第12話 クリスマスなんて大っ嫌い!
私はいつの日からか、クリスマスに生まれたことが嫌で、嫌でたまらなくなった。
思い出しても、いいことや、得したことなど何もない。
まずクリスマスが誕生日だと、誕生日会もついでのようになってしまう。
子供の時に家で出されるケーキだって『Merry Xmas』と書かれている、サンタクロースの人形が乗ったケーキの隙間に、むりやりバースデープレートが載せられていたし、プレゼントも貰えるのは一つだけ。
お兄ちゃんもクリスマスプレゼントは貰っていたから、私のプレゼントは誕生日なのか、クリスマスなのか分かりやしない。
皆んなは誕生日会だと家に友達を呼んでいたが、私の場合は皆んなの家でもクリスマスパーティーがあるから、誰も来られない。
だからいつも、クリスマスが来るたびに憂鬱な気分になり、『あと一日遅かったら、プレゼントも二つ貰えたかなぁ』なんて考えたこともあった。
特に嫌なのは、クリスマスムードの中に私の誕生日が紛れ込むと、他人に気を遣わせててしまうこと。
今日だって、大学の友達である美香に何回謝られたか……今年の夏、私は美香の誕生日を一緒に過ごし、どうしても食べたいと言っていたパンケーキを奢った。
その後に美香には彼氏ができて、お返しすると言っていた私の誕生日がクリスマスなのを思い出すと、苦笑いをしていた。
それはそうだ、世の中のカップルがデートをしている時に、友人の誕生日など祝っている暇などない。
朝も、昼も、帰り道でも、LINEのメッセージでも『ホントにゴメン』と言われる度に、私は虚しくなるばかり。
一番虚しくなったのは高校生の時に働いていた、ファミレスのアルバイトだ。
大学生のアルバイトがクリスマスは誰もシフトを入れなかったから、店長は私に頭を下げてまで『出勤して』と言ってきた。
彼氏がいたわけでもないし、家で誕生日会なんて歳でもないから、私は店長からの頼みを受け入れた。
そして当日、私と同じように頼まれて出勤していた女の子が、SNSを見て私の誕生日を知ったらしく、『誕生日なのに、よく出勤したね』と言ったのを、店長が聞いて慌てていた。
履歴書に生年月日を書いたからといって、一人一人の誕生日なんて覚えてはいないだろう……きっと、私なら彼氏もいないからクリスマスでも出勤できると思って頼んだはずが、誕生日だと知って気まずくなったのか、『ゴメンね、ありがとう』の言葉を繰り返していた。
そして休憩時間には、何の味がするのか分からなくなりそうなほどにフルーツで飾られた、特大パフェを私にくれたが、たとえ店長からの好意であっても、それを事務室で休憩しながら一人で食べるのは、虚しさしかなかった。
それから私は二度と誕生日が告知されないように、SNSに登録した誕生日を非公開に設定した。
東京の大学へ入学するために静岡から出てきて一人暮らしを始め、今年は二度目のクリスマス&誕生日。
サークルのクリスマス会にも誘われたが、もし私の誕生日だと知られて気を遣わせるのも嫌なので、参加を断った。
私の誕生日会なら主役がいないと始まらないかもしれないが、クリスマスがメインならば、私がいなくても関係ない。
美香以外は誰にも誕生日など伝えていないから、東京の人たちにとって私は、生まれた日のない女。
誕生日だということで、お父さんから銀行の口座にお金が振り込まれていた。
『誕生日おめでとう』と書かれた後に、『離れていてプレゼントできないから、それで洋服でも買いなさい』と、LINEのメッセージが送られてきたが、クリスマスに自分のプレゼントを自分で買うほど、虚しいことはない。
それどころか、何を買うにも虚しさを感じてしまう。アパートの部屋に帰って来る途中、何も食べずにはいられないからコンビニに寄ったが、クリスマスに一人で食べるお弁当を買うのも虚しいし、大好きなスイーツを買うのすら抵抗がある。
クリスマスの夜に女一人で過ごすことを気にしなくても、私には誕生日まで乗っかってくる。
明日にはれば、牛丼だって、カップ麺だって、わらび餅だって、何も迷わず買えるのに、今日だけは手を伸ばせない……
空が暗くなりかけた帰り道では、デートスポットでもない場所にイルミネーションなどやめてほしいと思うほど、私は今日が嫌だった。
きっとクリスマスが誕生日でなければ、こんなことは思わなかっただろう。
クリスマスだけなら、アルバイトだって出勤するし、サークルのクリスマス会にも参加するし、コンビニのスイーツだって迷わずに買う。
でも、私の誕生日はいつだってクリスマスのおまけで、クリスマスのついでで、イエス・キリストという私よりも大きな存在の、盛大な誕生日会にかき消されてしまう……だから私は、毎年心の中で叫んでいた。
『クリスマスなんて大っ嫌い!』
きっとこれからも私は、クリスマス会があっても誕生日会などしてもらうことはなく、彼氏ができたらプレゼントは一つでいいのかと悩ませ、結婚して子供が生まれたら自分の誕生日など忘れて、クリスマスプレゼントのおもちゃを買いにいくのだろう……
それで何かの記入用紙に生年月日を書く度に、『あれ?私、何歳になったんだっけ?』なんて思う時が来るんだ……
そんなネガティブなことを考えながらも、折角父からプレゼント代を貰ったのだから、ネットで洋服でも買おうと思いながらスマホを見ていると、LINEに美香からのメッセージと写真が送られてきた。
それは、大学の近所に飾られているクリスマスツリーの写真だった。
『今、ここにいるから来れる?』
彼氏とデート中のはずだから、何の用があるのか知らないけど、二人でいる場所に立ち入りたくはない。
『何で?彼氏とデート中でしょ?』
私が送ったメッセージは直ぐに既読となり、続いて返信が来た。
『友達が今日、誕生日だって話したら、予約していたレストランに二人で行ってきなだって!だから早く行こう!ハッピーバースデー!』
どうやら私は、また人に気を遣わせてしまったようだ……でも、美香が私の誕生日を気にしてくれたことが嬉しくて、この誘いを断ったら、これから毎年クリスマスの日には、神様の前で懺悔をしなくてはならない……と思った。
『ありがとう!すぐ行くね!』
美香にメッセージを送った私は、急いで一番お気に入りの服に着替えると、ネガティブな気持ちを置き去るように家を出た。
今日で二十歳になった私は、生まれて初めて飲むお酒を、美香と乾杯した。
美香の彼氏はサプライズが上手いみたいで、お店に問い合わせて私のバースデーケーキまで用意させていた。
「ごめんね……彼にまで気を遣わせて」
「気を遣う?私も彼も、誕生日のお祝いをしたかっただけだよ」
初めてお酒を飲んだからか……私が涙を流すと美香は、「何、もしかして泣き上戸?」と言って笑った。
〜クリスマスなんて大っ嫌い!〜
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