第6話 秘密の施設?

 晴れ渡る空の中、拓人たくとはベッドの上で気持ちよく寝息にしていると、何者かがゆっくりと忍び寄り、突然襲いかかってきた。

 

「その手はくらわないぞ」

 

 素早く身をかわし、襲ってきた者を両手で弾き飛ばす。

 毎日のように寝込み襲われると、吸血衝動きゅうけつきしょうどうを我慢するのがつらくなる。

 これなら病院で入院していた方が精神的にも良かったと心の底から思った。

 

「イテテ……可愛い妹になにするのよ!」

「毎日毎日、寝込みを襲う妹が可愛いわけないだろ。それに俺はまだ眠たいんだ」

 

 痛みをこらえて頭を抱える真紀奈まきなを見て、嘆息たんそくを漏らした。

 貧血がある拓人は動くのがだるいので、真紀奈を無視して再度ベッドに横になる。


「寝るな! 早く起きて。愛萌めめ先生がお兄ちゃんに用があるって家に来ているんだよ」

「――先生が!?」


 勢いよく飛び上がり側にいた真紀奈がビックリする。

 昨日の吸血鬼のことで来たのだろう、と思い愛萌のいるリビングに足を運んだ。


            ☆


 リビングを開けるとそこにいたのは不衛生な女性で拓人の通っている高校の理科の教師兼オカルト研究部の顧問、上条愛萌かみじょうめめがソファーに腰を下ろし紅茶を飲んでいた。

 

「今起きたのか? それに寝間着姿だなんて、たるんでいるな」

「髪もベタベタ、白衣や衣服も黄ばんでいるあなたに言われたくないよ!」


 ここ何日もお風呂に入っていないんじゃないかと疑うような異臭いしゅうが漂う女性教師に言われ、カチンときた。

 愛萌が急に立ち上がり拓人を見ながら口を開く。


「早速だが、私と一緒に来てくれ」

「急について来いなんて、むちゃくちゃな事言わないでくださいよ。俺は支度してないし、朝食も取ってないんですよ!」

「わかった。四十秒で支度しな」

 

 たった四十秒で支度しろと無理難題むりなんだいを突き付けられた拓人は、食事は諦めて身支度だけをすることにした。

 二階の上がり部屋に戻ると、眉をつり上げて仁王立ちしている真紀奈が来るのを待っていたかのように待機していた。


「おまえ……人の部屋に入ってくるな」

「ここはお兄ちゃんの部屋でもあるけど、私のセカンドルームでもあるの!」

「勝手に人の部屋を占拠するな!」


 妹がいるにも構わずに拓人は服を着替えて、そのまま愛萌のいるリビングに戻っていった。


 一階に降りて玄関前まで行くと真紀奈は憤然ふんぜんとした態度で俺に怒りをぶつける。


「お兄ちゃん! あの不潔ふけつな先生と、どこに行くの!?」


 足音を強く鳴らしながら威圧的な口調をぶつけてくる真紀奈に、どう説明していいか悩む。まさか吸血鬼の事を伝えたら馬鹿にされるか、心配されて精神科に連れて行かれるかの、どっちかだと思った拓人は、結局嘘をつくしかなかった。


「次のテストでいい点が取れる為に、先生とマンツーマンで勉強を教えてもらうんだよ」

「ん~、何か怪しい。お兄ちゃん私の顔をくよ見て!」


 眉をつり上げてるハムスターのような真紀奈をマジマジと見つめる。これが彼女なら、きっとトキメイていたかもしれないが、妹だからトキメキよりも、ウザさのほうが上回った。

 ジッと見つめてきた真紀奈の吐息といきが荒々しくなり、嫌な予感をかもし出す。

 拓人が予想していたとおり、いきなり逃げられないように両肩をがっちり掴んできた真紀奈はそのまま目をつぶり唇を近づけてきた。

 しかも拓人の身体も熱く熱しられたような興奮状態になり、少しでも気が抜けたら飛びつきそうになる。

 これは間違いなく吸血衝動。

 吸血騒動が暴走しないように拓人は、すかさず真紀奈の身体を引き離し、鋼鉄のゲンコツを叩きつけた。

 あやく拓人は吸血衝動の暴走が起こりそうになってヒヤッとした。

 

「痛いよ……お兄ちゃん……」

「汚い唇を俺に向けるな」

「気持ち悪いはよけいだよ……」

「それじゃあな」

「待ってお兄ちゃ――」


 妹を相手にしている時間が勿体ないので早めに着替えて自宅を後にする。


「遅いぞ! 三分四十五秒もたったぞ!」

「それぐらい、いいだろう先生」


 時間に厳しい愛萌は、もの凄く不機嫌になりながら、見た目とギャップのある深紅の高級オープンカーに乗りながら説教をしてきた。

 生まれて初めての高級車に乗ると同時に、急にアクセルをベタ踏みして疾風しっぷうの如く。猛スピードで発進した。

 

 さわやかな風で、髪をなびかせながら運転中の愛萌は口を開く。

 

「ほんとは話そうかどうか迷ったんだが、今回お前を呼んだ理由は、人間に戻せる方法が見つかったかも知れないからだ」

「ていうことは俺は元の人間に戻れるんですね!」

 

 拓人は宝石のように目を輝き始め、心の中で万歳三唱ばんざいさんしょうをする。

 ぬか喜びする拓人に愛萌は厳しい表情で言葉を発した。

 

「このアホ。仮定であって確信はないから喜ぶのはまだ早い。」

「でも可能性があるなら信じるさ。でもいいのか? 俺がもし人間に戻ったら、人体実験はできないぞ?」

 

 冗談で言ったつもりで話したら、愛萌は不気味にニヤリと微み口を開く。

 

「拓人以外に実験に使える実験体を手に入れたからな」


 その言葉に、拓人は悟った。

 しばらく高層ビルが建ち並ぶ都内の街を走ると、目的地に到着。

 そこは、拓人が最近まで入院していた市立病院だ。

 拓人は後から知る。この市立病院は裏で、とんでもない研究をしていたと。

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