第2話 密林の冒険

 土色のねっとりとしたようなクリークを谷井と二人でカヌーで遡って行く。じっとりした風。

 「おい、谷井よ、どこに行こうとしているんだ?」

 「お前は本当に馬鹿だな。どこに行くかわからんから、冒険と言うんだ」

 「俺は冒険なんかしたくない」

 「情けない!人生は冒険だ!爆発だ!」

 「最後のは誰か有名な人の言葉だろ。とにかく、ここはどこなんだ?」

 「知らん!簡単に分かるか!」

 「おい!見ろ!」

 俺は叫んだ。30メートル位先の左側の川岸に、大きな猿のような、人間のようなものが3頭?3人?座っているのだ。

 全身毛で覆われているが、顔はゴリラより人間という感じ。毛は茶色なのだろうが、川岸の泥で灰色にくすんでいる。そして顔も灰色だ。目も灰色に見える。

 「おお、やはりいたか」谷井が言う。

 「お前、ああいうのがいるというのを知っていたのか?」

 「知らん!」

 「じゃなんで、やはりいたか、なんて言うんだ?」

 「ああうるさい。いるんだからしょうがないだろ」

 3人はのろのろと立ち上がって、灰色の目をこちらに向けた。そして、やはりのろのろ大儀そうに森の中に入って行った。

 「追跡するぞ!」谷井が言う。

 「本気か?ジャングルのなかだぞ。それにあいつらが狂暴だったらどうするんだ?」

 「狂暴ではない」谷井が断定する。

 「何で狂暴じゃないとわかるんだ?」

 「なんとなく」

 「なんとなくで、俺を巻き込むな!どうしても行くなら1人で行け!」

 「冷たい奴だな。親友じゃないか?」

 「親友?俺とお前が?いつもお前が勝手なことを言ったり、やったりして、俺を巻き込んでるだけだぞ!」

 「そういうのを親友と言うのだよ。とにかく行こう!」

 谷井はカヌーをさっき猿人(?)のいた川岸に乗り上げ、俺の腕を凄い握力でつかんでジャングルの中へ入り込んで行く。

 大木、蔓草、キーキーという鳥の声、蛇、蛭などなどテレビ番組で見る典型的なジャングル。テレビで見ているからそう見えるのか、ジャングルってそういうものなのか、よくわからない。妙に現実感がない。

 ジャングルの奥に入って行くと、いやーな感じ、不快感が強くなってくる。やはり人間がいるべきところじゃない。強く強くそう感じてくる。

 奥は鬱蒼としているのではなく、変に神経に障る色彩が増えてくる。そして妙に騒がしくなってくる。

 「おい、向こうが明るくなってるぞ!」俺は叫んだ。

 しかし、ここからジャングルは行く手を阻んだ。真っ直ぐ明るい方に行ってるつもりが、元に戻ってしまったり、逆に遠ざかったり。

 「磁石が狂ってる!」谷井が叫ぶ。「狂ったジャングルだ!もうどうしようもない」

 「諦めるな。とにかく歩こう!!」

 俺たちは必死に突き進んだ。

 まったく突然、視界が開けた。

 二人とも舗装された地面に転がり出た。異形の人の群れ。こわい。

 ここはどこだ?見回すと。

 ハチ公の銅像があった。

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