そいつは谷井保治という

Aba・June

第1話 ボリバリ来襲

 「ボリバリが出現した!」と谷井が叫んだ。「危険だ、危機だ、テリブルだ!地球が危ない!」

 「ボリバリって何だ?」僕は尋ねる。

 「そんなことも知らんのか。知らんのか。知らんのか。よくこれまで生きてこれたな。天晴れ、仰天、鳩ポッポ、お前はマメが欲しいのか!」

 「何で鳩が出てくるんだ?ボリバリと関係あるのか?」

 「鳩だと!ボリバリと何の関係があるんだ!」

 「お前が言ったんだろうが、谷井」

 「まあ落ち着け」

 「落ち着くのはお前の方だろうが。で、ボリバリって何なんだ?」

 「言葉では上手く言い表せんな。絵に描くか。」

 「お前、絵に描けるのか?」

 「描けん!」

 「できないなら言うな。大体お前の絵なんて見たことないぞ」

 「できないことを言ってはいかんのか?」

 「そういうことを言ってるんじゃない。問題はボリバリが何かということだろう」

 「上手く誤魔化したな!人はできないと思われることに挑戦せねば進歩しないのだ。いや、進化しないのだ!俺が絵を描こうとするのを止めるのは人類の進化を止めることだ!わかっているのか!」

 「谷井様、あなた様は結局ボリバリの話をする気はないんだね?地球の危機なんて、でまかせなんだな?」

 「侮辱である!無知蒙昧な輩にそんなことを言われる、世も末であるぞ!貴様は一体何の話がしたいんだ!?」

 「それは、こちらが言う台詞だ。ボリバリの話をし始めたのは谷井、お前だろう?」

 「あれは、俺がまだ五歳の頃だった。実に奇妙な体験だった。俺はいつの間にか空中に浮いていた。いや、凄いスピードで飛んでいた。空中?いや違うな。太い筒のような中を凄いスピードで移動していた。そして突然眩い光に包まれた。」

 「何の話をしてるんだ?」

 「気がつくと俺は花畑の中に立っていた。とても幸せな気持ちだった」

 「臨死体験を書いた本で読んだことがあるぞ。谷井、お前死にかけたことがあるのか?」

 「愚か者め!人間は常に死と共にあるのだ。いや、本当は今、死後の世界にいるのに、生きていると勘違いしているだけかもしれん。」

 「やけに哲学的な話を始めたな。それとボリバリと関係があるのか?」

 「慌てるな。慌てる乞食は貰いが少ないぞ。」

 「最近あまり聞かない言い回しだな。」

 「人類は死の危機にある、いやもうすでに死に絶えてしまったのかもしれん。」

 「それはボリバリのせいなのか?」

 「慌てるなと何度言えば分かるんだ、お前は。温暖化が進んでいるだろう?」

 「温暖化のことをボリバリと言っていたのか?」

 「そんな単純な話ではない!それに、俺は寒いのは嫌いだ!暖かいのがいい!」

 「地球温暖化はもっと深刻なものらしいぞ。よく知らないけど。」

 「よく知らんくせに、よくいけしゃあしゃあと偉そうに言えたもんだな!?呆れるわ!温暖化などという言葉では言い表せないのだ。大体だな、地球には氷河期があったり、あったかくなったりさむーくなったりしてきたのだ。何を騒ぐことがあるんだ?」

 「今問題なっている温暖化は人間のせいらしいぞ。だから何とかしなきゃならんということなんだろう。」

 「これまで散々好き勝手やって来て、何を今更騒いでおるのか!自分で蒔いた種だ!自業自得だ!滅びるがよいのだ。」

 「それじゃあ困るから、今からでも何とかしようとしているんだろう?」

 「何をするんだ?快適な暮らしをやめられるのか?日が暮れたらみんな寝るのか?できもせんことを言うんじゃない!!」

 「谷井さんよ、ちょっと極端過ぎますよ。落ち着きなさい。」

 「温暖化が進むのに落ち着いていられるか、馬鹿!」

 「お前、支離滅裂だぞ。少し冷静になろう。」

 「冷静になったよ。」

 「はやいな。で、ボリバリって何なんだ?」

 「人類には死ぬ自由がある。滅亡する自由がある。なんと素晴らしいことだ!もうすでに滅亡を選択したのだ。何を騒いでおるのか」

 「話についていけんな。滅亡を選択したって言うが、どういうことなんだ?」

 「つくづく幸せな奴だな。どう見たって滅亡しようとしているではないか!」

 「例えば、どんなことだ?」

 「上手く言えん!」

 「言えないのか!じゃ、何でそんなに偉そうなんだ?」

 「偉そうなんじゃない。偉いんだ」

 「はいはい。偉い偉い。」

 「馬鹿にしてるな!」

 「馬鹿にするも何も、何の話なのか訳がわからなくなったよ」

 「おい、一つ聞いていいか?」

 「何だ?谷井様」

 「ボリバリってなんだ?」

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