第21話 この戦場は何色に染まるべきか

「はぁああああ!」


 ケイトさんと戦闘が始まってから暫くして気合入れてそう叫んでる私だけど……今は巨大レイピアが振り下ろされた瞬間で、私がその刀身をシアンウェポンで強化した双剣で斬り付けながら前進中。


 このレイピアを自由にしておくと横に薙ぎ払われるだけでも広範囲攻撃になるからこうして高速で衝撃を与え続けて動作を封じつつ接近するという行動に出た……そしていよいよケイトさんの機体が目前に来て、ケイトさんが発言。


「オー! いい動きデース」


 ここでレイピアを手放して私を殴れば普通に反撃を喰らう状況だけど……このタイミングでロージーに攻撃するよう言ってたので、ロージーの機体の炎となった大きな手がデモナスへ襲い掛かり、それを相手は剣を手放すや素早く回避……さっきはこんなにデカイ剣持ってたのに素早く移動してたから、この動きは本当に速かった。


「本体に攻撃が当たってないねー……あと海側に近付き過ぎた」


 追撃を警戒する中、ロージーがそう言ってた。


 せっかくだからこの班の状況を見て援護もしたいけど、目の前のデモナスを連れて行く事態は避けたい……やがてケイトさんのデモナスは巨大レイピアを拾い直すと、こう言った。


「オー! ラナが頑張ってマース!」


 この班に関する情報はシュシュにリアルタイムで収集してもらってるから、ここにもデモナスがいるのは知ってた。


 今のところイルロイドの侵攻を援護するに留めてる様子だけど……そんなデモナスのボディは黒同然の暗清色の青で手足は色味無しの黒でよさそうだけど金属的な光沢を放ってる……そんな機体がケイトさんに気付き話し掛ける。


「オー! ケイト! 調子はどうデスかぁ?」


 声とそのテンションが完全一致……ラディサの例があったから一瞬で把握出来たので私は呆れた声でケイトさんのいる方へ呟く……ラナと言えばこないだまで上級枠で活動してたAIだし、こういう口調なのは結構有名だったんだよね……。


「デモナスってAIとその本体がセットなのかな……」


 エリーが例外になるけど今まで遭遇した5体中4体がそうなるし、デモナスがAIになった転生者を狙ってるのは、そういう理由もあるのかも……そう考えてたらラナさんの言葉が更に続いた。


「こっちは本格的な攻撃は控えろと言われてるので退屈デース! そっちはどうデスかぁ?」


「噂の青いマギアスと交戦中デース! ラナも一緒に戦いマスかぁ?」

「オー! いいデスねー!」


 というわけで私とロージー、ケイトさんとラナさんの2対2で戦闘再開。


 ケイトさんと違ってラナさんはレムナントは無いけどAI寄りの行動をして来るだろうから油断は禁物……それから10分くらい様子見したけど……戦闘方針が見えて来たので私は態勢を整えるべくコードを宣言。


「クリエイトウェポン! ヘヴィマシンガン。ブルーコード――シアンバレット」


 弾丸の1つを強化するコードだけど、これを私は全弾に対し付与……結構なエネルギー消費になるけど、今の私のマギアスなら気軽に出来る範囲内。


 ケイトさんの巨大レイピアが動けば、この強化弾丸を事ある毎に当てて行くんだけど……問題となるのがラナさんの方、やっぱりこっちの動きの隙を突いた攻撃をして来るね。


「クリエイトウェポン! リロードバレット! まだまだ行けマース!


 サブマシンガン二丁で常に私とロージーを同時に狙う事も視野に入れてるラナさんがそう叫んで銃弾を補充。


 私は発声せずにロージーとメッセージでやり取りを続け……更に戦闘を続けてるとケイトさんの巨大レイピアの刀身に亀裂が走り始め……そこに銃撃を加え、さっきから両手で振るわれてるレイピアの破壊に成功。


 やっぱりメナスウェポンはマギアスで言うマゼンタコードと同じで、対象の強度を高める事で威力を上げるコードだから物理的に負荷を与え続ければいずれ壊れる……絶好の攻撃のチャンスが出来た状況で、手筈通りロージーが炎の方の手を仕向けケイトさんの機体に襲い掛かる……そして次の瞬間――


 ラナさんがそんなロージーの機体を狙って射撃し始める直前を見計らって私はラナさんの方に突進、コードは発声しなくても入力出来るから無言だったけど、もし叫んでたらこんな感じになってたろうね……。


「クリエイトウェポン、ブロードソード! ブルーコード――フリーズウェポン!」


 この機体は武器の生成や武器を特殊な状態にするまでの時間が素早く出来る、この少し離れただけの距離を突き進む間に終われるほど……ラナさんの機体はサブマシンガンを数発撃った段階だから私の突撃に満足に対応出来ずに剣は脚部に刺さる……と言っても、表面に剣の先が触れた程度だけど、これで十分――


 やがて刀身が青色の光を纏う幅広の剣の先を起点にラナさんの青味掛かったデモナス機体の左脚部分が氷で覆われ始めた……一見すると冷気による氷結効果だけどルタちゃんに検証してもらった結果、どうも科学的な凝固とは食い違う部分もあって……とりあえずこの冷気を浴びせれば何でも氷漬けに出来る感じだった。


 青味を帯びた氷自体も水が凍っただけで成せる強度じゃ無いから、こうして両足にまで及んだ氷結状態からは簡単には抜け出せないはず……。


 ケイトさんの巨大レイピアは破壊したけどレムナントだから、もう今この瞬間に再び出して振るう事も出来るんだよなぁ……あとレムナントって機体のエネルギー消費無しで使えるんだよね。


 ラナさんの足元部分がしっかり氷で覆われてる事を確認した私はヘヴィマシンガンに残ってる強化弾丸を全てラナさんに浴びせてみる……多少の変形はしてるけどデモナスにも回復コードがあるみたいだから、この程度の損傷はすぐに修復される……ケイトさんはまだ巨大レイピアを出し直して無いみた――


「やっぱり厄介だね。その青いマギアス」


 そう思ってたら聞こえて来た、エリーの声が……その声が更に響く。


「ラナ。セリアはわたしが引き受けるから下がって。ケイトは大きな方の機体を遠くへ引き離して……辺り構わず攻撃するから」


「オゥ……ここは引き際デスかー」

「ラジャー!」


 ラナさんが忽然と姿を消し、巨大レイピアを再出現させたケイトさんはロージーが私に加勢するのを阻むように行動し始めて……エリーが呟く。


「今日この場でセリアを倒す必要無いけど……今ここでそのマギアスを葬った方がこの先やり易くなる……殺す気で行くよ」


 淡々と喋ってた声が最後の一言だけ突き刺さるような殺意を帯びてて……エリーは更に力強い声でこう言った……その手にはいつものレムナントを構えてる。


「ブラックコード――メナスエンタイア」


 エリーのデモナスは赤紫色を帯びた黒の暗清色で、その手足部分はライトグレー。


 そんな機体全体が不気味な明るさの青緑色で覆われると全身から黒い炎を噴き出し始めたから全身にメナスウェポンを掛けたみたい……エリーは更に言葉を続けた。


「クリエイトウェポン。ヘヴィマシンガン」


 空いてる左手で大型機銃の片手持ちという無茶してるけど……その武器も既に強化状態なわけで、中の銃弾全てにも適用されてると考えていいね……。


 すっかり戦意剥き出しのエリーだけど、せっかく会えたんだから少しでもいいから話がしたい……何でもいいから――


 そう思ってた私は思わずこう呟いていた。


「ねぇ、エリー」


 その後に続く言葉なんて考えて無かった、ただエリーと話がしたいという感情だけで口が動いてた……そんな私にエリーはこう言うだけだった。


「集中するから。話し掛けないで」


 そして始まったエリーの攻撃は殺意とか、怒りとか……そんな感情が一切込められて無くて、無機質な剣が闘志を纏って襲って来るのと変わらないものだった。


 私が目の前にいてもエリーは何も思ってくれないって事なのかな……そんな寂しさを抱えながら、私はエリーを見つめていた。

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