第20話 悪夢は剥がれ落ち、輝きへ
「この会話をしてる間は戦う気はありません。何かお喋りになる質問があれば何なりと……」
「はいはーい! ラディサと声が似てるけど姉妹とかですか?」
リリサの持ち掛けに早速ポチがそう聞いて……すぐにリリサは答えた。
「皆様には本体が待機されておりますが、わたくしはラディサの本体が転生する事態となり、ここにいる次第です」
「え……?」
「それって……」
シュシュとクレミーが唖然と言う中、今度はラディサが発言した……リリサと比べると本当に落ち着いてて、ゆったりと余裕のある口調で……。
「そう。リリサがAIとしてこの世界で過ごしたのが、このわたくし、ラディサなのです。リリサ、ここからはわたくしから話したいのですが、よろしいですか?」
「そうですね。お願いします」
リリサがそう言うとラディサの背後に回った。どうやらラディサは私たちと本気でお喋りしたいみたい……それにしてもロージーが完全に置いてけぼり……とりあえず私はこう切り出してみた。
「じゃあラディサは前の世界では魔王軍幹部に転生したの?」
「はい。最初は魔王に転生する事を検討していましたが、地球人時代の記憶が十分な条件で残る事を踏まえた末、魔王軍幹部という選択に至りました」
「魔王に成り切ってロールプレイ……確かに浪漫だなぁ」
ユズがそう言ったけど……確かに普段勇者として魔王を倒すゲームをやってるなら魔王側でプレイしてみたいという気持ちは解らなくも無い……ラディサはそんな機会を得たと思ってフルグリリサに転生した感じかな……ラディサが更に続ける。
「前の世界では魔王軍四天王として、わたくしなりに頑張りました……それは人類の敵としての役目を全うしたという事でもあります。それなのにレイチェル様はわたくしがこの世界に転生する資格は失われていないと仰ったのですが……デモナスとなったエレスタに倒される事で、わたくしもまたデモナスに転生したようです」
「実際に自ら手に掛けた転生者には会ったりしたのかな?」
クレミーの質問にラディサは調子を崩す事なく答えた。
「みんなと仲良くさせて頂いた頃は会えませんでしたね。最期にやっと会う事が出来ましたが、それはデモナスとなって自己紹介を交わした際に判明しました」
「……まさか!」
私は思わず叫んだ。私がうららのライブに行って、ラディサのサーバー本体を破壊した実行犯って……私が言葉を続けるまでも無く、ラディサが言った。
「はい、エレスタです。リリサ、あの光景の話をお願い出来ますか?」
「わかりました。エレスタの所属した魔王軍討伐部隊はわたしくしで無くとも全滅していたでしょう……1人1人の顔を覚えるには個々の戦闘時間が短過ぎました……これでよろしいですか?」
「十分です。では話を続けましょう」
エリーは参加した部隊が全滅した事でこの世界に転生する事になって……その部隊をエリーも含め全滅させたのがフルグリリサ……そんなリリサに発言を交代させたと思ったらすぐにラディサに戻って来て……ラディサが更に言った。
「その事実をわたくしとエレスタが知ったのは最近の事……そして、エレスタは私に――」
「うわぁ」
「出会ってしまった」
「因縁ヤバイなぁ」
「復讐すべき相手に殺されたわけだし」
相変わらずロージーは大人しく黙ってるまま皆が一斉に発言……そういやこんな事があったなぁ……。
あれはエリーがデバウアー迎撃任務に追われる日々の中、カフェで私と会話する内に転寝して……暫くして目を覚ましたエリーは何だか様子が穏やかだったから先ず私はこう言った。
「おはようエリー……いい夢見てたの?」
「うーん……その辺は微妙なんだよなー……聞く?」
エリーはやたらと困った感じの歯切れの悪い調子でそう言ったけど、私は特に考えもせずにこう言って会話は続いた。
「うん。聞きたい」
「前の世界で死んだ時の夢で、普通に考えれば悪夢なんだけど……わたしが殺される所までは行かずに皆がただただ葬られて血も流さずに倒れて行く様を延々と眺めてる光景が続く夢……絶望的な状況だけど、やっぱりあの光景は印象的だったから」
「う、うん? と言うと?」
「今もだけどあの頃は戦いばかりだったから……煌びやかな光景とは無縁な日々だったから……戦場で綺麗なものを見たら結構心に焼き付いちゃったんだろうね……それが夢で美化されるまでになった」
「あ、あー……」
その時私は情報がやや断片的だから分かったようで分かり兼ねてる声を出して……やがてエリーはもう少し具体的な事を言ってた。
「あの四天王は無駄な事をせず、ただ戦場に赴いた者としての務めを果たす為に純粋にわたしたちと戦って……眩いあの景色は本当に印象的だった。それでも皆が死んだ光景だから、いい夢だったと言うのは……躊躇う」
そんなエリーに私は何も言えなかったと言うか……感慨に耽ってるエリーを邪魔したくなかったのと、そんなエリーをただ眺めていたい気分になってたから、そのまま私は沈黙……そんな時間が延々と続いたんだったかな……さて、ラディサの言葉が続いてたんだったね。
「わたくしは魔王軍幹部としての役目を果たす為に行動したのだから、それを恨むなどの感情は無い……素晴らしい景色をありがとう……そんな風に言っていました」
これに対し皆が戸惑ってそれぞれ一言発してたけど……希望の無い絶望的な状況でも輝いて見えるものがあったって事なんだよね、エリーには。
「さて、そろそろ皆様がイルロイドと命名した兵達をわたくしどもで動かす時間が近付いて来ましたね……わたくしとリリサはこの場を下がりますが、言われた通りにわたくしどもが会話してる間、大人しくしていましたので……お相手して頂ければ有難いです……もういいですよ、ケイト」
ラディサがそこまで言った次の瞬間、索敵情報を担当してるシュシュが叫んだ。
「11時方向に巨大な物体接近中!」
私は咄嗟にその場を大きく離れるように跳び、ロージーも被害無く回避し大きな手を強化するコードを叫んでた……私が着地した大体直後、見知らぬ声が響いた。
「オーノー! かわされたデース!」
さっき呼ばれてたケイトさんなんだろうけど……私を狙ったのは大きな剣で、それはクリエイトウェポンで生成出来るような代物じゃ無いのがひと目で判ったので、ポチが形状を算出出来るように側面が見える位置へ移動。
この剣を振り下ろして来たデモナスの方はボディは黒に近い黄色を帯びた暗清色で手足は白とライトグレーによる6対4の縞模様……程なくモニタにウインドウで表示された武器の形状を見て、ポチと私が言う。
「形状だけ見ればレイピアだね」
「レイピアって片手剣だよね……?」
「グレンダさんの機体くらい手が大きければ片手剣でもよさそうだけど……」
クレミーがそう言った……レムナントで間違いないだろうけど人間の背丈に換算すると、あの細長い剣の刀身は黙って4メートル以上ある事になる……前の世界だったら巨人用に作った武器と考えればそこは自然だけど……それをレムナントになるまで人間の身で扱えてた事になるわけで……ここでケイトさんが発言。
「ではこれならどうデース?」
初撃を入れた巨大レイピアが未だに動かされて無い中、ケイトさんが叫ぶ。
「ブラックコード――メナスウェポン!」
次の瞬間、全長32メートルの私のマギアスから見ても刀身の長い巨大レイピアは仄暗い青緑色の輝きを纏い、その全体から黒い炎が噴き出すようになった……とりあえずこの地点と他の班のいる沿岸部の傍を行き来する感じで戦闘してみるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます