第25話 元凶となるもの

「はじめましてとひさしぶり……みんな元気にしてたね」


 レイチェルの口は動いてたけど、その周囲では空気の振動が起きて無くて、すぐ傍で話し掛けられたような感じで聞こえてるのに、それがどの方向からなのか全然判ら無い……そんな自然なようで不自然な声が更に聞こえて来た。


「この世界はデバウアーのような敵性存在を退けては次が出現するまで備える……それがこの世界のルールで、本当なら1年もしない内に次の敵性存在が現れる何て有り得ないし、実際この世界の次の敵性存在はまだ現れてない。その前提で聞いて……今、こうしてこの世界を襲撃してるみんながデモナスと名付けた存在は――」


 淡々とした口調だけど真剣さを帯びたレイチェルの声は更に続く。


「この世界が生み出したものじゃない」


 その発言を以ってレイチェルの言葉は一旦途切れたけど、すぐに再開した。


「そして他の世界からの侵略者というのも違う……簡単な事実だけ言うね。みんなが名付けたデモナスとイルロイドを倒す術はこの世界にはちゃんとある……でも今生み出されてるデモナスとイルロイドを全滅させても、また新しくデモナスとイルロイドは生まれてしまう。デモナスたちを生み出す根源であり、みんなを根絶やしにしようとする存在……根絶体デルーターを倒す術がこの世界には無い――だからわたしは来た」


 やっぱりエリーやラディサに指示みたいなのを与えてる存在はいたんだね……にしてもその『根絶体』とやらはこの世界にあるものでは倒す事が出来ない、かぁ。


 そんな事を告げたレイチェルの言葉は更に続くんだけど……さっきからレイチェルの傍で結晶のようなものが生成されてってる。


「本当はこんな事したく無いけど、手段がこれしか無い。せっかくみんなわたしの事を神のように慕ってくれてるのに……巨大な像まで数も種類もたくさん建ててくれたのに……もっとわたしに力があれば、こんな事しなくて済んだのに……みんなごめんね……これしか出来ない女神で」


 真剣な口調を維持したまま急に悲しさを帯び始めたレイチェルの言葉。


 さっきから成長を続ける結晶は乳白色の真珠に透明度を与えたような色と質感で、今やマギアス1機に相当する25メートルくらいまであって……そんな結晶の成長が急に止まった。


「それじゃあ始めるよ。わたしを神様らしくしてくれて、ありがとう――」


 レイチェルがそう呟いた瞬間、レイチェルを中心に白い光が何の音も立てずに薄く広がって行き……突然、大きな爆発音が地響きも無しに轟いたかと思ったら、辺りはぶ厚い乳白白に輝く煙か何かで一気に覆い尽くされた。


「エネルギー反応、特に無し!」

「いやいやいや、あそこにエネルギー源あるでしょ!」

「周囲の計測機構全て異常無し! このデータは正確って事!」

「白い光の減衰を確認! 80秒後には完全に晴れると推測出来た!」


 私の周囲にいるAIたちが大騒ぎ。ポチの計算通り80秒くらいで視界は晴れたけど……さっきまでレイチェルがいた場所には人型機体の姿があった。


 まずボディは金色と言っておこうかな……他には発色鮮やかな青緑と水色の部分があって、それらは結晶のような形状と質感で肩や肘や膝、更には体の至る所から左右対称の分布で生えてて……手足を除けば水色の方が多いけど、接合部が水色なのに対して手足は青緑色を湛えてる。


 どちらの結晶も透明度が高く、青緑色の結晶で構成された手の指先は鋭く尖ってて手に関しては青緑の結晶だけで構成。


 ボディは金色と言ったけど、その質感は琥珀と金色を行き来してて、色だけでなく本当に澄んだ単色の琥珀から金のような色と質感の金属へと透明度込みで変化してて水色と青緑の結晶もそうだったけど、その内部には一切の不純物が存在しない。


 だからロボットと言うより、水晶やレジンなどの透明な素材を着色して作ったメカ寄り形状の人形と言った方がよさそうだけど、その全長は――


「周囲の建物とかで比較した結果……全長およそ547.5メートル!」


 普通のマギアスが25メートルで私のマギアスが32メートル……だから常に他の人型機体より500メートル以上ある超巨大サイズだという計測結果をユズが報告してた。


「まずは今この世界にいるデモナスとイルロイドを全て倒す」


 レイチェルが相変わらず方向感も無く傍で話してるような声でそう呟いて……。


「クリエイトウェポン――エンジェリックドラゴン」


 レイチェルが更にそう唱えると、エリーの傍に2枚の大きな翼を生やした腕と脚が2本ずつあるドラゴンが現れて……サイズは私のマギアスよりひと回り大きいくらいで、その全身から放つ質感は少し前までレイチェルの傍にあった乳白色の真珠水晶とよく似ていた。


「このドラゴンとわたしの機体で殺された者は次の異世界へ転生出来る状態になる。今の世界には転生させる事が出来ないのは相変わらずだけど、今度は転生する前にわたしがお世話する事が出来ないから元気でね……もう少し説明するけど、これだけは届いて……わたしはみんなの事が大好き、みんなならこの世界に連れて来ても大丈夫だと思ったから、この世界に連れて来た。それなのに、こんな事に巻き込んでごめんね……わたしは今から――」


 レイチェルの声色は痛々しくて、それだけで今やってる事が本意じゃ無いって事が伝わって来る。


 真珠色のドラゴンはエリーを攻撃し始めたので、こんな風にデモナスたちを一掃するんだって様子だけど……次にレイチェルが――女神ラエチエルが言い放った言葉はこの世界の住民として看過出来ないものだった。


「デルーターを滅ぼす……この世界ごと」


 何でレイチェルがずっと申し訳なさそうにしてるのかハッキリした……この女神、私たちを世界諸共皆殺しにする気だ。


――死んでしまっても異世界に転生させるから大人しく殺されてください。


 何で突然そんな理屈を振り回してるのか……ちょっと問いただしてみようかな。


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