第4話 依頼

 迷宮の地下二層で、まさかのゴブリンからの仕事依頼を受け、私たちはもうマップをみるまでもなく覚えている通路を進んだ。

「おい、監視されてるぞ」

 肩に乗ったヴァンが小さくいった。

「気が付いてるよ。数は三だね。つかず離れずついてくる。地下二層の構造を考えると、オークが集落を作る場所は一カ所しかないね」

 それは地下二層の奥深くだった。

 迷宮では貴重な水場に恵まれ、住むには悪くない環境だった。

 私たちはそこを目指して、どこからともなく感じる気配に注意を払いながら通路を進んだ。

「おっと……監視が動いたぞ。集落が近い証拠だ」

 ヴァンが杖を構えた。

「この先一本道だもんね。地下三層への道からは外れているし、迷い込んだか攻撃にきたか。いずれにしても、見張りのオークが放っておくわけがない」

 私はアサルトライフルのセレクターをセミに切り替え、それとなく手に持った。

 私はカンテラの明かりを強くして、一つ息を吐いた。

 しばらく進むと、カンテラの明かりの中に、醜悪な外見をした人のようなものが三体浮かんだ。

 うなり声を上げ、何かの血に染まった棍棒を構えているのは、他でもないオーク三体だった。

「おい、俺が右をやる。呪文詠唱がない分銃の方が早い。残り二体はお前がやれ」

 今度はヴァンもやる気で、私の肩から飛び下りると素早く呪文を唱えた。

「もう、簡単にいって!!」

 私は銃の照準を真ん中の一体の額に合わせ、引き金を引いた。

 悲鳴らしい悲鳴も上げずに倒れた一体には目もくれず、三体目のオークが棍棒を振りかざして襲いかかってきた。

 大柄な体に似合って動きは遅く、私はその棍棒を避けると、オークを蹴り飛ばした。

 その反動で間合いを開け、私はアサルトライフルのセレクターを瞬時にオートに切り替え、適当照準で連射した。

 銃弾はその体にビスビスとめり込んだが、全く効いている様子はなく、オークも再び体勢を立て直して構えた。

「7.62ミリライフル弾でこれだもんね。頭を撃ち抜くしかないか」

 私は銃を構え、顔の辺りを狙って連射した。

 その瞬間オークが跳躍し、私に向かって棍棒を振りかざしてきた。

「うげ!?」

 私は反射的に大きく背後に跳躍してそれを避け、大振りして隙だらけのオークに向かって引き金を引いた。

 フルオートで放たれた弾丸は、オークの頭頂部を抉るように命中し、派手な出血と共にそれは倒れて動かなくなった。

「よし、倒した」

「フン、手間を掛けすぎだ」

 ヴァンが私の肩に飛び乗り、杖を構えた。

「これで挨拶は済んだ。一気にやるぞ」

「はいはい、どのみちもう元気な連中がきてるよ!!」

 私は銃を構え、肩にヴァンを乗せて先に進んだ。

 途中で何度も少数のオークに出遭ったが、肩に乗せたヴァンの攻撃魔法で粉々に吹き飛ばした。

「あのさ、いつもこれでいいんじゃない?」

「俺に甘えるな、今回は相手がオークだからだ。こいつらは、しぶといからな」

 シュルシュルと杖を回し、ヴァンは次に現れたオーク四体を粉々に砕いた。

「ほら、お前も仕事しろ」

「へいへい……よし、集落だよ」

 通路を簡単な柵で区切っただけのオークの集落は、上を下への大騒ぎになっていた。

 床に寝床の布きれを敷いただけという、家とは呼べない物が並ぶ中、私は鉈のような剣をかざして突っ込んでくるオーク十体に、フルオートで銃弾を叩き込んだ。

 三体は頭部にクリーンヒットして倒したようだが、今度は七体のオークと事を構える事になった。

「おい、魔法封印とか間抜けな事をいってる場合じゃねぇぞ」

「……それはどうしても出来ないな」

 フルオートで射撃を続けながら、私は苦笑した。

 そのうちさらに二体のオークが倒れ、残りは二体になった。

「ったく、なんの拘りだよ」

 ヴァンが攻撃魔法を使い、その二体を瞬時にして倒した。

「最初の一群はこれで倒したね。まだいるよ!!」

「分かってる。まるで獣みてぇなニオイだぜ。臭くて堪らん」

 私たちは集落内を駆け回り、出遭うオークたちを根こそぎ粉砕していった。

「これで何体?」

「二十五体だ。まだ気配がある」

 ここは通路が広くなって広場のようになった行き止まりだ。

 どこにも逃げ道はないので、奥に進むにつれて、オークの気配も濃くなっていった。

 しばらく進むと、奥から飛んできた矢が私の左脇腹を掠め飛んでいった。

「飛び道具もってるよ!!」

 ヴァンが防御魔法で結界を張り、私は明かりの魔法を複数あげて通路の奥を照らした。

 すると、通路を埋め尽くす勢いで、オークの大群がひしめいているのが見えた。

「うげっ!?」

「全く、手間がかかるな」

 ヴァンが呪文を唱え、私はフルオートで弾丸をばら撒いた。

 すぐにマガジンが空になり、私はリロードと叫んで手早くマガジンを交換した。

 一斉にダッシュして突っ込んできたオークたちのど真ん中で、ヴァンが使った攻撃魔法が弾け、大半のオークたちが吹き飛んだが、それでもまだ百体は下らないオークたちの群れが迫ってきた。

「これはヤバい!!」

 私はポケット手を突っ込み、手榴弾を取り出して投げた。

 爆発で何体か倒したようだが、ヴァンが攻撃魔法で吹き飛ばした数の方が、圧倒的に多かった。

「おい、元々俺たちだけでオークに喧嘩売るなんて無茶な話なんだ。いいから攻撃魔法を使え。そのうち、俺の魔力が尽きるぞ」

 ヴァンが鼻を鳴らした。

「……ったく、しょうがないな。今回は許してね」

 私は肩から提げていた杖を手に取った。

「遅いんだよ、早く片付けろ」

「分かってるよ」

 私は呪文を唱え大きく杖を振りかざした。

 杖からほとばしった強烈な魔力光と共に、向かってくるオークたちに派手な電撃が襲いかかった。

 オークたちは片っ端から黒焦げになり、その数を大きく減らした。

「よし、よくやった。残りは十体くらいだな、これくらいなら俺の魔法で吹っ飛ばせる」

 ヴァンが呪文を唱え、残るオークの固まりを吹き飛ばした。

「ほらみろ、お前が魔法を使った方が早いだろう」

「まぁね、でも今回は特別だからね。さすがに、死んだら元も子もないから」

 私は杖を肩に戻し、アサルトライフルを構えた。

「索敵やるよ。潜んでいたら、あとで厄介だから」

 ここに隠れるところなどないが、私は銃で掛け布団をはだけ、中に潜んでいないか確認して回った。

 特に問題なく索敵作業も終わり、集落を殲滅させた事を確認すると、私は一息吐いた。

「さて、あとはゴブリンたちに報告するだけだね」

「そうだな。全く面倒だったな」

 私の肩に乗っているヴァンが、小さく息を吐いた。

 私たちはきた道を引き返し、ゴブリンたちがいる二層階段付近に戻った。


 戻った私たちが報告すると、ゴブリンたちは喜んだ。

「これで自由に水が使えますし、食料も心配ありません。ありがとうございました」

 礼をいってゴブリンが差し出したものは、今では珍しい握りこぶし大のオーブという魔法道具だった。

「これだけでも、十分価値があるね。いいの?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、我々が持っていても役に立ちません。どうぞ」

 ゴブリンたちは迷宮の闇に消えていった。

 淡く光る水晶球のようなオーブという道具は、魔法を吸収して蓄える特性がある。

 このオーブはなにも封じられていないようだったが、この状態が一番価値が高かった。「フン、真っ新のオーブか。どこで略奪したんだかな」

「こら、そういう事いわない。事実だろうけど!!」

 私は笑った。

 ゴブリンは魔法を使えない。

 故にこんな物を持っていても役に立たず、どこかで奪ったものに違いなかった。

「まあ、お宝はお宝だな。ただ働きじゃないだけマシだ。このフロアにはなにもない。とっとと三層に向かう事を勧めるが」

「まあ、慌てない。そんなに掛からないし、一応ある程度は寄り道していくよ」

 私はゆっくり通路を歩き始めた。


 私はまず、先ほど殲滅したオークの集落跡に向かった。

 この地下二層で大きく変わったのは、この場所だったからだ。

「フン、迷宮の構造までは変わらん。元々、いつまらん行き止まりだ。なにもないと思うがな」

「まぁ、そういわない。変わったら探せ。これ、迷宮の常識だよ。急ぐ旅じゃないし」

 私は笑って、空っぽになった集落跡を、丹念にみて回った。

「迷宮の構造自体に変化はないか……」

「だからいっただろう。先に進むぞ」

 私は小さく息を吐いた。

「まるで、迷宮って器の中で魔物っていう駒を再配置しただけだよ。気味が悪いね」

「その謎を解き明かすんだろ。こんなところで遊んでいる場合ではない。今回は地下三十層が狙いなのだからな」

 私は肩の上のヴァンを撫でた。

「なんだ、珍しく怖じ気づいたか?」

「そんなのじゃないよ。分かったよ、先に進もう」

 わたしは苦笑した。

「フン、それでいい。次は地下三層だ」

 私は銃のマガジンを抜いて残弾をチェックし、ヴァンを肩に乗せて集落跡を出発した。 カンテラの光を頼りに通路を進み、程なく階段が見えてきた。

 気持ちの悪いことに、ここまで他の魔物と出遭っていなかった。

「このフロアの魔物、オークとゴブリンだけだったのかな」

「ゴブリンもそうだが、オークが集落を作っただけで、その階層は満員になってしまうだろう。なにしろ、数が多いからな。特にオークはやたら頑丈で、並の冒険者では倒すことが出来ない。全く、ギリギリのところでよく調整された感じだな。お前のいうとおり、ここは迷宮という器の中で、駒となる魔物を動かしているようにしか思えないな」

 ヴァンが面白くもなさそうに杖を振った。

 ちなみに、この迷宮では挑むもの全てを総称して、冒険者という。

 ひとたび入れば、冒険しかないからだ。

「だとしたら、私たち冒険者も駒かねぇ。どこの暇人だか。それを解き明かすには、もっと深くまで潜らないとダメか」

「そういう事だ。ガチ野郎どもは、人より一歩でも先に進む事しか考えていない。こんな些細な事、全く気にもしないから気が付かないだろう」

 ヴァンが鼻を鳴らした。

「それはそれで、迷宮の楽しみ方だよ。方向性としては、間違ってないし。それじゃ、階段の罠を解除するか」

 私はヴァンを肩に乗せ、地下三層へ続く階段の罠解除に入った。

「おっと、種類が変わってる。魔力式だね」

 階段の石に薄ら描かれた魔法陣をみて、私は笑みを浮かべた。

 これは、魔法陣を踏むことで作動する罠で、機械式では出来ない事をやってくる。

 一番怖いのは、どこに放り出されるか分からない「転移」の魔法だった。

「これならすぐ解除できる」

 私が呪文を唱えると、床が一瞬光って隠されていた魔法陣が消えた。

「よし、解除完了」

「まあ、相変わらずいい腕してるな。魔法封印といいながら、結構使ってるよな」

 ヴァンが呟くようにいった。

「正確には、攻撃魔法と回復魔法封印。色々あったんだよ」

「フン、俺には関係ない事だ。よし、いくぞ」

 私たちは、階段を下りて地下三層のフロアに立った。


 三層の階段を下りてすぐに、他のパーティーが食事を取るべくたき火を焚いていた。

「おっ、有名人がきたぞ。猫を相棒にソロでここに潜っているっていう、アデーレ・ミントスだろ?」

 暇だったのか、パーティーの一人が声を掛けてきた。

「なに、私って有名人なの?」

 私は笑った。

「度を超した迷宮オタクだって、酒場じゃ話題だぜ」

「そりゃどうも、褒め言葉だよ」

 私は軽く会釈して、その場を通り過ぎた。

「おい、なにか有名になるような事をしたのか?」

「特別になにもしてないけど、これでも女の子だからね。ソロで一年も迷宮に入り浸っていたら、嫌でも話題にはなるでしょ。そもそも、ソロで潜る人って変わり者が多いから、みんな注目するし」

 私は笑った。

「なんだ、そんな事か。つまらん」

「ヴァンがみていて、なにか特別な事やってないでしょ。迷宮の変化を細かく記録して差違を調べているだけ。確かに、迷宮オタクだね」

 私は笑った。

「まあ、俺はなにもいわんがな。なぜ迷宮に潜るのだ。ここに、目も眩むような財宝の類いがあるようには思えんが」

「名を売りたい、腕試しがしたい、なんか知らないけど、新しい場ができたら黙っていられない……色々だよ。この迷宮は少し変わっているからね」

 私は歩きながら笑みを浮かべた。

 通路に分岐点はあるが、この辺りは昼寝していても歩けるような場所だ。

 しばらく進むと、私は足を止めた。

「なんか、いい匂いしない?」

「うむ、腹が減る匂いだな。どっかでメシでも作っている大規模パーティがあるのか?」

 その匂いを頼りに進んで行くと、しばらく進んだ分岐の左側。行き止まりである方から強く匂いが感じ取れた。

「なんだろう、行き止まりでムカついてご飯でも作りはじめたのかな」

「そんなヤツはいない……とも限らないが、ごく少数派だろう。これを放っておく迷宮オタクではあるまい。俺は腹が減った」

 ヴァンが笑った。

「当然、なにやってるんだか……」

 私は正解ルートから離れ、左の分岐に進んだ。

 しばらく進むと、私は目を疑った。

 通路の行き止まりには、簡単であるが建物が建ち、『地下食堂』と書かれた看板が掲げられていた。

「しょ、食堂!?」

「うむ、想定外だな。誰だ、こんなところで店をやってるヤツは」

 肩にヴァンを乗せたままの私は、その食堂に急いだ。

 店の玄関を開けると鈴の音が響き、ウエイトレスのオバサンが迎えてくれた。

「いらっしゃい、よくきましたね」

「ま、待って、いつから食堂なんて出来たの!?」

 私はヴァンを床において、おばさんに聞いた。

「三日前です。主人が人と違う事がやりたいと。これだから、男の人は困るんですよね」

「ま、まあ、個性的ではあるね……」

 私は息を吐いた。

「ところで、せっかくお見えになったのです。なにか、召し上がっていってください。お客様第一号なので、サービスしますよ」

 おばさんが笑みを浮かべた。

「あ、ありがと……」

「こちらです、ご案内します」

 私は店内の席に案内された。


 席につくと、ヴァンが私を睨んだ。

「いいな、野菜だぞ。忘れたら引っ掻くからな」

「……うん、分かった」

 メニューを見ると、本格的な料理が並んでいた。

「オーダーいいですか。なんか適当な野菜サラダと、肉料理全部。あと、猫が食べても平気そうなやつも!!」

「……いい加減なオーダーだな」

 おばさんが笑みを浮かべた。

「分かりました、お待ちください」

 私は肩の銃器を下ろし、大きく伸びをした。

「食材の調達とか気になるけど、これはいい場所をみつけたな」

「うむ、こういう変異は歓迎だな」

 しばらくヴァンと話していると、巨大な器に盛られたサラダがやってきた。

「お待たせしました。お任せシェフサラダです」

 おばさんが器をテーブルに置き、厨房の方に向かっていった。

「……で、デカい」

「うむ、これでいい。全部食えよ」

 ヴァンが笑みを浮かべた。

「はぁ、野菜って損した気分に……あれ、これ美味しいよ。ドレッシングなんだろ?」

 口に広がるちょっと酸味が強めの味が、癖のある野菜とマッチしてなかなか美味しかった。

「これならいいや。いくらでも食べられる」

「俺にもよこせ」

 ヴァンが勝手に器に手を突っ込んで野菜を食べた。

「うむ、蘊蓄や能書きはいい。これは美味い」

「でしょ、なんで迷宮に。表でやったら繁盛すると思うけどね」

 サラダを食べ終えた頃になって、パンと肉料理が運ばれてきた。

「迷宮で肉料理だよ。堪らん!!」

「野菜を食ったから許そう。しかし、全部はないだろう」

 熱いのにヴァンが私のステーキを一切れ取った。

「うむ、地上で食うより美味いな。俺のメシはまだか?」

「知らん、美味しい!!」

 そのうちヴァンの料理も運ばれてきた。

「うむ、やはり魚だな。手を加えるのは僅かでちゃんと心得ている」

 ヴァンが魚を一切れ食べ、元々丸いがさらに目を丸くした。

「……お母さん」

「ぶっ!?」

 私は思わず吹き出した。

「コホン、なんか妙な回路がな。危険な料理だ」

「お、お母さんっていった……ヴァンのくせに」

 私は笑った。

「うるさい、俺にも母親くらいはいる。もっとも、七人兄弟の中で喋ったのは俺だけだったがな」

「そりゃ、いっぱいいたら怖いよ。ほら食べなよ!!」

「うむ、もう大丈夫だ。なんで、いきなり回想が……」

 こうして、私たちは迷宮の地下三層というロケエーションで、あり得ない食堂と出会ったのだった。


 たらふく食べて満足して、私はおばさんに会計のサインを出した。

「最初のお客様サービスです」

 おばさんが持ってきた伝票をみて、私は驚いた。

「安いね。そこらの大衆食堂並だよ」

 私は財布を取り出すと、金額に少し上乗せして料金を支払った。

「チップ込みね。またくるよ」

「はい、お待ちしています」

 私たちは食堂を出て、再び地下三層の通路に戻った。

「いや、全くこの迷宮は面白い!!」

「迷宮が面白いというより、ここにくる連中が面白いのだ。さて、この階層もめぼしいものはなかったはずだ。今回の目標は、俺たちの最高到達点地下二十層から下の地下三十層までだ。寄り道していては、食料や水がもたないぞ」

「分かってるよ。ここからは最短ルートで抜けよう」

 私たちは通路を進み、あっという間に地下四層への階段付近まできた。

「ん……なんかいる」

 私は銃を構えた。

「ああ、いるな」

 ヴァンが呪文を唱え、魔法の明かりが周囲を照らした。

 まるで、階段を塞ぐように立ちはだかっていたのは、魔法で作られた動く人形ことゴーレムだった。

 ゴーレムといっても種類は色々だが、辺りの材質に合わせて石で出来たストーンゴーレムだった。

 まだ作動範囲外らしく、ゴーレムは静かに佇んでいるだけだった。

「どう考えても、階段を下りる者の阻止だな」

「うん、他に考えられないね」

 ゴーレムというのは、単純な命令を一つだけ実行出来る人形だ。

 この場合、近づくものの阻止だろう。

 それだけで、事足りるはずだった。

「あれにライフルなんて効かないか。よし、射程距離を活かそう」

 私はマジックポケットから無反動砲を取り出した。

「うむ、アウトレンジ攻撃は基本だからな。今ならただの木偶人形だ。暴れる前に仕留めろ」

 ヴァンが肩から飛び下りた。

 その方に高性能榴弾を装填した無反動砲を乗せ、照準器を覗いた。

 ゴーレムは適当にぶっ壊して倒せるものではなく、その命令などが記された核を破壊しなければならない。

 それを仕込む場所は任意だが、命令伝達や防御のしやすさから、正面からは狙いにくいうなじに当たる部分と相場が決まっていた。

 私は首の部分を狙って、無反動砲の引き金を引いた。

 高性能榴弾は着弾と同時に爆発して、辺りに破片やら何やらをばら撒く砲弾だ。

 やや弧を描いた砲弾がゴーレムの首筋に命中し、頭部と胴体を爆発で叩き切った。

「よし!!」

 材質にもよるが、ゴーレムを倒すのはなかなか面倒な事だった。

 その巨体と頑丈さが、なかなか一般の武器を受け付けないのだ。

 しかし、動かない相手であれば、余裕で倒せた。

  立っていたゴーレムの巨体が崩れ、ただの瓦礫と変わった事を確認して、私は階段に近づいた。

 下りていたヴァンが肩に乗り、私たちは地下四層への階段にやってきた。

「よし、バリバリ進むよ!!」

「フン、やっとやる気になったか。遅いんだよ」

 私は慎重に罠を調べ、必要であれば解除して進んだ。

 程なく地下四層の通路に降り立った私は、小さく笑みを浮かべた。

「ここに立っているだけで分かる。ここは魔物だらけだね。帰りたくなるよ」

「フン、お前が帰るわけないだろう。やれやれ……」

 ヴァンが杖を構えた。

「それじゃ、楽しい遠足にいくよ!!」

「やる気になったらなったでこれだ。いいから、油断はするなよ」

  私は銃を手に、地下四層の通路を歩き始めたのだった。

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