第23話 異様な光景へ
「現在のエネルギー状況64%、損傷状況8%」
声には出さなかったけど私はその情報を確認し、さっき1機のオルハから手渡されたリーナちゃん特製の『プラズマシューター』を構えた……周囲のオルハたちが持ってるのは高出力レーザーライフルだね。
プラズマシューターはチャージ機構に注いだエネルギー量に応じて威力が上がるものの、そこそこ稼働させるだけで要求量はヤバイ事に……でも今の私のマギアスにはこれがある。
「ブルーコード――フリーズチャージ」
そう宣言した私だけど、この青いマギアスはチャージ速度とエネルギー効率に優れチャージ式兵器にもこのエネルギーが適用出来る上に、低速チャージなら消費が更に少ない……この両手持ちサイズのプラズマシューターはプラズマを球状にしてショットのように放つ事が出来て、エネルギーさえあれば連射も可能。
だから私はチャージを持続させながら小出しのプラズマボールをイルロイド目掛け発射……フリーズチャージだから氷結作用を伴ってるんだけど、高温状態のプラズマが冷気を伴うという有り得ない状況が実現してるから、少なくともこれは冷気の振りをした何かなんだろうね……それとプラズマの球体が冷たい青味を帯びてる。
ある程度の距離まで発射されたプラズマ球は減衰を始めて消失するのがこのショット本来の挙動……それが前述の冷気もどきのエネルギーを込めて発射すると、減衰する距離まで来た途端その場に留まって周囲に冷気のような何かを放ち続け、それに触れた物体には氷結作用が働いて、そのプラズマに触れた時と同様の威力も与える。
減衰のペースが大幅に鈍化してるから設置技みたいな運用も出来るんだよね……とりあえずそんなボールを比較的頻繁に放って行ってイルロイドの移動を妨害し、身動きが取れなくなったイルロイドにバハムートを砲火……そうする間に他のイルロイドたちが散開する中、更なる1体に狙いを絞るけど……上手く追い詰められない。
そこで私はルタちゃんにメッセージを送って、隣のオルハにプラズマシューターを一旦預け、私がレーザーライフルを手にした状態になると再び宣言した。
「ブルーコード――フリーズチャージ」
レーザーの場合は当たらなければ挙動は同じだけど、一旦浮かび上がって旋廻すれば攻撃範囲は一気に広がる。
だから私は横薙ぎにレーザーを放ってはチャージして行くけど……流石にリリサが黙ってないので、撃って来るサンダーボルトをシアンバリアで防御。
サンダーボルトの後に
こっちも攻撃したいけどバハムートを守らなきゃ……とりあえずイルロイドを減らして行こう……そんな感じで2体目を撃破。
「……勝負に出ますか」
リリサがそう言うとトロワカトルを掲げ、見るからに雷をチャージしてますな放電状態に……それを妨害しようにもイルロイドの1体が反撃を顧みずにサブマシンガンで私の動きを牽制……私はプラズマシューターに持ち替えてビーム状に撃てるようにモードを変更し、叫んだ。
「ブルーコード――シアンバリア! フリーズチャージ!」
バリアに使うエネルギーは発動段階で使い終わってるから、武器のチャージも同時に出来るんだよね……イルロイドの機銃だけなら結構持つし。
互いにチャージ状態を維持し続けて、いよいよリリサが攻撃態勢に入った頃にはバリアが破られイルロイドが私の目の前まで来たので、ここでプラズマを発射……ファイアブラスターの時みたいに叫びたい気分だけど……。
「……フリーズブラスター」
そう呟くだけで妥協する。
ルタちゃんと触り程度ながら色々試したけど、どうもこのマギアスでファイアライズみたいな事をしてもファイアブラスターみたいな大技が出せるわけじゃ無いみたいで……強力な必殺技があるとは考えない方がよさそうだった。
満を持して発射された冷気か何かを帯びたブラズマビームの直径はイルロイドを呑み込むには余りある規模で……発射直前、リリサが何やら叫んでた。
「レイジングサンダー!」
サンダーボルトが人間サイズを包み込めるか大いに怪しい規模だったのに対し、この雷は全長25メートルどころか32メートルある私の機体をも容易に呑み込む相当な規模……狙ってるのは私の背後にあるバハムートかな。
そして今、私のプラズマとリリサの雷が激突。
もうリリサの放った雷が凍りましたって事態になっても何とか納得した振りをする気はあったけど、実際の光景はリリサの雷と私のブラスターがぶつかり合ってて……どちらが優勢かはすぐに判ったので、連れて来たAIの皆にも頑張ってもらって周囲の警戒を怠らずに状況を計算……そして私の行動が決まった。
まずクリエイトウェポンで双剣を生成し、すぐ様フリーズウェポンで刀身に冷気を纏わせる……トロワカトルで増幅された雷は、私が放ったフリーズブラスターほどの威力は出せ無かったみたいだけど、砲身を支え続けなけれいけない私に対し、リリサはレイジングサンダーを放った直後から行動が可能になってた。
そんなリリサの次の行動は残る1体のイルロイドの護衛に回るか、バハムートもしくは私を狙って来るかだから動向には注視したいけど……リリサとイルロイドの現在位置なら視界が晴れてない今の段階でも把握出来る。
私の周りには音響探知や熱源などの情報をかき集め、それらを元に位置などを算出出来るAIが4名もいるからね……だから私は生成した2本の剣を振り被って狙いを定め……投げ付けた。
視界が晴れた頃には青い冷気を纏った剣の1本がイルロイドを直撃し、その部分から機体表面が氷で覆われ始め、ブロードソードを盾代わりにして剣を防いだリリサは私が迂闊な行動を取れば攻撃を放てる好位置に留まってた……私は空かさずプラズマシューターからショットを放ち、イルロイドを追撃。
リリサが駆け付けるには距離的に厳しいものがあるけど、ここは下手に来ない方がいい……その理由は次の瞬間バハムートのミスリル徹甲弾がイルロイドを直撃した事が物語ってる……そもそも今回の襲撃はお試しなんだから、大きなリスクを負う必要なんて何処にも無いんだよね。
「今のイルロイドの撃破は全体から見て……50体目だね」
クレミーがそう呟くと、リリサが言った。
「ゲームオーバー……今回は我々の負けですね」
イルロイド50体を駆使した襲撃を凌げば今回は引く……本当にラディサの言った通り、今日はこれで終わりみたい。
でもマギアスがパイロットごと倒されたり、バハムートが何基か破壊されるだけで一気に状況が不利になるって思い知らされる戦いだった。
今日だって元AIであるラディサとラナが本気で作戦を組めばこんな結果で終わる何て有り得ない。
長い目で見たら、より大規模な作戦を行う前にこちらの戦力の調査と消耗を図った感じで、この先イルロイドの出現数が増えればデモナスが出なくても放置してればその内にでも人類は滅びるって甘い考えも立派な選択肢になる。
要するに今日の襲撃はただの『おまけ』……リリサが更に発言してた。
「やはりレムナントによる雷は威力が出ませんね……前の世界ではさっきの規模の雷を何本も発生させる事が出来ましたのに」
「え? その金色の武器で発生させてるんじゃないの?」
「このトロワカトルを介せば威力は上がりますが、これを出現させなくてもレムナントとして雷を放つ事は出来ますね……もっともそれでは威力、グぁ――」
思わず私が投げ掛けた疑問にリリサが答えたけど……何か途中で不自然な声を出して、更に続いた言葉はやけに異常で、その声だけで苦しんでるという事が判った。
「う、ぁあああ! なんですか!? 急に……頭に……中で……暴れる、ような……えぇい! わかりました……わかりましたぁ! まったく、乱暴な命令伝達ですね」
ラディサと比べてリリサは落ち着いてるようで所々苛立たしさを滲ませる口調だったんだけど、今のはそれが全て前面に出たような叫び声で……次の瞬間、アナウンス設備をハッキングしたのか、ラディサの声が響き渡って来た。
「人類の皆様にお知らせ致します……わたくしどもの衝動が強化されました。これによりわたくしどもの自由意思は剥奪されたものとお考え下さい。今を以って、この度わたくしが立てたプランに沿った行動は不可能となりました」
ラディサがそう叫ぶ中、リリサが呟いた。
「クリエイトウェポン――ポーンユニット」
するとラディサの傍に骨のような白さと質感を放つ人型形状のものが現れて、その筋肉質なフォルムのボディには瞳が埋め込まれたかのように膨らんだ青緑色の部分が大中小幾つもあって、筋肉部分で青緑色が描きがちな模様は血管みたいな分布。
体の所々には黒い筋のような線も散見され、よく見れば紫色を帯びてる……全長も25メートルなので完全にリリサが『イルロイドを武器として生成』した状況。
「まだまだ作れますね」
そう呟くとリリサは同じコードを入力したらしく、リリサの周囲にイルロイドが1体2体と増えて行き……そんな間にもラディサの声は響いてた。
「わたくしどもが衝動的に攻撃する対象が追加されました。生命を有するもの、膨大なエネルギーを蓄えるもの、破壊により大きな変化を伴うもの……わたくしどもはその衝動に抗う事が困難なレベルで強力な強い意志を注ぎ込まれています。繰り返します――」
さっきラディサとラナが作戦を組んでればとか言ったけど、そもそも侵略するならそんな綿密な作戦、必要無い。
ただ、目に付くものを殺すか壊す――
それを続けてるだけで十分過ぎるほど人類にとって凶悪な存在になるし、イルロイドを生成出来るようになった今、さっきラディサが言った条件を満たす存在を襲い始めるとなると、もう状況は絶望的。
「今の私のエネルギー状況は39パーセントか……」
そんな心許ない事実を私は呟き、それから大勢の人々が収容された避難所にイルロイドの群れが現れたという情報が映像付きで入るまで、すぐだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます