第2話「下腹部タトゥーという哲学」
下心があるかと言われれば、下心しかないというしかないのだが、恋の下にある心は下心である。
サキュバスコスのおねぇさんは、間違いなくつぶれていた。おそらくお酒を飲み過ぎたのだろう、首を下にもたげたまま、尻を地べたにつけている。一目見てスタイルが超絶なのはわかったが、残念ながらお顔は拝見できない
これは声をかけて介抱してラッキースケベを期待するしかない展開だと、俺はそう確信する。顔は見えないが、この際メイクして美人ならば何の問題もない。
「あの、大丈夫ですか、こんなとこでつぶれてたら危ないですよ」
俺はやさしく声をかけた。下心メインは間違いないが、純粋に心配がないわけでもない。この格好で眠っていたらどんな目に遭うかわかったもんじゃない。むしろ今までよく、無事でいたものだ、俺が持っているエロ漫画の展開ならとっくにやられてしまってるだろう。
ところがサキュコス女は声をかけるだけでは起きてくれなかった。
仕方なく、ドキドキしながら俺は手を伸ばして、肌がむき出しの肩をつかみ、体を揺らす。
「起きてください、こんなとこで寝てたら危ないですよっ」
その時、女は顔をあげこちらに向けて瞬間、彼女は眼を見開き目と目が合った。
やべぇ、すげぇ美人だ。
とんでもねぇ、見たことがない位ととのった鼻と、そして大きくてきりっとした目、プルるんとした唇。カラコンをしてるのか瞳の色がグレーがかってるのも男心、というか俺心をくすぐった。
「……みえるの?」
女はそういった。
「……あっ、起きましたか。よかった」
確かに女は「見えるの」と聞いたがそれには答えず、俺は寝言だと判断した。
「助かったわ」
女はそういうと目を閉じて、そして何を思ったのか、急に顔を俺の顔に急接近させた。
近い、近い、心臓パーンいくわっ!
さらに間をあかずして、サキュコス女の唇が俺の唇に重なった。そして彼女の手は俺の首の後ろに回り、長い舌が俺の唇をこじ開けて強引に口内に侵入してきたのだ。
いきなりディープ!
くっそ、いきなりと言えばステーキしか思いつかなかった自分の人生経験の薄さが悔しい。いきなりディープ、そんな素敵なワードがこの世にはあったのである。
あーぁ、イーハトーヴ。
一瞬のことで俺は真っ白に、そして溶けてしまいそうになった。
「ここじゃいやよね」
サキュコス女は、その甘い唇を俺の唇から離すと、手首をつかみ俺を引っ張り出した。
「……ど、どこへ」
「どこかよ、天国かしらね」
そのまま俺は引きずり込まれ文字通りどこかへ連れていかれる、現実なのか、それとも夢なのか、俺の感覚が確かならば、俺がいつの間にかにクスリをキメテいたとかでなければ、サキュコス女は、自分が寄りかかっていたビルの壁をすり抜けたように思うし、俺もまたそこをすり抜けたように思う。
そしてその先には固いベッドがあった。
目の前では限りなくきわどいサキュバスコスプレをした女が、ベッドで待ち構えている。下半身は大切な部分しか覆われていないし、それすらも毛の処理をしていないのであるならば、毛が見えてしまってるんだろうというレベルである。
そして下腹部に大胆に彫ってある幾何学模様の刺青がまた悩ましかった。
上半身は極小ビキニであり、胸の下のふくらみは姿を隠す気もない、つまりは下乳が丸見えだ。そして体の細さに比べて、至宝の大きさはもはや国宝級であり、俺が総理大臣ならばこの至宝を有形重要文化財、いや無形に登録しただろう、うむ、とても大きくて壮大である。
「黙ってみてないで早く来て」
艶やかな瞳で、サキュコス女は俺にせがむ。
そうはいっても俺に何ができるだろう、欲望のままにとびかかるべきだろうか。
どっちつかずで躊躇してるとさらに彼女は問いかける。
「もしかしてこういうことはじめてなのかしら?」
そう聞かれて、俺は黙ってうなずいた。
もはやなすがままである、ただお相手様の機嫌だけを失いたくないとそう考えた。
「そうじゃあ、今からは最高の初体験になるわ。普通の人間が味わえない快楽をあなたに教えてあげるわ、ふふふ」
意地悪な声と目つきで俺に彼女は語りかけた。
普通の人間が味わえない?
「な、なぜ」
な、なぜだろう。
俺は同時に恐怖も覚えた。
だから思わず俺は、なぜとつぶやいてしまったのである。
そして次の瞬間ぞっとするような、それだけれども決して心地の悪くない音で囁いた。
「代金があなたの命だからよ」
命、確かに彼女はそう言った。
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