出会い――隙間を埋めに来たネコ

 ネコを飼いたい。


 小学四年生頃、その気持ちを親に泣いて訴えたことがありました。多分一生で一番泣いた日だと思います。どうしても、どうしても、ネコと一緒に暮らしたくてたまらなかった。


 けれども、返ってきた答えは「NO」でした。


「将来結婚して家を買ったらネコを飼えばいいじゃない」


 母親はそう言いました。


 それから約二十年後、家は手に入れましたが、ネコを飼える状況にはなりませんでした。共働きで小さい子供もいる。日中誰もいない状態になる家で、果たして一からネコを飼うことなんてできるんだろうか。

 どれくらい費用がかかるのか、どんなグッズが必要なのか、ネコを飼っている先達に教えを乞い、「いつかは絶対飼う」と心には決めていましたが、なかなかその機会は巡ってきませんでした。


 子供の関係で仕事をやめ、一年が経った頃。

 その頃私は、大人の塗り絵をやっていました。ディズニー・プリンセスをモチーフにした、すごく細かいものです。

 児童文庫の賞に応募してから数か月、純文学の公募に出そうと小説を書いていましたが、どうもうまくいかずに途中で放棄し、次の児童向けの作品の構想を練り始めた時期でした。しかし応募した賞の一次通過発表が目前に迫っていたせいか、それも本腰が入らず、その時期はなんとなくできた「隙間」のような期間となっていました。

 そのため精神的余裕があったのでしょう。やりかけだった塗り絵の本を引っ張り出し、毎日少しずつ色を塗っていたのです。


 それを始めて三日と経たない頃だったと思います。

 洗濯物を取り込もうと掃き出し窓を開けると、すぐそこに野良ネコがいました。

 キジ白の小さめのネコで、こちらを見上げています。

 野良ネコというものは人間を見るとすぐに逃げるものと思っていたのですが、その子は逃げませんでした。逆に近づいてきたのです。濡れ縁に上り、じっと私の顔を見つめてくるのです。何かを期待しているまなざしでした。

 とても痩せていたため放っておくことができず、私はウインナーをあげてみることにしました(それくらいしかなかったのです……)。指でつまんで差し出すと、前足でちょいっと下に落とし、うれしそうにがつがつと食べました。食べ終わったらまた濡れ縁に上り、きれいな緑色の瞳でじっとこちらを見上げます。

 学校から帰ってきた娘とともにウインナーを二本ほどあげ、窓を閉めて様子を見ました。しばらくは庭をうろついていましたが、ほどなくして姿を消しました。


「また来てくれるかな」


 そう言った娘の気持ち、そして私の期待に応えるように、その子は次の日もやってきました。それも朝から。

 保護しようと決め、コンビニで買ったネコ用フードを器に入れてあげました。毎日必ずやって来るし、ごはんを食べた後もカースペースや庭で長い時間昼寝をしていました。水やトイレも用意しました(トイレは使ってくれず、花壇でされてしまいましたが)。

 初めて家に来たのが4月26日だったため、その日付(26)から夫が「フロ」と名付けました。

 みかん箱にフリースを入れたものを置くと、そこで寝るようになりました。それをキャリーケースに変えるとすんなり入ってくれたので、そのまま病院へ。

 近づいてはくるのに、人の手を怖がるネコでした。触ろうとするとネコパンチをしてくるので、最初に行った病院では「こりゃダメだ」とろくに診てくれず、「お子さんが怪我をするから」と一か月くらい様子を見て慣れなければ放した方がいいと言われました。

 一か月で慣れるわけないよな、と思い、別の動物病院に行って診てもらうと、栄養状態が悪いこと、妊娠していることが判明しました。

 それが五月初め。

 そして6月6日の早朝、フロは三匹の子ネコを出産します。

 そのうちの一匹(風邪をひいていたことから娘がつけた名前が「風の谷のニャウシカ」)は一か月後に亡くなってしまい、庭に埋めました。

 残るドラ(キジ白、正式名称ドラコッコ)とモナ(黒白ハチワレ、正式名称モルガナ)も一緒に飼うことを決め、三匹のネコと一緒の暮らしが始まったのです。

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