第6話 バッハ

 「お前は何人だ?」と谷井が言う。

 「急にどうした?日本人だ。」

 「いやいや。そう思っているだけかもしれん!」

 「なんだそりゃ。」

 「IOCとかいう凄いところの偉い人、バッハとかいう人がこの国は中国だと言っていたぞ!」

 「そりゃ、間違えたんだよ。」

 「間違うはずないだろう!オリンピックの元締めだぞ!その人が中国だと言ってるんだから、中国なんじゃないか?」

 「いや、でも誰でも間違うことはあるだろ。」

 「間違う?そんな間違いは普通しないだろう。だからここは中国だ!」

 「あのさあ、谷井様。じゃ、あなた中国語しゃべれますか?」

 「ニイハオ。パンダ。シェイシェイ。」

 「誰でもそれくらい知ってるわ!大体パンダって動物の名前じゃないか!」

 「そうか。俺は中国語を話せない。ということは中国人ではないのか?」

 「ないのか?じゃないよ。日本人だよ!」

 「すると、バッハが間違えたのか。じゃ、馬鹿だな。」

 「うっかりしたんじゃないの?」

 「うっかり間違えるか?そうだ、やはりバッハは馬鹿じゃないぞ。おそらく日本を中国の領土にしようとしている中国の手先だな。」

 「そんなことはないって!」

 「どうして断言できる?まあいい。あまりこの話に深入りすると二人とも消されてしまうかもしれないからな。しかし、バッハはすごいな。名曲を作曲したりオリンピックを仕切ったり。」

 「作曲家のバッハとは違う人だよ。」

 「ええっ!違う人なのか?」

 「違うにきまってるだろ!作曲家の方は確か1700年くらいの頃の人だよ。」

 「長生きかもしれん。」

 「300年以上生きる訳ないだろ。ゾウガメじゃないんだから。」

 「ゾウガメにできるなら人間もできるかもしれん。」

 「何の話をしてるんだ?とにかく作曲家のバッハとは違う人です。」

 「そうか。残念だな。しかしまあ。」

 「しかしまあってなんだよ?」

 「なんで東京でオリンピックやるんだっけ?」

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