第36話 『フナムシ』

小学三年の夏休み。


テトラポットの上で

釣りを楽しんでいると


仕事終わりの漁師が声をかけてきた。


「おい、ボウズ。

 フナムシには

 気を付けろよ」


ニヤニヤしながら言う。


「どうして?」


そうたずねると、


「アイツら、

 おまえがじっとしていると

 近寄ってくるだろ?」


「うん」


「でも

 おまえが動くと

 サササって

 逃げてくよな」


「うん。逃げてく」


「なんでだと思う?」


「なんで?」


「アイツらな、


 おまえを

 喰おうとしてるんだよ」


「えッ!

 どうして?」


「アイツらはな、


 海で死んだ人間を


 何度も喰ったことがあるんだ。


 だからな、


 おまえのことも

 食い物だと思っているのさ!


 もしも

 そんなところで昼寝でもしてみろ。


 耳の穴や

 鼻の穴から中に入られて


 目ん玉の裏側から

 飛び出してくるぞッ!」


漁師は

いやらしく笑った。



その日の夜、

絵日記に

昼間のことを書こうと思ったら


「気持ち悪いから

 やめなさい」


と母親に

しかられた。

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