感情――心で寄り添うネコ
ネコは飼い主の声や自分の名前を聞き分けている、という研究結果があります。
それを聞いたときは何を今さらと思ったものですが、ネコに関する研究は犬に比べると進んでいないのだそうです。ネコという動物の特質として、実験に参加協力できる個体がなかなかいないのだとか。
確かにそうですね。知らない人を前に普段の行動を保てるネコは少ないのではないでしょうか。自分の飼いネコで実験している研究者さんをテレビで見たことがありますが、これはそういう理由からくるものなのだと思います。
ネコを飼っている人ならわかると思うのですが、ネコは思っている以上に賢く、いろいろなことを理解しており、さらに自分以外の存在を深く愛することのできる動物だと思います。
ネコは表情筋が少ないので、人間のように笑顔を作ることはできません。
そのため感情に乏しいドライな印象を受けるかと思います。私も以前はそうでした。
けれど飼ってみて気づいたのですが、ネコってすっごく感情豊かなんです。いっしょに暮らしていると、いつも同じように見える表情も、感情によって微妙に変化しているのがわかってきます。
特にドラは表情豊かです。怒ったり、驚いたり、嫉妬したり。
夫がモナを撫でていると、離れたところからじっとそれを見つめているんです。その表情はまるで、「なんでモナだけ……」と言っているようで。その表情がまた半分恨むような目つきだったりして、なんともかわいいのです。
彼女はプライドが高いので、自分から「撫でて」とやってくることはめったにありません。さりげなく目に入る位置に移動して寝そべり、「別に撫でられたいとは思ってないけど撫でたければ撫でれば」と言いたげにしています。結果的に撫でられなかったとしても自分のプライドが保てるようにしているのです。絵にかいたようなツンデレぶりです。
一方のモナはやんちゃで子どもっぽく、奔放で素直。ドラ同様臆病ですが、好奇心が勝つ方が多い。気になった場所には行かずにおれない。気になったものは、どうしても取りたい。それがモナ。普段からびっくりしたような顔をしていることが多いです。藤あや子さんのところのオレオちゃんにちょっと似ています。
モナはとても素直なので、撫でられたいときはむこうからゴロゴロとやってきます。そのときの甘いうっとり顔はたまりません。目を細めてゆっくりまばたきをして、じっと私の顔を見上げてくるのです。
ドラも甘えたいモードのときは膝の上にやってきて私の顔をじっと見つめますが、モナほどのうっとり顔にはなりません。
さらに、モナはよく鳴きます。ドラはドアの前で「外に出して」と鳴くくらいですが、モナはしょっちゅうニャアニャア鳴いてます。
呼ぶと返事をするのはもちろん、むこうから呼んでくることが多いです。「かまって」「撫でて」「おやつちょうだい」「大好き」「どこにいるの」「さびしかった」……いろいろな声色があり、なんとなく意味がわかるのもかわいいところです。
特にさびしいときは「フニャァァ……」とかすれた高い声を弱々しく出しながら近づいてくるため、ほんとにかわいいです。
彼女たちの表情や行動の裏には、かなりはっきりとした感情があるように思えます。同じ母猫から生まれたのに、全然性格が違う二匹。その考えていること、感じていること、いっしょにいると、それらが手に取るようにわかるようになるのです。
ネコは、人間の感情をどうも理解している向きがあります。
少し気持ちが落ち込んでいるときに、ドラがそばに来て無言で寄り添ってくれたことがあります。そのときはいつものように暖をとりにきたのだろうくらいにしか思わなかったのですが、あれはドラが私を観察した結果の行動だったんじゃないかと今は思うのです。
その理由は、母猫フロに対する彼女の接し方にあります。
フロはモナといっしょにいることが多く、ドラが近づいてもネコパンチをして遠ざけることがよくありました。ネコは大きくなると親や兄弟といった認識はなくなると言います。おそらくドラはモナに比べて個体的に強かったため、フロは彼女に対してライバルのような認識を持っていたんじゃないか、というのが私の推測です。
そのフロが亡くなる直前、病院に通っている時期のこと。フロはあまり動かなくなり、座椅子やソファの上で寝ていることが増えました。
するとドラがたびたびそこに近づき、体をぴったりとくっつけて寄り添うのです。またフロに攻撃されちゃうんじゃないか、と心配したこともありましたが、フロはそんなドラに対して攻撃を加えることはありませんでした。おそらくドラの気持ちを理解していたんじゃないかと思います。
二匹は、お互いの体温を確かめるように、長いことじっと寄り添っていました。
ネコは、とても愛情深い生き物なのです。
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