第6話 長所と短所

 「おい」谷井が呼ぶ。

 「俺の長所と短所はなんだ?」

 「何を急に言い出すんだ?」

 「就職する!」

 「え!お前がか」

 「他に誰がいるんと言うんだよ」

 「就職はいいけど、お前何が出来るんだ?」

 「呼吸している」

 「呼吸しなきゃ死んじゃうだろ!それに呼吸できるから雇ってくださいと言うつもりか?」

 「変?」

 「「変?」とかいうレベルじゃないよ。怖いよ。誰がそんなことを言う奴を雇うんだよ!」

 「そんなことだから、社会が良くならないのだよ」

 「どうして、そんな話になるんだよ。俺の言ってるのは資格とか経験とかのことだ」

 「人間の決める資格など俺には通用しない」

 「通用しないって、言葉遣いがおかしいだろ?」

 「お前も俺と長年付き合ってるんだ。俺に適した仕事を言ってみよ」

 「言ってみよって、何様だお前。お前にできそうな仕事かあ・・・」

 「何悩んでんだ?」

 「悩むだろう、お前が働いている姿など想像ができないからな」

 「けしからーん!想像できないとはなんだ!俺は善良な市民だ」

 「自分で善良なんて言っている奴は信用できんけど、まあいいや」

 「まあいいとはなんだ!」

 「いちいちうるさいな。分かった分かった」

 「分かったは一回でいい」

 「分かった分かった」

 「分かっとらーん!」

 「うるさいな。では、聞くけど」

 「うん、なんだ?」

 「お前の長所はなんだと思う?」

 「長所?」

 「そう。人より優れていると思うところとか、特技とか」

 「人より優れているところだと!わかりきったことを聞くな!」

 「何を興奮してるんだ。落ち着け」

 「興奮などしとらん。あまりにも明々白々ではないか!」

 「明々白々?わからん」

 「嘆かわしい!こんなことで人類は、地球の未来は大丈夫なのか!?」

 「いいから早く教えろ」

 「偉大な人間であることだ」

 「本気で言ってるのか?偉大って何が偉大何だ?」

 「偉大をつべこべ説明などできん!そんなこともわからんのか!説明できないから偉大なんだ!」

 「わかったよ。偉大なんだな。じゃ長所は偉大なこと。短所は?」

 「短所?そうだな、敢えて言えば、俺が偉大であることを誰も理解しないことだな」

 「幸せに暮らしてくれ」

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