第3話 オカルト大好き先生 

  しばらくして病室から慌ただしい白衣を纏った人物が現れた。

 髪は艶がなくボサボサで、化粧もしないすっぴんだが、顔は整っているのに正直勿体ない。

 そんな勿体ない女性の名前は上条愛萌かみじょうめめ。科学の教師でオカルト研究部の顧問をしている。

 なぜオカルト研究部の顧問である愛萌と親しいのかというと、入学したての頃、たまたまオカルト研究部に見学したときに気に入られて以降、部活は所属していないが理科実験室に顔を出している。

 かなりの変わり者の教師でえばりくさっている反面、拓人たくとのことを何かと手助けをしてくれる。

 

「おい、吸血鬼に出会ったって本当だろうな!」

「先生。ここは病院なんだから静かに入って来てよ」

「どうせ、もうじき死ぬ人間しかいない隔離施設かくりしせつで、騒いでも問題ないだろう」

「ここの病棟の患者一人ずつに謝罪してきてください」


 愛萌のとんでもなく失礼な発言をナースや患者に聞かれたんじゃないか、と拓人たくとは、額に脂汗を流しながらヒヤヒヤした。


「それで、その吸血鬼との遭遇でお前は入院しているのだろう」


「ああ。ここだよ」


 そう言われて、吸われた首筋を愛萌に見せた。


「むむ。どこにも歯形が残ってないじゃないか?」

「ええ、俺も不思議なんですよ。首筋くびすじ深く犬歯に突き刺されたのに、今じゃああとも残らず消えているんです。それと……」


 続けて拓人の異常に伸びた鋭い犬歯けんしも見せた。

 それを見た愛萌は驚きもせず興味深そうに観察する。


「一見、異常に伸びた犬歯に見えるが、よく見ると、鋭い針のようになっている。それに歯の最短ににはごく僅かな穴が開いていて、そこから血液を吸い取り、栄養補給しているのだろう」


 顎に手を乗せて、独り言のように愛萌は解説するする。


「あれ? この歯を見て驚かないんですか?」


 呆気に取られる拓人を見て愛萌は、

「正直驚きを通り越して解剖してみたい。なにか拓人の身にあったのは、電話元で予想はしていたが、まさか吸血鬼になっていたとは……」

「解剖って……冗談ですよね?」


 額から冷や汗を流す拓人の双眸見つめて愛萌は真顔になる。

 

「私は冗談を言う人間だと思うか?」

「……」

 

 オカルト関係になると生徒でも容赦が無い。例え人を犠牲にしても追求して取り組む女性だと、拓人はわかっている。つまり今、この状況では自分の命がピンチ。


「丁度ここは病院だ。いろんな機材も揃っているし、この病院の院長は私と友人でもあるしな。訳を話せば、喜んで承知するだろう」


「勘弁してください。解剖だけはやめてくれ! 愛萌先生の唯一の可愛い生徒だろ?」


 愛萌は拓人以外の生徒と教師から偏見へんけんな目で見られているため、話し相手はいつも拓人だけでなのだ。

 そんな拓人を解剖したら愛萌は孤独になると必死に説得を続けるが、感情のないロボットのように人の話に聞く耳持たない。


 病室のベッドで深々と頭を下げる拓人に傍若無人の愛萌はある条件を告げた。


「もし解剖されたくないなら、お前を吸血鬼化させた人物を見つけ出すぞ」

「それ、俺も考えていました。そいつを見つけ出し、力ずくで元の人間に戻る方法を教えてもらうんです」


 その言葉に愛萌は怒った般若はんにゃのように目頭を熱くする。


「バカを言うな! せっかく吸血鬼になれたのだぞ。それを愚かな人間風情にんげんふぜいになるとは、全くけしからん! 恥を知れ!」

「人間を恥だというなら、あんたは何者だ?」

「私は超人類ちょうじんるい末裔まつえいで、人間ではない」

 

 さすがの拓人も愛萌の台詞に呆れてしまう。今までオカルト好きの一生結婚できない女性だと思っていたが、まさか中二病まであるとは思いも寄らなかった。

 新しく先生のステータスに中二病の所持者と上書きをしなくてはいけない。

「ここ、精神科あるから見舞いのついでに寄っていった方がいいよ。それに院長と知り合いならなおさら」

「私が頭がおかしいというのか!? このバカたれが!」

「その言葉そのまま返してやるよ!」


自分のことを超人類と言い出すやつに暴言を吐き出されて拓人の眉間に青筋が浮かび上がる。


「ほんと私がせっかく見舞いに来てやった、というのに、その態度はないだろ。お前が誤って女子トイレで用を足していたときに、同級生の女子にバレそうになったところを、私が救ってやった恩も、忘れたとは言わさないぞ」

「そんな過去のこと今さら口に出すなよ! そもそも俺が先生を呼んだから来たんだろ。ていうか話しが脱線しすぎだ」


 さっきまで身体を休めていたおかげで体調が少し良くなっていたのに、愛萌が来た途端段々体調が悪化してきたと感じてくる。

 

「そうだったな。話しを戻そう。とにかくお前の命が欲しければ吸血鬼に合わせろ」

「なに生徒に脅迫してるんだよ! ここの病院の医院長に頼んで精神病棟に送るぞオカルトマニア!」

「何を言っているのだ。医院長は私の味方だ」

「それじゃ医院長も超人類の末裔なのか?」


 引きつりながら愛萌に話すと、思いがけない、どうしようもないほどの台詞を吐く。


「ん? 院長は神ゼウスから生まれた子だと言っていたぞ」

「あんたより、院長の方が頭イッてるな! ここの病院大丈夫かよ!」


 愛萌よりもこの病院の院長の頭が心配になる。類は友を呼ぶとはまさにこのことだな、と拓人はいたく痛感した。


「そうだな。たまに発言がぶっ飛んでいる事があるから、ついていけなくなる時があるな」


 愛萌ががブーメラン発言していると気付いていなかったが、拓人は突っ込みを入れはしなかった。

 何故ならツッコミを入れるほどの気力が残っていなかったからだ。

 愛萌が来てから体力の消耗が激しくなっていたため、病院に呼ぶのは失敗したと拓人は頭を抱える。


「まあ、そんな事よりこの事件を早めに解決しないとな。俺や消失をたった血だらけの女性みたいに被害者をださないようにね」

 

「そうだな拓人の言うとおりだ。これ以上吸血鬼の思い通りにはさせない。――とにかく、退院次第、すぐ吸血鬼の調査を開始するぞ」


 そう告げて愛萌は病室から去って行った。

 愛萌が力になってくれるのは非常に心強い事だが、もし見つからず刻々と時が過ぎたら必ず解剖されるに違いない、という不安も拓人は募らせた。

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