第29話 削り削られ、その果てに――
「イルロイドの要素もあるみたい、だね」
デルーターの周囲に射撃武器というか銃のような形状のものが異常発生したけど、どれを見ても骨のように白いボディに半端に明るい青緑の眼球のような部分……更には黒過ぎて紫色なのが判らない部分がある所まで共通してるので私はそう呟いた。
黒い稲妻ノイズが時折走るものの真っ白な空間で戦ってるから、この白いイルロイドのボディでも完全な白では無い事を実感するし、むしろリリサが乗ってたデモナス機体の手の方が本当に純白だから背景と溶け込んで見える。
程なく大量のエネルギー射撃が来て、色は様々だけど濁った淡い灰色にそれぞれの色味を乗せた感じ……こっちだって刀身にエネルギーを蓄えてるし、この剣ならこういう芸当だって出来る……ヒトだった頃は目で数え切れ無いほどの射撃の豪雨が来る方目掛け、私は剣を大振りで横薙ぎに払った。
描かれた剣の軌跡がそのままエネルギーとなって射撃の大群へと飛んで行き……その全てを飲み込み、途方も無い数の爆発の連鎖が一斉に起きる……爆発音は結構音量控えめにしてたのに、この量だから普通に重厚感抜群の音になってる。
うららの曲は今はキラキラした音楽が入ってるけど、あんまり場違いな曲が来たら変えるのも……まぁうららの曲ならそこはいいかな。
「武器を変えよう……と思った時には出来てるんだなぁ」
「コストが低いものほど早く処理が完了するからね」
私の呟きにレイチェルが答えたけど、さっきまで手にしてた一振りの幅広の剣はもう双剣に変化してて、両手に1本ずつ持ってる……そしてそれを振る毎にさっきみたいにエネルギーの刃が飛ぶから……私は叫ぶ事にした。
「
これはその場で双剣を激しく振り回し続けるだけの技なんだけど……今ならその全ての斬撃が遠距離攻撃になる……バリアを展開されて全部防がれたけどね。
さて今の内に接近しつつ……レイチェルに質問しておこう。
「それを壊せば全体が壊れる、
「あの全体が核みたいなもんだよ。だから結合状態が保てなくなるまで全体が削れるのを目指して攻撃を続ける感じ……お互い回復手段が無いから温存する方向かな」
つまり一発勝負って事……ここはエネルギー消費の少ない行動を取りながら効率的にダメージを与えられる攻撃方法を探って行こう。
それからうららの歌8曲が3巡するまで色々様子見で攻撃し続けたけど……デルーターも結構危険な攻撃をして来るのが判った。
あの重油部分をトゲ状に伸ばして来る攻撃に当たるのが今のところ一番危ない……あれを伸ばし始める予備動作の時の効果音を目立つものに変更したら事前にかわせるようにはなった。
ひとまず見るからにエネルギー消費が多そうな攻撃が来たら、こっちはエネルギー消費しないも同然の行動で回避するのが理想的だね。
半端な攻撃はバリアで防がれるし、蛇や獣の形のようなイルロイドたちがどんどん湧いて来るから持久戦も賢い選択じゃない……イルロイドの攻撃が本体に当たるように誘導してはみたけどバリアで弾かれる範囲の威力……攻め込んだ方がいいかなぁ。
そういえばさっきレイチェルにデルーターに知性があるか聞いたんだけど……。
「デルーターに知性があるかは怪しいね。世界に悪意を持って行動すると言うより、世界に悪意があるかのように行動する存在……だから行動によって意志を成す存在と言うのが大分正確かな」
そんな答えが返って来たから人間同士でやる駆け引きが通じるかは疑問だけど……景気付けにこれをやろう。
私は武器を槍に変更……どの武器のデザインもいちいち複雑で物々しかったけど、両手で持つサイズにしたって随分と大きな槍だなぁ。
そんな槍にディバインウエポンを施し、私はダイヤのような煌きを放つ大槍を抱えながらデルーターに突撃……本当はもっとエネルギーを込めた全力攻撃の時の技なんだけど、形だけでも叫んでおこう。
「
目の前にいた獣型のイルロイドを突き破り、そのままデルーターが展開するバリアまで行って激突……ここまでがこの技だけど、そこから滅多突きへ移行。
マゼンタバリアがそうだったように物理的な防壁を出してるだけだから執拗に攻撃してればヒビが入って破壊可能なんだけど……もうすぐ破壊出来そうだって時にバリアが解除され、その態勢を崩した所を狙ってあのトゲが伸びて来たものの、常に警戒してたので難なく回避。
さっき武器を容易く貫通してたくらい威力のあるトゲだけど、これもいずれ破壊しなきゃいけない……だったら今、削ぎ落とす。
体勢を整えてる間に武器を
「ホワイトコード――ホーリーウェポン!」
すると剣の刀身は何色もの強めのパステルカラーが入り乱れる気流のようなものに包まれた……白い部分も結構あるけど、それ以外は明清色だね。
そんな淡く鮮やかな色彩が流れる刃で今突き出して来た濁った色合いのトゲ部分目掛け、力一杯叩くように斬り付けるけど、結構先端部分なのに手応えが有るなぁ……1回では切れそうに無いものの食い込む事は出来てるから、ここは斧で木を切り倒す要領でやって行くしか無いかな。
デモナス部分はちゃんと動くからそれぞれが武器を構えて襲って来はするけど、どうもリリサやケイトさんが使ってたレムナントは使えないみたい……エリーのあの剣もね……とにかく危なくなるまで接近戦を続けてみよう。
「この空間はみんなの世界との時間の関係が無さ過ぎだから、デルーターを倒すまで幾らでも時間を掛けていいよー……使えるエネルギーは減る一方だけどね」
「ここで1時間過ごしても、皆の世界では1時間経ってないって事?」
「あっちとは時間の流れ方そのものが別物だから、ここで何年何世紀過ごそうと向こうでは一瞬より短い感じ……秒針が動いた時に最初の音が鳴り始めるよりも、ずっとね……少なくともここで体感一万年過ごしても1秒に届かないのは確かだよ」
今流れてるうらららの曲も実際は物凄い速さで再生されてるかもしれないって感じかな……8巡毎に次の曲になるように設定してたうららの曲が37回変わるまで戦闘を続けた結果、トゲの何本かを切り離せた。
トゲはまた生えて来るけどデルーターの総量は着実に減ってる……そろそろデモナス部分を狙ってもいいかも。
「
武器はレイピア……雷の魔法を武器に込めてそのエネルギーを先端から流し込む技『
氷漬けにする事で動きを封じて他のデモナス部分に攻撃し易くする算段だけど……そんなに長くは持たない事も確認済みなんだよね。
生成した近接武器で抵抗される上に周囲でどんどん湧くイルロイドの援護は途切れないからデモナス1機を撃破するだけでもひと苦労だし倒してもまた生えて来るしで労力ヤバイ……黒いオーラを噴き出すメナス状態のイルロイドだらけだし……とにかく、こんな風に全体を減らして行くしかない。
最初の状態と比べて重油と石炭を行き来する部分が減ったのが判るくらい頑張ったけど、あえて音楽無しにしてたから、どれくらいの時間が経ったのか判らない……。
「いよいよ半分になったね」
「こっちのエネルギー残量がね……長丁場だなぁ」
そう答えた私だけど、この調子だと足りないかもしれない……でも温存し過ぎてもロスが発生するんだよなぁ……。
時間はたっぷりあるけど使えるエネルギーが限られてて、デルーターが強化イルロイドを沸かせるのは再生するより低コストみたいで次々と押し寄せて来るし……その対処でエネルギーが削られて行くのが厳しい。
次はどの曲をどの順番で聴こうかなと考えては流してる内に時間らしきものは過ぎて行って……。
「やっぱり足りなかったね」
レイチェルのその言葉を受けて、私は思わず動作を止めそうになったけど、それを踏み止まろうとした矢先にレイチェルの言葉が更に続いた。
「……わたしだけだった場合は」
私とレイチェルが保有するエネルギーは独立してて、ここ暫く私の方を使ってたけど、そろそろ底が見えて来てる……私は言った。
「……と、言うと?」
「元からこうするつもりだったから……先に行くね。これでもう一息になるよ」
そしてレイチェルは唱えるように厳かに呟いた。
「クリエイトウェポン――アイミーバレル」
次の瞬間、マギアスの傍に巨大な機関砲が出現し、毒々しい赤紫のボディの形状の先には金色のオブジェが三方向に伸びてて……それぞれ猫、人間の女性、蛇の顔部分をモチーフにしてるみたいで……その内側には23門の発射口が円を描くように並んでて、1つ1つがとんでもない大口径。
「ホワイトコード――ホーリーウェポン」
砲部分は黒系の色だったけどレイチェルがホーリー状態にしたから武器全体が様々なパステルカラーで覆われた。
巨大と言ったけど、さっきまでこの空間にはデルーターより大きいものは存在してなかった……そんな状況を正面から見ただけで覆しそうな直径を誇り、ボディが長いこの武器はデルーターと戦闘する直前の体積を優に圧倒してる。
「それじゃあわたしの残った力を全部この武器の弾丸にするから……撃ち終わったらあとはお願いね」
レイチェルがそう告げて、私から見た比率でケイトさんが使ってた巨大レイピアと同じくらいの大きさの弾丸が1発ずつ次々と、デルーターへと雪崩れ込んで行った。
あの機関砲は触れて無くても本体ごと動かせる上に固定も出来るみたいだし……私はイルロイドに妨害されないように露払いをし続け……弾丸は最後の1発までデルーターに直撃してた。
あんなに撃ち込んでた光景が収まった今……静かなもんだね。
破壊される度に再生してたデルーターは次第に再生のペースを鈍らせてたけど……それが遂に、止まった――
さっきまで私はうららが最初に歌った曲とそのアレンジ及びフレーズを組み込んだ部分のある曲の順でループするよう流してたんだけど……ここらで新曲にしよう。
レイチェルが言ったように、私がこうして一緒に来なければデルーターをこの段階まで追い詰めたところで、こんな風に自身は消滅してしまうのが解ってたんだね……実際ギリギリでもうホワイコードは使えないし、ブルーコードも周囲のイルロイドを倒すのがやっとの量……トドメを刺せる余力何て、残って無い。
そんな状況下で私は手の平に出現させた、真っ赤に染まった結晶体を――
こんな事をしなくてもいいんだけど、やっぱりこういう形は大事にしたい……私は急遽作り出した幻影に過ぎない、赤だけで構成された水晶のような物体を右手で握り締め……次の瞬間、静かに言葉を紡いだ。
「レッドコード……ファイアライズ」
こっちならまだ100%残ってたんだよね……青いマギアスのエネルギーだけで、この状況まで来れてよかった。
私は右拳を頭上に突き出して、指の隙間から紅い光が激しく溢れ出してる所までやると赤い結晶体の幻影をその場から消し、私だけの機体となったマギアスはその全身が紅い光で薄くコーティングされ、全体が炎のような状態となった。
もう再生しなくなったデルーターは5方向に生えてたデモナス機体もお腹から上が無いものばかりで……満足に形が残ってるのはエリーが乗ってたデモナスだけだね。
それにしても、うららの新曲はいいなぁ……壮大な旋律の中を優雅に漂うような、そんな歌声と曲調が突然目まぐるしい速さまで上がって、そんな緩急が繰り返され、やがてトップスピードのまま曲が終わる――
さて、と……そこにエリーがいないのは解ってるし、もう何処かの世界に転生する手筈が整ってるのも判ってる……それでもこうして最後に形を留めたから、何だかんだで加減みたいな事はしてたのかもね。
残ったイルロイドが私の機体に突撃して来たけど、その体は私を素通りするし、炎が燃え移って勝手にダメージを受けてくれるだけだから無視。
じゃあエリー。私、行くから……新しい世界で幸せに過ごしてね。
ファイアライズしたマギアスでやる事と言えば、ただひとつ――
「ファイアブラスター!」
そう叫んだら何だか最後の力を振り絞ったみたいな感じになったけど……私は目の前で盛大に膨れ上がった火球をデルーター目掛けて解き放った。
あとは他に聴きたいうららの曲があったら流しておこう……これで足りるとは思うけど、燃え尽きるならデルーターの撃破を見届けた後がいいな……。
凄まじい炎の奔流がデルーターに注がれ続ける様子を眺める中、私はエリーの事を思い出していた。
あのぼんやりと何かを見ている表情と、笑った時のあの顔を――
ファイアブラスターの勢いがすっかり無くなって完全に途絶えた頃、そこにデルーターの姿は無くて、それからは黒い稲妻ノイズが発生し無くなって……曲の途中にも関わらず、うららの曲が急に途切れちゃっ――
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