第3話 時間について会話する
「お前は何を言ってるんだ」谷井が怒る。「あの時俺があー言った、こーやったとかうるさいんだよ」
「しかし、お前は、好き勝手なことをやり放題で俺はけっこう迷惑してるぞ」
「ふん。俺が何をしたんだ?何を言ったんだ?証拠を出せ!」
「証拠?」
「はは!そんなものはありゃせんだろ?濡れ衣だ!」
「あのなあ、お前が言ったり、やったりしたことを、いちいち記録などせんわ」
「記録するに値しないということは、どうでもいいことということだ。つまり、俺は何もしていないということだ」
「わかったわかった。もういい」
「大体、過去になどこだわるからお前は駄目なんだ。過去は存在しないのだ!」
「そんなことはないだろう。人は過去から学ぶんだし、過去を反省して進歩するんだろう」
「はっ!どうにもならん馬鹿だなお前は!過去から何を学ぶんだ?今のこの世を見てみろ!過去から学んだ末が、この体たらくなのか?何も学んじゃいない。人間というのは、常に愚かなのだよ。愚行を繰り返しているのに、進歩だと妄想しているか、進歩してないと言ったら情けないので、進歩したと言い繕ってるだけだ」
「そこまで、ひどく言わなくてもいいだろう。進歩してると俺は思うよ」
「ふん!未練がましい奴だ。では聞く、過去はどこにある?」
「どこって、そこにある、ここにあるというものじゃないだろう」
「ほらみろ、無いんじゃないか」
「いやいや、ここにこのようにあります、というもんじゃない、と言ってるんだよ!」
「そんなことで誤魔化されるものか!こうです、と示せないのに存在するだと?何を言ってるんだか、ちんぷんかんぷんだ」
「いや、例えば戦争体験を語り継いで戦争の悲惨さを伝えるということは、過去を伝えているんだから、過去はあるだろう?」
「なるほど」
「おや、珍しく納得したようだな」
「だけどですね」
「急にどうした?妙に大人しくなったな」
「だけどですね、世界の国は軍事力拡大の一方じゃないですか?核兵器なければ国を守れないという国もあるじゃない?過去から学んでますか?どうして学んでいると言えるんですか?軍事力が国の存続の基盤であることは過去から一切変わってないですよね。ということは何の役にもたっていないことだ。なら、無いのと同じじゃないか!それでも過去はあると言うんですか?」
「気味が悪いな。でも過去を教訓にしようと努力してるよ」
「ふん。すべて現実が答を出すのだからな。どんなに理屈を言っても。そして、過去とか未来とかそんなこと言ってるのは暇人だな。それも現実が証明する」
「何だか、変な終わり方だな」
「これが現実だ」
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