛萌は驚倒きょうとうした。一方の拓人はブラドという人物には全く心当たりはない。


「なあ? ブラドって誰なんだ有名なのか?」

 

ブラドと言う名の人物を知らない拓人に対して、愛萌と世宇主はあきれ果てる。


「全くお前という奴は……、ブラドという人物はな15世紀のルーマニアの国王だった人物で、たった一年でルーマニアを支配した伝説の偉人だ」

「国王!? でも15世紀っていったら何歳になっているんだよ」

「それもあるんだが、ブラドの率いる特別の騎士団、十三騎士団のリーダーで右腕だったウラデウス三世が裏切りブラドの率いる兵士が分裂してしまったんだ」

「それでどう、なったんだ」

 拓人の質問に愛萌は説明を続けた。


「新たな軍を引いた裏切り者のウラデウス三世と全面戦争を仕掛けたがブラド軍が敗北してブラド王もその対戦で戦死したと言われている」

「だけど、その戦いで死んだブラド王が生きていたんだろ?」

「――に感染していたおかげで致命傷だったはずの傷が、治癒して生還したのじゃよ」


 間に入って世宇主が言い放つ。

 有栖河ブライダルでジュラキ伯爵が話した未知のウィルス『バンパイア』の感染によって超人的な能力と生命力がついたんだ、とゼウスが言う。


「それじゃ、伯爵が女神の涙の投与したい人物がブラド王って事になるのか!? でもどうして人間に戻さなくてはいけないんだ」

 

 愛萌は顎に手を乗せて自分なりの考えを述べた。


「人間に戻らせて吸血鬼の能力を消失させて命を狙う、という作戦なのではないか」

「戦争をするということは地下室にある隠し扉の中には――」

「大量のワクチンが置いてあるということだ。もしかすると製造工場になっている可能性もあるな」


 一刻も早くジュラキ伯爵の計画を阻止しないと吸血鬼の問題だけではすまされない。国と国との争いに繋がる可能性にもなる。

 だが、拓人たちだけじゃ国を動かすことができない。


「……どうしたらいいんだ」


 苦悩しながら歯噛みしていると世宇主が口を開く。


「突破口があるぞ」


拓人、柳場、愛萌の三人は一斉に世宇主に注目をした。


「どういうことですか」


 身を乗り出して拓人は問う。


「私の知り合いにな自衛隊のレンジャーで隊長をしているのだよ。その人に頼んで部下を引き連れて協力してくれるそうだ」


 世宇主の言葉に少しの光が見えた。自衛隊の協力――しかもレンジャーの特殊部隊がいれば、いくら吸血鬼の幹部だろうと無傷じゃすまない。

 それから三日後の晩餐会に向けての作戦が決まった。

 愛萌が作戦の説明を始める。


「まず博士は、ここで司令官として無線を使い私たちに指示をしてくれ」

「了解した」

「柳場の知人が幹部と知り合いで三名を招待してくれることになったから、拓人と柳場、私を含めた三人は晩餐会に出席する。」

「わかった」自信を持って拓人は返事をする。

「了解。 全力で姐さんを守ってみせるぜ」

 柳場は親指をグーのサインを愛萌に突き出す。

 

「それからレンジャー部隊の指示は来てから話すとしよう。今日から三日間、吸血鬼のことは忘れて楽しくエンジョイしてくれ」


 愛萌の言葉に拓人は疑う。


「何を言っているんだよ! エンジョイなんかしてる場合か! 気を引き締めなきゃいけないだろ!」

「今回の作戦で死ぬ可能性だってあるんだ。だから作戦を開始するまでは死んでも悔いが残らないように遊び尽くせ、と愛萌君は言ったのだよ」


 世宇主はポンと拓人の肩を叩き笑顔を見せる。

 愛萌の言うとおり、拓人は映画やアニメの主人公だと自分を思い描いていた事に気付く。

 これは現実に起きた世界。アニメや映画見たいな事にはならない。


「わかった。家に帰って作戦開始日まで存分にエンジョイさせてもらうよ」

「心配するな。お前は私の生徒だ。大事な生徒は殺させない、死ぬ気で守ってやる」


 愛萌は大事な生徒である拓人を母親のように優しく温かく抱き寄せた。

 その光景に柳場は羨ましそうに二人を見つめるが抱きしめられた当の本人は愛萌の体臭がきつくて失神しそうになっていた。


 それから作戦の説明が終わり一段落して、拓人は研究者から出て自宅に帰路についた。

 晩餐会まで残り三日。果たして拓人たちは無事ジュラキ伯爵の陰謀いんぼうを阻止することができるのであろうか。

 

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