第16話  『のどかな風景』

とある公園に

大きな池がある。


休日ともなれば

多くの家族でにぎわう

都会のオアシスだ。


しかし

特に深くもない

その池で

なぜか

死亡事故が

何度か起きた。


親がすこし目を離したときに

幼児ばかりが

溺れて亡くなったのだ。


池は

フェンスで囲まれており、


幼児がひとりで

越えるには無理がある。


不審者の目撃情報もなく

いつしか


〈呪われた池だ〉


とウワサに

なってしまった。


それで役場は

池の周囲に防犯カメラを設置することで

対処しようとした。


だが、

それからしばらくして


また

幼児が溺れて命を落とした。


警察官はさっそく

防犯カメラの録画映像を確認した。



池の脇を

母子が歩く。


風で母の帽子が飛び、

あわてて追っていく。


幼児がひとりになる。


そのとき。


池の端から

白い影がすべってくる。


水面を

ものすごい勢いで。


「あぁッ!」


警察官が叫んだ。


白鳥。


白い影の正体は

大きな

白鳥だったのだ。


フェンスの脇に立つ幼児の服に噛みついた白鳥は

その子の体を一気に持ち上げ

池の中に引きずり込んだ。


そしてそのまま

水中に沈めて逃がさない。


もがく幼児によって乱れる水面。


しかし、

やがて幼児が動かなくなると


気が済んだのか、

飽きてしまったのか、


何事もなかったかのように

白鳥は水面をすべっていった。


あとはそこに

幼児がプカプカ浮かんでいるのであった。



町の中にいる鳥で

一番危険な鳥は


カラスなどではなく

白鳥であるという。


白鳥による

殺人事件は


世界中で

報告されている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る