第5話 オリンピックに出る
「オリンピックに出場する!」谷井が叫んだ。
「急にどうした?」
「出場することに意味があるのだ!」
「待て。話が飛びすぎだぞ。」
「俺は跳躍競技に出るつもりはない」
「その飛ぶじゃない。お前の言うことが飛躍し過ぎだと言ってるんだよ」
「邪魔する気か?」
「そうじゃない。でも大体、谷井、お前スポーツなんかしてないじゃないか」
「時々ゴルフに行く」
「お前ゴルフやるんだっけ?」
「やるんだっけとは何だ!年に2、3回行く」
「それだけか?」
「それだけだ」
「ベストスコアはいくつなんだ?」
「146」
「下手くそじゃないか!アマチュアの中でも下手くそだ。コースに出たら他の人に迷惑なくらい下手じゃないか」
「下手、下手とうるさい。賞をとっているんだ俺は!」
「賞!?何の賞だ?」
「大波賞とか言っておったな」
「大波賞?そりゃお前前半より後半がスコアが良くなった人がもらうやつだろう。お前いくつだったんだ?」
「85、61だ」
「話にならんな」
「何だと!24も縮めたんだぞ!プロでもこんなに縮める奴はおらんだろう」
「いるか!プロはアンダーパーで回らなきゃ勝てないんだ。ハーフ36だとして、24縮めたら後半12じゃないか!9ホール全部ホールインワンで回るようなスコアだろうが!」
「それだけ俺は凄いんだな?」
「どういう頭してんだ!とてつもなく下手なんだよ!」
「オリンピックは参加することに意味があるのだよ」
「参加しようがないだろ?分かるか?」
「参加できないのか?」
「真面目に聞くな。世界ランキングだとか、予選会だとか、選考基準があるに決まってるだろ」
「差別だな」
「差別じゃないだろ。誰でも彼でも参加させたら収拾つかないだろ?世界最高レベルで競うから価値があるんだ」
「俺が世界記録を出すかもしれないじゃないか!その可能性をはなから潰すとは非道だ!」
「いやいや、だから可能性を判断する手順がきめられているのだよ」
「誰が決めたんだ?」
「よく知らないけど、IOCとかオリンピックに関する機関が色々あるから、そこで決めてるんじゃないのかな?」
「そいつらは信用できるのか?」
「よくわからないけど、世界の国々が認めてるからな」
「お前自身では確認してないんじゃないか。そんなもの信じるのか?」
「世の中のもの一つ一つ全部確認なんか出きる訳ないだろ」
「信用できるかどうかわからんところが東京でオリンピックやると決めたら、転がり回って喜んでたじゃないか。何だかよくわからんな」
「そんなに悪く言うなよ。4年間オリンピックのために必死で努力して、本番で全力で一生懸命の選手の姿を見ると感動するだろう?」
「俺も全力で一生懸命ゴルフやってるけどな」
「そうかもしれんけど、やっぱり一流の選手は普通の人とは違うんだよ」
「俺も普通の人とは違うぞ。ティーショットで林に打ち込んで、グリーンに着くまで同じ組の人とは1度も会わなかったりするぞ」
「物凄く下手なだけなんだよ。大体それじゃテレビに写らないだろ?」
「テレビに出るためにゴルフをやってるのではない」
「お前と話してるといつもぐちゃぐちゃになるな。要するに、オリンピックに出たいんだな?何で出たいんだ?」
「一言では言えん」
「そんなに色々あるのか?」
「人間が何かするときには、複雑な要因があるに決まっとろうが!」
「た、そりゃそうだな。お前も色々ある訳だ」
「うん。だけど何だな」
「どうした?」
「オリンピックって、何のためにやるんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます