三頁目/異端少女【外注概念所属】

救うことは出来なかったかもしれない。

でも、せめて、一緒に墜落することは出来たはずなんだと、そう思いたいんだ。

それぞれがひとりきりになったまま落下死するよりは、その方がずっと穏やかだから。

――勘違いしてんじゃねえ。お前が私を閉じ込めてるだと? お前がいたら私は飛べねえってのか。んだったら飛べなくていいさ。私はお前とじゃなきゃ墜落するんだよ。お前が墜落するってんなら、私も一緒に落ちてやる。私を解き放つのが私の幸せだとか、ふざけたことぬかせ。それはお前の勝手だろうがよ。くだらねえ結末にほだされてるんじゃねえよ。

ほら、翼がないぶん、身軽になった。


現実に飼い殺されるのさ。そのぶん、死ぬことにも興味がなくなっちまえるんだと。死ぬことには、な。


「これが分岐だとわかっていた。私は聞こえないフリをした」

理由なんて言語化していない。でも、そうあるべきではないと、私は、私の手で、私の未来の希望を潰し続けた。手首を切るのと同じ手軽さで、私は、将来を無価値と判じ続けた。願っていながら、笑っていた。狂っているあの人たちと同じにはなりなくなかった。間違ったのは、本当に、素晴らしいままに・飾り立てて・輝かしく、終幕としたかったから。

で、お前は、今も同じ過ちを犯し続けているよね。直感的に。

どっちどこを選んでも、間違ってるんだけどね。


もはやそれは遅すぎた。それを観測出来うる時点で、最初から既に私には手遅れだったのだ。

年老いた若人に、そんな願いは遅すぎて、俗っぽいだいすきな願いを遡上できなくて、だから、諦め切ったようにシニカルな笑みを浮かべることしかやっていない。

享受の許されぬ器にて。

足蹴にした現、幻想ばかりを追い駆ける。呪詛は現。紛れもなくただひとつの


絆創膏に滲んだ血を見た。二の腕に突き刺さった針の傷から溢れた己を視た。覚えた吐気を咳き込んで誤魔化す。消毒液の甘ったるい匂いを消すには、安物のエスプレッソが一番だ。周期的に身体を沈める痛みと怠さと僅かだけの血が、私が女である証左だ。生命を、飽和した自分らしさなんてものに求めた端から可能性が不在であると気が付いた、私だけの痛みだ。奪え、取り戻せ。


歪にして。


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