第28話 白い空間にて

「セリアちゃん……聞こえる?」


 レイチェルの声が聞こえた事で、私は意識を取り戻した……辺りは何か真っ白。


「あれ……? 私……?」

「やってみるまで判らなかったから言わなかったけど……こんな風にわたしとセリアちゃんの意識が常に一緒みたいな事になる可能性もあったの」


「私たちって……どの辺りにいるの?」

「この空間内を俯瞰するような視界になってるなら、あのマギアスみたいなのが私とセリアちゃん」


 言われてみれば見下ろすような位置に人型機体の姿があって……どんな形状か眺めてみようと思った瞬間、その機体を様々な方向から見た姿が一気に視界に流れ込んで来た……レイチェルは普段、こんな感じで視えてるって事なのかな?


 機体の形状は複雑だけど、さっきまで私が乗ってたマギアスとレイチェルが出現させたあの超大型機体を知ってれば整理出来なくも無い。


 ボディは一様な白さの大理石質感と金と琥珀の間を移ろう部分が一緒になった感じで……乱暴に例えると角柱の側面によっては大理石部分だったり琥珀部分だったりする感じ……おまけに青いライン部分も所々にあるから詳細はもっと複雑になる。


 そんなボディのあちこちから水色と青緑色の2種類の結晶がいい感じに生えてて、手の部分は銀色で、その関節全てには青緑部分が来てて、手の甲部分には大きな水色の宝石がはめ込まれ……足は青緑部分がメインで、ここの関節全ては銀色部分が担ってて、足の甲自体には何もはめ込まれて無いね。


 顔に関してはそれら全ての要素が盛り込まれた上で造形を成してる感じ……とにかく、これが私の体だって認識が確信レベルである。


「初めて操縦する機体なのに……どんな事が出来るか以前から知ってる気がする……不思議な気分」


「今はわたしとセリアちゃんでこのマギアスに宿ってるみたいなものだからねー……乗ってるんじゃなくて機体そのものになってるって考えた方がいい」


 とりあえず今は、私とレイチェルのマギアス2機が合体と言うより融合したような感じの機体の中に私とレイチェルが一緒に入ってるみたいなもんかな。


根絶体デルーターは……どうなったの?」

「今やっと集め切ったとこ……出て来るよ」


 レイチェルがそう言うと真っ白だった空間の所々で黒ずんだ稲妻状のノイズが音も無く走り始め……稲妻の色相自体は豊富だけど、その全てが黒く滲んでて暗清色から外れた濁った色。


 そんなノイズが周囲で発生しては激しくなって行き……さっきからその辺で蠢いていた重油のような質感を放つ黒い物体が溶けたり凍ったりしながら何だか次第に大きくなってる気がするんだけど……この油っぽい光沢の物体にも様々な色相が入り乱れてて、その全てが暗く濁ってるから遠目だと黒にしか見えない。


 液体と個体を行き来するその存在は私とレイチェルの機体の十数倍分くらいの体積にまで膨れ上がると、球に寄った不定形だったその形が何やら具体的なものに変わって行き……そこからの変化は結構急速だった。


「あの形は……デモナス?」

「根絶体がデモナスをあの世界に発生させる為に使ってた作用もあそこに纏めたから……デモナスの形状が表れるのは当然なのかもね」


 レイチェルがそう言ったように確かに目の前の存在はデモナスの形を成してる……上半身部分しか無くて、今まで会ったデモナス5機が放射状に割と均等に並んでるから正五角形を描いてるって主張出来そう……人型と言えるかは微妙だけど。


 並び順はエリーの機体から反時計回りに見ればラディサ、リリサ、ラナ、ケイトだからボディは暗清色の赤紫、青緑、赤、青、黄の順で……手だとライトグレー、チャコールブラック、純白、メタリックブラック、白と明るい灰色の縞模様……それらが並んでる感じになるね。


 そんなデモナス上半身部分5機を繋げる箇所は例の暗い色が混ざり合った重油部分が担ってて、内側に行くほど溶け具合が抑えられてるから中心部は常に固形物状態を維持してて、何だか石炭が脂ぎったような感じになってる……そう思ってると――


 突然その中心部から放射状に鋭いトゲが乱雑な長さと角度で何本も生えて来て、長かったものはデモナスの胴体部分などを貫通し、絵面的に各機体が背後から大きなトゲで貫かれたようになったわけで、見てて痛々しいね。


 そんなトゲ部分に関しては中心部と同じくらい固体状態が安定してて……途切れた上半身から下は相変わらず盛大に出血してるかのように垂れがちだけど、滴たりそうになると個体に戻って長さが縮むから、全体の量は変わらなさそう。


「これで攻撃出来るようになった。暫くはセリアちゃんに攻撃を任せるけど……あの状態になった根絶体を倒せば消滅させられるように、わたしたちも倒されれば消滅するから気を付けて」


「ここまで来た以上、あとは戦って勝つ……それだけだね」


 エリーの未来を守りたい――


 その為だけに私はここにいるんだし、その為にマギアスみたいな機体に乗って戦えるのは、嬉しいね……でもちょっとだけ気になる事があるから私は更に呟いた。


「ここって……音が聞こえないね」

「ここは根絶体に関するものを纏めただけの空間だからねー」


「……うららはまだ歌ってるのかな」

「あ、向こうでうららちゃんが歌ってる時の音声を流すだけでいいなら簡単に出来るよ……こうやるの」


 レイチェルがそう発言した次の瞬間、私の頭の中にどうすればこの空間にうららの歌声と音楽を流せるかの情報が雪崩れ込み、既にここへ来る寸前まで聴いてた曲を好きな順番で流せるようになってた……というわけで先ずはこの曲にしよう。


「お、バトルっぽい曲だねー」


 そんなレイチェルの発言を受け、私はレイチェルに抱いてた疑問をぶつけてみた。


「……さっきからずっと思ってんだけどレイチェル、あなた人間っぽ過ぎない?」

「そりゃそうだよ。人間の女の子としての要素がくっ付いたのがわたしで、世界を滅ぼす意志ばかりがくっ付いたのが、あの根絶体なんだから」


 とりあえず神様を構成する素となる何かがあるみたいだね……さて、戦闘を任されたんだから元マギアスのパイロットとしても頑張りたいね……私はこう呟いた。


「へー……じゃあ戦闘開始するから、何かあったらアドバイスお願い」

「おっけー」


 とにかくこちらの被害を抑えつつ、あの根絶体にダメージを与え続ければいい……それじゃあ早速、使わせてもらうかな……女神の力を――


「クリエイトウェポン――レジェンダリーソード」


 何だか凄いデザインの剣が機体の手元に出現したけど、次に私はマゼンタコードに当たるコードを宣言した……厳密には私とレイチェルの間で完結するやり取りだから発声はしてないんだけどね。


「ホワイトコード――ディバインウエポン」


 程なく剣の刀身は白い光に包まれ、その眩さから更に溢れ出る光の粒子のそれぞれが様々な鮮やかな色を放ってて……虹の七色には限定されないものの、その認識でも大体は合ってるからダイヤモンドのような輝きと言うのが一番略式的かな。


 根絶体が現れても周囲で起きてた黒い稲妻状のノイズは収まらなかったけど、その頻度にバラ付きが出て来て……なかなか気まぐれな景色になったね。


 根絶体デルーターが何か動作すれば効果音が鳴るようにもしたんだけど、その音が早速聞こえて来た……じゃ、戦うとしますか。

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