理想――喜びを中心に据えるネコ
よく「ネコはいたずらばかりして困る」「ソファなどの家具がボロボロになる」と言いますね。
全くその通りです。
亡くなった母ネコ・フロに関して言えば、用意した爪とぎ以外の場所をガリガリとやることもなく、カーテンによじ登ったりパズルマットを噛みちぎったりなどといった「いたずら」は全くしませんでした。
が、2匹の子ネコ、ドラとモナは別でした。コードはかじるわ、ソファや座椅子はボロボロにするわ、シンクの中に入っちゃうわでそりゃもう何度も叱りました。
長じるにつれだいぶ落ち着きましたが、彼らのふるまいはまあ見事でした。好奇心の赴くまま、したいと思ったことは必ずやる。それを信条にしているかのように見えたものです。
そしてその中で気づいたのが、彼らには全く「悪意」がない、ということです。
ネコは、「人間を困らせてやろう」などとは1ミリも考えていない生き物なのです。
彼らは自身の「興味・関心」、もっと言えば「喜び」を基準に行動しています。
その結果、人間の基準で言う「いたずら」=人間にとって都合の悪い結果につながってしまう、というだけなのです。
そしてネコはめちゃめちゃ切り替えが早い。
おもちゃで一生懸命遊んでいても、突然ふっと冷め、足でまたいで他の場所へ。
人間に対する遠慮とか気遣いとか、皆無。ただ自分の気になるほうへと一直線。
これ、すごく理想的な生き方だと思うのですよ。
よく「生まれ変わったらネコになりたい」とか「ネコがうらやましい」とか言う人がいますが(うちの子も言います)、あれはネコの気ままなふるまいへの憧れからくるものなんだと思います。そのため、「ネコはわがまま」ともよく言われてしまいますね。
私自身、「ネコは好きなときにたくさん寝られていいなあ」とよく思っていましたが、今ではネコの生き方そのものに大いに学びたいと思うようになりました。
どう思われようが気にしない。自分のしたいことに集中し、その姿勢を最後まで貫く。
どんなときでも、自分の喜びを判断基準の中心に据える。
でも実際、これを実行するのはとても難しいですよね。
やりたいことだけやっていたいけれども、働かないと生活はしていけないわけだし。
年金だってもらえるかわからないから老後に備えて貯金しなきゃだし、子供の教育資金も不安。
そんな理由で、私は結婚・出産を経てもずっとフルタイムで働いていました。
仕事をしながら、「なんでこんなことしなきゃいけないんだろう」と常に思っていました。「いつまで続ければいいんだろう」とも。
その裏には、「小説を書きたい」という思いがありました。
それが私の「喜び」だったのです。
働きながら書いて応募した小説が初めて選考を通過し、この思いはますます強くなりました。そしてとあるきっかけで私は退職を決意し、小説に専念する生活に入りました。
最初はそりゃもう不安でした。二人分あった収入が、一人分に減ってしまう。やっていけるんだろうか。
けれども、意外と平気だったのです。
そして家にいられる生活の楽しいこと! 執筆だけでなく本もたくさん読めるし、学校から帰ってきた子供の相手もゆっくりできます。
ようやく「本来あるべき生き方」に戻ってこられた、と感じました。
その結果、私は長年の夢であった「ネコと暮らす生活」と「本を出すこと」を両方叶えることができました。
ネコを飼ってみたら、ネコの生き方を模倣したことで幸せを手に入れたことに気づいた、というわけです。
やはりネコは偉大です。その生き様は、まるで生まれながらにして悟りを開いているかのよう。
ネコのように生きられたら。それが私の理想です。
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