第9話 作戦会議
都内の病院兼研究所に
「私は女神の涙というのには興味が湧くな。一体どういう物だろ……」
世宇主は顎に手を当て真剣に考える。
「それにしても、無事で戻ってなによりだ。それと重要な情報も手に入れることができたし、大した者だよ」
拓人たちに安心した眼差しを送る愛萌を見た柳場は、鼻を伸ばしでデレデレする。
柳場の表情を見るかぎり、どうやら愛萌に好意を抱いている。
「姐さんのためですから」
「…………」
愛萌に好意を抱いているのがわかったが、見た目を気にしない女性のどこが
(なあ、柳場さん。愛萌先生のどこに惚れたんだ?)
(なっ……おま……)
突拍子もない事を柳場の耳元で
「性格と…………あと……ボディだ……」
「もしかして柳場さんって、かなりの特殊な性癖の持ち主なのか?」
「なっ! 妹好きのおまえに言われたくない!」
「誰が自分の妹に好意を持つか! 逆に好意を抱かれてこっちが困っているんだぞ!!」
突然の暴言に怒り狂った口調で言葉を返した。
「へ? だって姐さんが拓人の事、超ド級のシスコン野郎だ、と言っていたから」
「あの不潔女が!」
「テェメ! 今姐さんに酷い暴言吐いただろ!」
いきなり柳場が怒りの拳で拓人の胸倉を鷲掴みする。
「当たり前だろ! 変なでっちあげされて、こっちはいい迷惑だ!」
「そんなに本気にするって言うことは、さてはデマではなさそうだな」
さすがに拓人は眉間から血液が吹き出そうとなるほど怒りがこみ上げてくる。
「ああもう! こうなったら拳で教えてやる! 覚悟しろ!」
「おもしれぇ、やってやろうじゃないの!」
急に二人が衝突しそうになった瞬間、愛萌が怒りの表情で二人に向かって言い放つ。
「いい加減にしろ! くだらないい事で荒そうな!」
突如愛萌が大声を上げて二人を叱りつける。
二人がシュンと肩をすぼませる姿を見て愛萌は
「今は吸血鬼の事だけを考えろ。他のことは考えるな」
反省しているとゼウスが三人にあることを告げた。
「まずは女神の涙の情報はこちらでも調べるから、三人は
「晩餐会の準備? もしかしてその晩餐会に俺が出席するのか!?」
まさか敵地に侵入するとは思いもしなかった。てっきりその道のプロを雇って潜入捜査するのかと思っていたのだ。
「当然だ。この事は私たち三人でやる」
「そうだな、やろう。やるしかない」
「いいね。そういう男気ある台詞、俺は好きだぜ!」
「男に褒められても嬉しくない。特に吸血鬼には」
拓人、柳場、愛萌の三人は晩餐会に向けての作戦準備をした。
研究室から隣の部屋に移り作戦を練る。
「伯爵に対抗するために武器が必要だよな」
拓人は武器を所持する提案をするが二人に却下された。
「町中で会うと分けが違うんだ。所持品検査ぐらいするだろう」
愛萌の言うとおり拓人は納得する。
「確かに先生の言うとおりだけど、生身で対抗しても勝ち目無いと思うんだけど……」
「何も戦え、とは言ってないだろう」
その言葉に続けて柳葉が言う。
「俺らの目的は伯爵を倒すのではなく、女神の涙という物を盗むんだ」
「盗む!?」
今度は愛萌が説明する。
「もしかすると、そのアイテムは伯爵にも影響を与えるかも知れないしな」
「なるほど、命を捨てて戦うよりも、目当ての物を盗んだ方が、いいに決まっているもんな」
「だが、厳重な警備がされているはずだ。まずは、晩餐会が開かれる
愛萌は腕を組んで考え始める。
「もう何人か助っ人が必要じゃないか? いくら俺と柳場さんが吸血鬼の力を持っているとはいえ、相手は幹部達の集まりでもあるし、それに戦いの経験は俺には無い」
いくらやる気はあるとはいえ、相手は組織を束ねる怪物。こちらは弱小吸血鬼二人と人間の研究員。事がバレたら一瞬にして消される。そのため優良なボディーガードがほしい。
「それも無理だ。ヤクザやマフィアの抗争ならともかく、架空の化け物だと認識されているような組織に、自衛隊や警察が動いてくれると思うか?」
「へたすると、俺たちが病院に連行されそうだね」
拓人はがっくりと肩をすくめる。
「まずは、やれることをやろう。柳場は知っている同胞から片っ端しりに情報を集めてこい」
「わかった姐さん」
急いで柳場は室内から去る。
「それと拓人は有栖河ブライダルの施設を偵察してこい」
「わかった。でも、結婚式場だから男女ペアで行かないとダメだよね」
「いい手があるかもな」
愛萌は拓人の顔を見てニヤリと笑みを浮かべる姿に、身の危険を感じた。
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