第2章 吸血鬼の王の行方

第8話 吸血鬼のBARに潜入!?

 今朝、愛萌と博士との話し合いで柳場やなぎばと二人で都内で経営している、吸血鬼のBARに向かうことになった。

 今、俺たちが向かうBARは幹部達が訪れると言われていて、こんなチャランポランな見た目だが幹部達と顔が広いのが不思議でしょうがなかった。


「いいか。今から行くBARは上級幹部たちの行きつけだ。変な態度は起こすなよ」

「わかっている。それと一つ聞きたいことがあるんだが、今向かうBAR以外にも吸血鬼のアジトみたいな所はあるのか?」

「ああ。俺の知っているところ、今行くBAR含めて四店舗ぐらいだ。俺の知っている所以外にも、数々のアジトや集会場もある。それに新しいアジトも徐々に拡大してる」


 他にもあるということは、吸血鬼達の勢力が徐々に上がってきているにちがいない。

 ジュラキ伯爵を倒さないと、吸血鬼が増え続けることになる。だが、拓人たくとやごくわずかな協力者で対抗できるのか正直不安がこみ上げる。


 しばらく都内の人が賑わう繁華街はんかがいを歩いていると裏道に、すたびれた一件のテナント募集中の掲げられた小さな建物があった。

 しかしテナント募集中と書いてあるが不動産屋の連絡先が書いてない。

 

「ここだ」


 まさかとは思ったが柳場が指差す矛先はテナント募集中の建物だった。

 錆び付いたドアにホコリや蜘蛛くもの巣に覆われている。

 まさか、こんな連絡を書いてないテナント募集中の建物が、吸血鬼のBARとは思えない。

 

「ここに入るのか……」

「早くしろ、人間に戻りたいんだろ」


 仕方なくドアを開けると、外見と正反対の別世界みたいにオシャレなBARだった。質のい木材で作られたカウンター席に、赤いソファやガラス張りのテーブルなど高級感溢れり、あの汚い外見とは思えないくらいに。


「いらっしゃい。空いている席にどうぞ」

 

 無愛想ぶあいそうなマスターに、来ている客も柄が悪い。それもそのはず、ここにいるのは皆人間ではなく吸血鬼なのだから。

 俺と柳場は開いているカウンター席に座る。


「マスターこれを」


 柳場は瓶に入った血液をマスターに手渡した。


「ほう。量は少ないがいいだろう。それでご注文は?」

「俺は……そうだな、とりあえずハイボールで」

「隣の坊ちゃんは?」


 振られてきた瞬間、何を頼むか焦る。


「こいつには、何か美味しい物を作ってやってくれ」

「わかりました」


 何を頼むか迷っている姿にしびれを切らした柳場は、マスターのお任せで料理を頼む。

 マスターは調理場で手際よく調理を始めた。


 料理を待っていると、柳場が拓人の耳元で語りかける。

 

(真後ろの黒いスーツを着た奴らは伯爵の幹部だ。あいつらの会話を聞き逃すなよ)

(この距離じゃ、何も聞こえないよ)

(バカ、今のお前は人間じゃないんだ。力だけじゃなく聴力も高い。相手の会話を意識するんだ)


 柳場の言うとおりに相手の会話を意識する。


「幹部会でジュラキ様が話されていたこと何だが……」


 拓人の耳から幹部の声が聞こえてきた。自分にこんな能力があるとは自分でもビックリした反面、人間ではないと自覚してしまい何ともいえない気持ちに陥る。

 気持ちを切り替え、続けて拓人は後ろの幹部の話を盗み聞く。

 すると真後ろの、いかつくオールバックヘアの男性吸血鬼が喋り始める。

 

「そういえば、都内の有栖河ありすがわブライダルで一週間後に晩餐会が開かれるって言っていたな」

(ブライダルって……結婚式場?)

「たしかジュラキ様が開催される晩餐会ばんさんかいだろ。俺は呼ばれなかったな……」


 重要情報をゲットした拓人は、まだ何か話すのじゃないかと真剣に相手の話を集中していると、

「――お待ち!」

「――っ!」


 突然カウンターから赤いトマトケチャップで綺麗きれいに塗られた半熟の黄色いふわふわオムライスが置かれた。

 身体をびくつかせて挙動不審きょどうふしんになりながら、隣に置いてあるスプーンを手に取り、オムライスを口に運ばせると、何とも言えない絶妙な味だった。

 ミルクが混ざった甘くとろりとした卵に、少し鉄の味がする酸味の効いたケチャップ味がマッチして拓人の食欲が進む。

 しかも体中が力が溢れるような感覚だ。このオムライスは危ない薬物でも入っているんじゃないかと疑ってしまうほどに。

 だが、食べ始めるに続いて、もう一つ疑問点がわく。本来トマトケチャップはこんなに鉄分が強く表れる味がしたか、不思議に思っていると、柳場が拓人に口ずさんだ。


「これ、ケチャップウじゃないぞ。


 一瞬吐き気が起きた。まさか自分が口にたのが人間の血液だなんて。

 急に立ち上がり、拓人はBARから飛びだした。柳場も状況がつかめず急いで後を追いかけた。


「ちょっと待て! 一体どうしたんだ!?」


 柳場は慌てて追いかけ拓人の襟首をつかみ引き止めた。


「だって……人間の血液を……俺は口に入れたんだ」


 知らないとはいえ、人間の血液を口に入れて美味だと思った拓人は罪悪感ざいあくかんで胸が絞められる気持ちになる。

 俯き青ざめた拓人の頭を柳場は優しく撫でた。


「人間の血液だなんて知らなかったんだから、しょうがないだろ。お前が好き好んで頼んだんじゃないから気にするな」

「気にするに決まってるだろ! 人間の血液を食したんだ! 俺も血に飢えて家族や周りの人間達を――」


 柳場の魂のこもった拳が、拓人の顔面にたたき込む。

 

「違う! お前は人間だ! 見た目はどうあれ、心は人間のままだ」

「柳場さん……」


 拓人がまぶたを真っ赤に腫らす姿に柳場は優しく慰めた。

 

「おまえはちゃんと人間に戻れるから安心しろ」


 吸血鬼だと思って軽蔑けいべつはしていたが、こんなにも自分のことを、思ってくれる人物だとわかった拓人は、心から柳場を信頼することになった。


「ありがとう柳場さん」

「別に礼を言われることはしてない。さあ早く戻って情報収集しようぜ」

「いや、その必要はない」

「どういうことだ?」


 柳場は目を丸くする。

 マスターと話しに夢中になっている柳場は、二人の幹部の会話を聞いていなかった為、わからなかった。

 拓人は幹部達の会話を一字一句、柳場に説明した。

 自分でも驚くほど、相手の会話を丸々覚えていたことにビックリした。記憶力が悪いはずなのに、これも吸血鬼になった影響かと自覚してしまう。


「そうだったのか……でもなんで結婚式場なんだ?」

「たぶん、奴らの本部とかじゃないのかな? それに気になることも話していた」

「気になること?」

「ああ。一人の幹部が、晩餐会に『女神の涙』というのをお披露目するって言っていた」

「そうか、かなりの収穫だな。とりあえず、一度研究所に戻ろうか」


 こうして二人は愛萌めめ世宇主ぜうすに、BARでの得た情報と女神の涙について報告しに、一旦研究所に戻ることにした。

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