最終章 セリアの選択
第26話 よくないもので満たされている
「これ以上、
レイチェルの説明というか言い訳が続いてるけど、エリーはもうすっかり戦闘態勢になってて突如現れた真珠みたいな質感の白いドラゴンと交戦中。
エリーが振るうあの鞭のような剣がドラゴンに直撃しても弾かれるだけで、手足にある鋭い鉤爪や尻尾による攻撃や強靭な顎による噛み付き……それらをエリーは全て反応してかわしてるけど、こんなの防戦一方……ひとまずサブマシンガンで援護してみるかな……レイチェルはまだ喋り続けてるね。
「根絶体がここまでこの世界に入り込むのが今でも信じられなくて……こんなチャンス二度と訪れないかもしれないし、次を待ってたら幾つの世界があんな風に襲われては滅ぼされてしまうか判らない。それでも他の世界たちの為にみんなに犠牲になって何て、言わないよ。わたしの選択は間違っている……それでいいから」
レイチェルがやけに決意を込めてそうな口調でそう言ってるけど……私はエリーに攻撃しようとしてる真珠ドラゴンの攻撃を射撃で妨害するのに忙しい。
そんな銃撃が命中したと思ったらドラゴンは私の視界から消えて……回り込まれてる事に気付けるデータは表示されてたけど私の反応が間に合う前にその長い尻尾による打撃が私に当たり、その勢いで私のマギアスは地上へと吹き飛ばされて……そんな私をオレンジ色の巨大な手が地面近くで受け止めた。
「ルーちゃん! 大丈夫?」
「全く以って
私の周囲にはロージーのマギアスとオルハ越しにそう言ったルタちゃんがいた。
「エリーが!」
さっき私がいた空中から斜めに地上まで移動したくらいの距離なので今のエリーの様子は望遠モードで問題無く捉えられる……私がそう叫んで拡大画面を見ながら戻ろうと動き始めた、まさにその瞬間――
真珠ドラゴンの口からプラチナが透明感を得たような色合いのメタリックなブレスが直線状に吐かれ、エリーが乗ってるデモナスの胸部を貫いた。
もしもデモナスがマギアスと同じように、あの場所にコックピットがあったら……程なくエリーの機体全体にノイズが走り始める。
ノイズがどんな感じか例えると……まな板の上に魚を置いて同じノイズが魚に起きた場合、ノイズ部分がその場所を抉ったようになって赤身部分や骨、まな板が見える時がある感じ……あとノイズの分布は絶えず変わるから、一度抉られた部分でもまた元通りに現れたりする。
そんなノイズの分量と頻度が激しさを強め、次第に二度と現れない場所が増えて行き……傍から見てノイズに食い尽くされるかのようにエリーのデモナスは消滅した。
「い、今のって……」
「あー……」
思わず呟いた私に、ユズが察したような声を出した。
今まで忽然と消えてたデモナスがパイロットがいるであろう場所を貫かれた後、エフェクト有りで消滅……これが何を意味するのか理解する事を私は今無理矢理、拒絶してる。
視界にいた乳白色のドラゴンは他のデモナスやイルロイドを探しに行ったのか既に飛び去ってて……さっきまで一応普通に話してたエリーがもういない事実がどんなに押しのけても私の方へ押し寄せて来る。
「どうしようも無いのかのぉ……」
ルタちゃんがそう言ったけど、今在るデモナス全てを葬ればあのドラゴンは人間たちを襲うようになって……次に目の前にあの白いドラゴンが現れたら転生されるとはいえこの世界では死を意味する。
そんな事態から抜け出す手立てを探ろうにも最早何も無い……今、出来る事と言えば……私は憔悴した声のままに呟いた。
「レイチェルとお話でも……する?」
ここからでも見えるあの巨大なマギアスと思われる機体まで行ってレイチェルに話し掛けるって案は、あのドラゴンたちがデモナスを狩ってる今なら現実的ではあるけど……ルタちゃんが頼りない声を出しながらこう返した。
「やめて欲しいと嘆願しようにも……一番やめて欲しいのはレイチェル殿なんじゃよのぉ……根絶体が何者なのか聞き出すくらいしか叶わ――」
「話なら、受け付けてるよ」
突然可愛らしい声がしたと思ったら、レイチェルが私の知ってる姿でそこにいた。
本当に、いつ見ても大きな胸だけど……私の心は重苦しい感情が膨らみ続けるだけだよ……とりあえずルタちゃんに任せよう。
「では聞こうレイチェル殿。
「世界を滅ぼす為に行動するという意志で満たされてる存在。でも出来方に関してはわたしと同じ……余りにも偏ってるだけなの」
「晴れてこの世界諸共、根絶体とやらを滅ぼした後……お主はどうするのじゃ?」
「わたしは消える……持てる全てを根絶体にぶつける事で相殺させるようなものだから」
「そこまでせぬと倒せないほど強大な存在とは……」
「わたしが……弱いだけ。もっと力があれば、根絶体を簡単に葬る事だって出来たのに……実際はこれがわたしの精一杯」
ルタちゃんは全てを察した様子で喋ってて、レイチェルは悲壮感たっぷりのまま話し続けてる……そんな光景がエリーを喪った悲しみの中に沈んでる私には鬱陶しくてうんざりした口調でこんな発言をした。
「何か私たちに出来る事無いの? もう少し足掻く事くらいしたいんだけど?」
吐き捨て気味な調子で発言を終えると、すぐにレイチェルから返事が来た。
「みんなには無いけど……」
そして今までの哀しみを帯びた口調と違って何か重たいものを抱えてるような感じでレイチェルは言葉を続けるけど……何やら私の方を向いて視線を注ぎ始めてる。
「セリアちゃんが協力してくれるなら……あるには、ある。だけど――」
レイチェルの表情は今にも目を逸らしそうな雰囲気を漂わせてて、言葉を続けるのも躊躇う内容がこれから言い渡される事を物語ってた。
そういえばデモナスであるエリーは次の世界に転生させてもらえるのかな……私が今気掛かりで仕方ないのは、そっちの方。
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