第10話 地獄の決断

 次の日、学校は振替休日なので拓人たくとは自宅の部屋であることについて深く考え込んでいた。

 愛萌めめの提案で結婚式場に妹の真紀奈まきなとカップルを装って偵察してこいと命令されたからである。

 兄妹で式場に行くのは何かの罰ゲームだと思う拓人は、なかなか真紀奈に言い出せない。

 頭を抱えているときに、拓人のポケットからスマホの着信音が流れだす。

 ポケットから取り出すと相手は罰ゲームを与えられた愛萌からだった。


「もしもし。先生どうしたの?」

『妹にちゃんと伝えたか?』

「無理。あいつは普通の妹じゃないんだぞ。俺の事を異性として見てる変人なんだ。その変人と結婚式場に行こうと誘うなんて口が裂けても言えないし、俺も周りから特殊な性癖の持ち主だと思われたくもない」

好都合こうつごうじゃないか。彼女や女友達がいないお前には』

「勘弁してくれよ先生。もっといい案がないのか? もしなかったら、別な奴と交換してくれ」

「少しは妹孝行したらいいんじゃないか?

 それに自ら墓穴を掘らなければ兄妹だなんてわからないだろう」

「俺は心配ないんだが、真紀奈が危ないんだよ。もし式場行ったときに俺のこと兄呼ばわりされた一環の終わりだ」

「兄のように一緒にいた幼なじみだと思われる。安心しろ」

「ふざけるなよ。俺にとっては罰ゲームと同じだぞ」


 必死に反論するが愛萌は聞く耳持たない。


「グチグチうるさいこの駄々っ子が! 人間に戻りたいなら、私の言うことを聞きけ!

 本日有栖川ブライダルのウエディングドレスの試着会が開かれるんだ。これを逃したら室内を偵察するのは困難になるぞ」

「……わかったよ。やるよ!」

 人間に戻れるなら背に腹はかえられないと拓人はその件を承諾しょうだくした。

 自分を吸血鬼になせた伯爵を血祭りにしてやりたいという憎悪が強く抱く。 


「よし! 偵察が無事終わったら、私のスマホに連絡してくれ」


 愛萌からの通話が切れた。


 拓人は仕方なく真紀奈の部屋に向かい、部屋のドアをノックする。

 

「なに?」


 無理矢理起こされたような、まだ眠たそうな声で返事が聞こえた。

 

「俺だ。入るぞ」

「――えっ! ちょっ!!」


 真紀奈の了承を得ず、部屋に入った。

 部屋の広さは八畳で、可愛らしいピンクのコーディネートされているが、男である拓人には気か落ち着かない部屋だ。


「入っていい何て言ってないよ!」


 今着ている真紀奈の寝間着も、全身ピンクと白の横ストライプが入っている。


「俺の部屋には勝手に入ってきているんだから、お相子だ」

「もう襲うときはこんな真っ昼間より、深夜に私は襲って欲しかったのに……」


 急に理解に苦しむ内容を言われてどうしていいか、わからなくなる。


「別に襲ったりなんかしないぞ」

「妹の部屋に来て襲わない兄がどこにいるのよ!」

「妹を襲わない兄のどこが普通じゃないんだ!」


 こんな妹に一緒にブライダルの偵察に行くのが危険に思えてきた。


「それで、襲いに来たんじゃないなら何の用なの」


 真希案は急に不機嫌になり、ベッドに腰を下ろす。

 

「……その、俺と有栖河ブライダルに行かないか?」


 みずから地獄に突き進むような発言してしまう。

 思わず吐血しそうになったが何とか耐えてこの場を乗り切らないといけない。


「行く」

 

 その言葉に迷いは無い。ブライダルという拓人の言葉に真紀奈は自分の夢が叶ったと心が喜びに満たされていく。


「それじゃ、早く着替えろ」

「待って!」

「なんだよ」


 真紀奈が急に頬を赤くして見つめてくる。


「ちゃんと母さんや父さんにも報告しないと、それに役所にも――」


 すかさず真紀奈の頭目掛けて、鋭いチョップをお見舞いする。

 頭の中が煮えたぎるような激しいイラつきがおこる。


「いいから着替えて行くぞ!」

「もう、照れちゃって、まさかお兄ちゃんから告白してくるなんて、ぐふふふっ」


 口元に手を当てて女性とは思えない下品で嫌らしい笑い方をする真紀奈の側から、一刻も早く去りリビングで待つことにした。


 リビングで紅茶を飲み、頭を冷やしていると、勢いよく扉が開き真紀奈がやってきた。

 だが、真紀奈の服装を見た拓人は口をあんぐりと開け呆然としてしまう。


「おい……何だその服装は?」

「どう、似合う?」


 胸の谷間を強調させるようなオフショルダーを着た真紀奈に俺は目のやり場に困る。

 着替え直せと言いたい所だが早めに目的の場所に向かいたいので目をつぶることにした。

 玄関を開けて、いざ目的地に向かおうと歩き出したときに、真紀奈が拓人の腕を強引に組んできたので、勢いよく振りほどいた。


「ちょっと! 彼女とデートとしているんだから、腕くらい組んでよ!」

「誰が、彼女だ。俺は……わかった。今日だけ特別だ」

 

 吸血鬼の件は真紀奈に言えないし、変に嘘をついてご機嫌斜めなり帰り出したら、任務が失敗に終わるので仕方なくここは真紀奈の言う通りにするしかないと思った。

 早くブライダルに着かないかと肩を落としながら行くのだった。

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