第4話 吸血鬼の調査

 入道雲が現れる暑く気持ちのいい陽射しの中、拓人たくとは病院を無事退院することが出来た。

 三日間に渡る治療を受けていたが、症状的にはあまり改善はしなかった為、医者から鉄剤を処方されて朝夕と一日一錠ずつ内服するようになったが、正直この薬で拓人の血に飢えた衝動が治るのかは自分自身、不安が募っていた。

 幸い学校も夏休みに入っていたので、生徒を襲う心配なないのは、なんともの救いではある。

 

 退院してすぐに、拓人は自宅へ帰らず自分が通う高校の理科準備室に向かった。

 そこには部員数ゼロの廃部まっしぐらのオカルト研究部の顧問、上条愛萌かみじょうめめがいるからである。

 オカルト研究部は俺が入学する前にはあったみたいだったのだが、部員が一人や二人などとても人数が少なく、今まで廃部されなかったことにとても疑問が湧いていたのだ。

 それに最低でも部員が五人集まらないと部活とは認定されずに愛好会みたいな方が気になるはずだが、これも愛萌の謎めいた圧力のせいで廃部はまぬがれているに違いなと思ってしまう。

 病院から少し歩いたところにバス停があり、そこで少しの間待っていると右側からバスがやってきてそれに乗り学校に向かった。


 学校に着き、そのまま愛萌のいる理科準備室に向かった。

 準備室のドアを開けた拓人は準備室の室内に驚愕きょうがくをした。


「先生。――何ですかこの本の山は!?」

「お前が退院するまで色々と吸血鬼のことを調べていたのだよ」


 理科室に入ると、そこには清潔感せいけつかんある白衣を着たボサボサ頭の愛萌めめが椅子に腰を下ろし、分厚い本を読んでいた。

愛萌の周りには数々の都市伝説的な分厚い本も何十冊と積み重ねてある。

 肩まで積み重ねた本を崩さないように慎重に向かい合うように理科用実験台の椅子に腰を下ろす。


「それで、何かわかったことがあるんですか?」


 読みかけの本をパンと閉じて、ふと鼻で笑った。


「知り合いの刑事デカに何か変わった事件はあったら教えて欲しい、と言ったら、吸血鬼と関係しているような不可解な事件が何件かあった」

「ほんとですか!?」


 思わず身を乗り出した拓人に構わず愛萌は話を続ける


「ああ。被害者はどれも若い女性で、遺体の首に針で刺されたような小さなあとが二つ発見されたらしい」

(――間違いないあいつの仕業だ)


 ぎゅっと拓人は力強く拳を握る。これ以上被害を出しちゃいけないと。

 

「それとな。もう一つ有力な情報がある」

「まだ何かあるのですか!?」


 真剣な目で俺を見つめて言い放つ。

 

「ああ。この事件、私たちが住む東京都内しか起きていないのだ」


 ビックリして思わず目を大きく開ける。吸血鬼の拠点が、まさかここ東京だったというのに。


「ということは、吸血鬼達はここ……」

「そういうことになる。それと私の余談だが、その吸血鬼達はいずれ勢力を上げ東京以外にも範囲を広げると思う」

「そんな事をしたら日本が吸血鬼に占領せんりょうされてしまう!」


 もしそんな事になれば、と想像する拓人の顔から血の気が引いた。

 こんな小さな島国だ吸血鬼の未知なる力だと下手へたすれば時間も掛からずに制圧できるに違いない。

 そんな恐ろしい事を考えていると急に足が竦みそうになった。

 

「ただ、そんな事がわかったところで私たち二人でどうこうのできる問題じゃないぞ。それに警察や自衛隊に頼む事はできないんだぞ」

 

 確かに愛萌の言うとおり、警察や自衛隊に連絡しても嫌がらせ電話と勘違いされるに違いない。だからといったってこのまま何もしないでジッとしてるのも嫌だ。


「なんとか奴の居場所を突き止めないと」

「私も同じ気持ちだ。まず拓人が襲われた吸血鬼の王の特徴をこと細かく教えてくれないか?」

「暗闇だから細かく説明するのは難しいけど、顔は大体美顔で目が赤く体型は筋肉質というゆより、やや痩せ型で黒のスーツで黒のコートの全身黒ずくめの男ぐらいしか知らないな」

「ん~、他には何か特徴的な事は無いのか?」

「物凄い早さと強さの持ち主かな?」


 そのまま愛萌は目をつむり何かを考えている。

 

「なあ、どうかしたのか?」

「ああ。拓人、君自身は吸血鬼になって貧血や吸血鬼衝動きゅうけつきしょうどう以外も何か変わった事は無いか?」


「う~ん。今はこれといって無いかな。あるとしたら少しフラフラする」


 すると何を思ったのか愛萌は急に拓人の側まで寄り、自分の首筋を至近距離まで近づける。


「どうだ? 欲情したか」

「……何言ってるんだよ。そんな気分になるわけないでしょ。考えすぎて頭でもイッたのか?」


 愛萌は拓人から離れた。


「わかった事がある」

「わかった事って何だよ」


 急に確信した愛萌に不審に思う拓人であった。


「吸血症状はということだ」

「いやいや、それはないな。そうだとしたら俺の妹に好意を抱いてる事になるじゃないか」

「だって拓人はじゃないのか?」


 余りの失言に拓人の眉間みけんに青筋が浮き出す。

 

「俺は妹に好意を抱く変態やろうと一緒にするな! それにそんな考えを持つ奴なんて妹や姉がいない奴が思うことだ」

「それじゃあ、何で私に吸血衝動が湧かないんだ?」


 疑問に思う愛萌に、今思っている気持ちを正直にぶつける。


「それは鼻が曲がるほどの汚臭おしゅうがするからだと思う」


 愛萌の体内から、魚の死後数週間経過したときのような匂いを感じていた為、逆に近くに詰め寄られてくると不快に思ってしまう。


「なるほど……つまり清潔な身体じゃないと、吸血衝動が出てこないということか」


 ふむふむ、と首を上下に小刻みに振りながら愛萌は納得する。


「納得したのはいいが、他に何かやることでもあるのか?」

「ここでは、実験する設備が整えていないからこれ以上は何もすることはないな」

「じゃあ、これからどうするんだ」


 疑問をぶつけると、愛萌は何か決断したらしく口を開き出す。

 

「今夜、おまえが吸血鬼にされた場所に向かうぞ! いいな」

「えっ! それ本気で言っているの!?」

「当たり前だ。まずは現場に行って調査するのが一番の手がかりだぞ」

「まあ、俺も現場にもう一度行きたかったからいいけど、二人だけで大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。私に考えがある」


 何を考えているのか拓人には全く読めなかったが、愛萌の事だ、何か良い作戦でもあるんじゃないかと、期待を持つことにした。

 というわけで二人は今夜、吸血鬼に出会った都内の路地裏に向かうことにしたのだ。

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