第22話 交錯はすれど
周囲には建物の数が乏しく私が近場の海上へ誘導してる事にエリーは気にも留めずに攻撃を繰り出してるから、その辺の被害は無い状況だけど……これが市街地だったら今頃、高層ビルはズタズタに分断されてその瓦礫も更に斬り刻まれ舗装された地面はあちこちが抉られてたね……それくらいエリーの攻撃は激しい。
エリーのメイン武器である鞭のように伸びる剣を軌道予測で回避して、直撃じゃなければ多少当たっても大丈夫だから結構気楽……ヘヴィマシンガンによる銃撃も予測通りに来るから、このまま攻撃を回避し続けるだけならいいけど……反撃の糸口が見当たらないのは問題。
攻め込むにはリスクが大き過ぎるという言い訳は出来るけど……本音はやっぱり、エリーと戦いたくない――
私もマギアスに乗れるから、一緒に戦えればいいなっては思ってたけど、こういう意味じゃない。
エリーと一緒に敵を倒すなら喜べたけど、エリーと敵対する何て、嬉しくない……エリーが私に言ったように、私がここでエリーを倒すのが人類にとって大きな攻勢になるのは頭だけでは解ってる、だけど――
そんな事実を心と体が理解する気がまるで無い。
やっぱりエリーに話し掛けよう……海上まで辿り着いたし、ここから他の班がいない方向へ誘導を続けて……広い海の上で話掛ければ少しは心を開いてくれるかな。
「……攻め過ぎたかな」
突然、猛攻が止むと共にエリーがそう呟く。今の内にヴァイオレットライトで機体の損傷を直しておくかな……入力で済ませたから何の発声も無くコードを発動させた私は徐に口を動かして……ぼんやりとこう言った。
「ねぇ、エリー……少しだけ……」
「話がしたいのかな? じゃあ……」
話がしたいというよりエリーの声が聞きたいだけで……エリーと一緒に言葉を交わし合う……そんな時間が欲しいだけなのかもしれない。
やがてエリーはこう続けた。
「本気の攻撃をわたしに仕掛けて来て。それを暫く続けてくれたら聞いてあげる」
「……少し待って」
思わずそう答えたけど、あの猛攻が続いてても攻撃の合間を縫ってこれくらいの事は出来た行動をする……全力とは言われて無いし……まずはこのくらいで。
「クリエイトウェポン……ヘヴィマシンガン。ブルーコード――フリーズバレット」
私はそう呟いたけど、シアンバレットの時のように全弾に適用するとなると結構なエネルギー消費になる……ユズに相手の回避予測を前提とした射撃を行う射角情報のサポートもお願いして、私は続けて呟いた。
「行くよ。エリー」
次の瞬間、私は冷気的な状態になった弾丸の群れをエリーに発射……まだエリーは海上まで来てないけど、周囲には障害物が無いも同然の平地……そんな地面に着弾したフリーズバレットはその場を氷で覆い始め、その変化に応じて動くエリーを予測した射撃を続け……やがてエリーは広い海上まで来たけど銃撃は止まらない。
デモナスにも海上を地面みたいに移動出来るコードがあるみたいで、エリーの機体が海上で機敏に回避する内に弾切れ……流石にリロードの時間は許してくれなさそうだし地形次第では追い詰められそうな感じだから……私は言う。
「……どう、かな?」
「やっぱりその機体……優先して倒すべきだね」
辺りはすっかり、やや青味を帯びた氷が放射状に延びて何本ものトゲが生えたみたいな形状を成し、それが随所にある状況に……この氷って、かなり長い時間残るんだよね……蓄えたエネルギーが無くなると一気に全部消える感じだから溶けるのとはまた違う。
「エリー……」
私はそう呟いた……何を話そう……何がいいかな、どうしよう……浮かばない……エリーが目の前にいるなら、それだけでいい気がする。でもせっかくだから何か話したい、何でもいいから……そう思ってると、前から薄々思ってた疑問が一気に浮上して、その勢いのままに私は言葉を発してしまった。
「そういえば、その機体にはファイアライズみたいなコード無いの?」
これはこれで場違いじゃ無いけど、もう少しお互いの事を聞き合うような……そんな話がしたいのに、これでよかったのかな……。
そう思ってる間にエリーが答えてしまう。
「ある……とだけ言っておくかな」
まだどのデモナスも使ってないと思うんだけど、余程エネルギー消費が多いのかな……あ、そうだ……これを言おう……こう切り出せばいいんだ……。
「ねぇ、エリー……エリーが人間に戻って、またあのカフェで私と一緒に過ごす……そんな未来がこの先、あると思う?」
「カフェ……?」
「私がエリーと会ってから、よく一緒に過ごしてた、あのカフェ……覚えてない?」
私がそこまで言うと、エリーは少し考え込むような沈黙を経て、こう答えた。
「……ちょっと心当たりが無い。そのカフェで起きた出来事ってわたしにとって何でも無かったって事かな? ぼんやりと外を眺めるのに丁度いい場所があるなら、どこだっていいし」
あ、違う……カフェじゃないよ、エリー……反応して欲しかったのは未来の方。
もしもそんな未来があったなら、それって――
「さて、結構持った。ちなみにファイアライズみたいなコードなら……やっぱやめとく。この情報はバラ撒けない……じゃあね」
そう言うとエリーは相変わらず忽然と姿を消した。
やっと話し始める事が出来たのに……そもそも何でどのデモナスも現れる時も消える時も突然なんだろう……そんな疑問を抱き続けるよりも今はさっきまでいたエリーが傍にいないのが寂しくて……私は暫くその場に佇んでいた。
「デースさん、イルロイドの指揮が出来るよう待機するとか言ってどっか行った……何とかなったみたいだね」
やがてロージーがやって来るとそう言って、デースさんじゃなくてケイトさんだよと言おうか迷うくらいには、続いてた淡い放心状態が解けてたっぽい。
その後私はイルロイドを着々と撃破して行くバハムート砲台の護衛に回り、エリーとの戦いで消耗はしてるけど、まだ余裕はある方。
ラディサが立てた今回の侵攻プランもあとは残ったイルロイド12体の侵攻を防ぎ切れば終わり……各デモナスがイルロイドを動かして自らも連携するという実戦的な内容。
バハムートはあと何基かあるけどミスリル徹甲弾の消費が厳しい中、私が防衛してるのは戦艦主砲部分に艤装された2番目にミスリル徹甲弾が残ってるヤツ……各地点にはオルハが複数機配備されてて……私の横にいるオルハからルタちゃんが言う。
「ラディサ殿が本気で攻めて来れば、ここまでバハムートが温存出来てるとは思えぬのぉ。そしてこの演習紛いの侵攻もバハムートを無傷のまま終わらせる気は無いじゃろう……此度はしっかり凌ぎ切らねばのぉ」
バハムートくらいの大型兵器を破壊されれば物資面の打撃だけでなく破壊されたバハムートの修理や建造をしてる間にデモナスが襲撃して来るリスクは大いにある……だから今回はバハムートが壊される事無く終わりたい。
暫く経つと骨のような質感で白さを放つボディのイルロイドが仄暗い青緑色に発光し全身からは黒い炎を噴き出してて……それが4体上空に出現。
マギアスが宇宙空間を航行出来たようにイルロイドも地上でかなりの自由度で飛び回れる……ロージーの機体何てずっと浮いてるし。
スカイカーを飛ばせる技術があるとはいえ、オルハのような重量の人工機体を常時ホバリングさせるのは現実的じゃ無いから、空中にいられるだけでも普通に厄介だったりするので気兼ね無く空中動作が可能なマギアスを今まで減らされて来たのは本当に痛手なんだよね。
「1時方向から強力な熱源反応!」
「ブルーコード! シアンバリア!」
クレミーがそう叫んだけから防壁を展開……マゼンタバリアの展開速度に見慣れてたら驚くくらい急速なのが嬉しい。
程なく来た射撃の防御には成功したけど……このサンダーボルトと酷似した攻撃が出来るデモナスは1機しか存在しない――
「今のは細やかな挨拶です……それではセリアさん。宜しくお願いしますね」
赤の暗清色ボディに純白の手足を持ち、その手には前の世界で四天王フルグリリサが使っていた金色の武器トロワカトル……そんなデモナスに乗ってる感じのリリサがそう言った。
イルロイドたちを退けてバハムートを守り切りたいけど、それはリリサがどこまで援護して来るかで変わって来る……ラディサには悪いけどデモナスを1機減らす展開が見えたら、やってみるのもありだね。
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