第四章 命運と運命
第19話 雷は訪れる
「ラディサ殿もなかなか惑わせてくれるのぉ……」
今日はルタちゃん家という呼称で定着したレヴァンテイン・インダストリー社長室に集まって作戦会議と言う名の雑談。
ロージーもすっかりこの部屋に通い慣れて、着てるパーカーも少し前の2種類買い条件セールの時に2つ目をどうするか悩んだ私がロージーに相談した時に選んだウミウシパーカー。
その時買ったパーカーを私とロージーは着てるけど、ロージーのは薄い紫色と白い線が入った頭のオレンジ色部分が2本角みたいになってるシンプルなものなのに対し私のは彩度が高くて青がメインだけど真っ赤な色が結構あって白抜きによる斑点模様が味わいと気色悪さを醸し出してて、警告色の二の舞をしてる気がしなくも無い。
「
再びルタちゃんがそう発言。
こないだのエリーとデモナスの様子から何者かに操られてると考えようにも、その強制力が中途半端……今回何てラディサが次の行動内容をネットで発表する始末……一定以上の攻撃は行わないとまで宣言してるし。
デモナスとは違うあの意志を持たない白い機体状のもの……今では『イルロイド』という名前が定着したけど、それを50体送り込み、エリーたちも多少の事はする中イルロイドを全て倒せば、その日はもう襲撃は行わないって内容なんだけど……ここで問題になるのが――
イルロイドは今後も増えるし、エリーたちが制御を行わなければ対象を襲い続け、その数は今後も増えて3桁では済まなくなる可能性だってある。
「ミスリルがもっと潤沢にあればよかったのですが……未だに資源惑星に辿り着いていなかったのが悔やまれますね」
森の妖精辺りをコンセプトにした鮮やかな緑色と落ち着いたアースカラーからなる服装はメイドさんっぽい雰囲気もあるからと、お洒落な茶器まで持参してさっきから黙って紅茶を淹れてたリーナちゃんがそう言った。
この世界には前の世界みたいなミスリルやオリハルコンという特殊な金属が幾つかあるけど……ミスリルに関しては前の世界とは大きく異なってて、この世界のミスリルは常温で液体……そして何の物質を加えるかで、その性質がガラリと変わる。
ミスリル単体では水銀と同じ見た目だけど、それが色だけでなく硬さなども変化し水晶のように透明になったり低密度高強度の素材が作れたりと様々……高速徹甲弾は重い金属を軽い金属で包む感じに作るそうだけど、それがミスリルによる化合物だけで賄えたりするから、インフラにも兵器にも使える便利資源。
そんな凄い金属たちが豊富にある生命のいない星が『資源惑星』……地球で言う月に当たる近場の衛星でもお試し程度の量しか無いけど採る事は出来る。
リーナちゃんが言ったように今まで資源惑星に辿り着いてればミスリル製の徹甲弾が撃ち放題になるくらい豊富に手に入ってたし、デバウアーの時だってミスリルとの合成で侵食されない合金が出来たりすればマギアスに頼らずともデバウアーの侵食を受けない人工機体を量産する事だって出来た。
「前回使ったのは従来の金属による徹甲弾でしたね。今回は各企業からミスリルをかき集めてバハムート用のミスリル徹甲弾を用意出来ました。イルロイドに通用するのは間違い無いですが、弾数が……」
リーナちゃんの声色も重苦しい……私を除けば皆、結構洒落た格好でお茶会してる光景なのに部屋の中は明るさとは程遠いもので満たされてた……そんな中――
「このケーキ美味っしいー!」
「それは新作シリーズの中で人気を博したものの復刻版じゃ。幾重にも重なった数多の素材によるケーキの層とその味の調和……何度食べても見事よのぉ」
ロージーがお茶と一緒に食べてるルタちゃんの接客用ケーキに対し叫んだから少しは場が和んだかも……やや暫く経ちルタちゃんが私の方を向いて、こう言い始める。
「お主の青い魔石によるマギアスについて色々試させて貰ったが……どうも防御力と回復速度に優れているようじゃのぉ。片腕が取れても戦闘中に修復する速さには驚かされたものよ……考えてみれば従来のマギアスが遅過ぎるのかもしれぬ」
「回復速度計算したら行けそうな気がしたから言ったんだけど……いやぁ、ちゃんとその通りになってよかったよ!」
ユズが私のパーソナルデバイスからそう発言。
あんまり無茶は出来なかったけど新しいマギアスの使い勝手はある程度探れた……私のマギアスに関してメディアが欲しそうな情報は全部ルタちゃんが押さえて出来るだけ公開したから、ルタちゃんの検証に付き合わされた事を除けばここ最近はその辺で慌ただしい日々を過ごす事は無かったね。
そんな感じで全く備えが無いわけじゃないとは言え不安が残るままラディサが指定した日とその時間を迎え……私は仮想空間をその場で展開して、いつものお茶会メンバーと会話を始める。
ポチは珍しく人間アバターで服装は白ワンピースにリボン付きつば広帽子で、シュシュはいつもと同じ小悪魔少女スタイルを成人アバターにしてて……ユズは私が最近結構買い足したアバターからストリートファッションな装いを実現した上で賢者職辺りが着てそうなロングコート式のフード付きローブを羽織ってる。
クレミーはやっぱり天使オッドアイ少女姿……フルダイブじゃないので私はリアルと同じ姿してるね……まずはクレミーが喋り出し、シュシュが続く。
「敵側にリーダーいないって言っても、ラディサちゃんがリーダーしてるとこあるよねー」
「ラディサちゃん。忙しい忙しいと言ってたけど十分通ってるってくらい顔見せてたし、時間ある時は前の世界での話もしてくれた……」
「あんな事が無ければ今もこうやって皆と会話してる時にふらりとやって来てティーカップを優雅に口まで運んで……それにしても死んだけど死んで無いというのが」
「ラディサは本来一時的な存在だった転生者用AIが死んで、デモナスのパイロットに転生した感じだから……そもそも私たち転生者用AIの段階でややこしいよ……」
ユズの後にポチがそう言って……今度はクレミーが発言した。
「私たちみたいな、そこらのAIには転生者でもデモナスは狙って来ないみたいだけど……イルロイドは無差別で襲って来そうだから、もう安心は出来ないんだよね」
デモナスは転生者入りのAIも狙うけど人類への大規模な支援を行ってるわけじゃ無いパーソナルデバイスの範囲で留まってるAIが狙われた例は未だに無い。
それはラディサがイルロイドを温存する為に抑止してるとも考えられるけど自らの意志を持たないイルロイドを放てば、ここにいる皆だって襲撃対象になる……だからこうしてお茶会メンバーのAIは私の周囲にパーソナルデバイスごと集めてある。
ラディサは今回の襲撃が最大12時間だと発表してて、各々のマスターとはパーソナルデバイスが無いその間の過ごし方も踏まえて話を付けた……クレアはアクションゲームを扱いの難しい武器縛りで2周クリア目指すって言ってたなぁ……。
既にマギアスは呼び出してるから今私はコックピットの中……従来のマギアス同様この機体もAIのサポートを受けられるし、それに必要なインフラ設備もルタちゃんが充実させてくれた。
そろそろARでコックピット内に投影してた、お茶会光景を閉じるかな……皆のアバター表示はそのままだから私の周りにいるのは変わらないけどね。
「へい! そこの可愛いお嬢さん! アタシと……やっぱ普通にやるね。とりあえず今日を凌ごうか……頑張る」
既にマギアスに乗ったロージーが私に話し掛けて来た。
今日の防衛戦は地上で行われるから、この周囲には建物があるけど……25メートル前後の複数の人型機体が敵性存在の群れを迎え撃てるようなスペースは防衛暦が始まった頃から幾つか設けられてて、私とロージーがいるのはそんな一画。
沿岸部にいる他の班は海上でイルロイドたちを迎え撃つんだけど……ここからなら加勢だって出来る距離。
コードの中には水面が広がってるほど地面みたいに水上を移動出来るのがあるから敵が海上にいると戦い易い……リーナちゃんの会社が製造した艦船にあのバハムートを搭載すれば、かなり心強い戦力にもなる。
ラディサが組んだ日程によると、最初の1時間はイルロイドが5体現れ、海上から地上への侵入を目指す……それから時間が経つにつれて条件が厳しくなって行く感じだけど流石に最初はオルハたちでも何とかなりそうかな……そして何事も無く30分が経過すると……ユズが叫んだ。
「前方にデモナスが2体出現! ラディサの機体と……トロワカトルを使う機体!」
4名のAIがが本気を出して周囲の異状を監視してたのに、何の前触れも無く私の目の前にデモナスが2体現れた。
そしてこの赤味を帯びた黒いボディに純白の手足を持つデモナスのパイロットが誰かは判明してるも同然……前の世界では結構有名だったから、皆ネットで口を揃えて言ってた……まずラディサが発言した。
「今日はいい天気ですね、ルー」
「2対2で戦いに来たの? ラディサ」
「いいえ。シュシュ、ユズ、クレミー、ポチ……せっかくみんな集まっているのですから……みんなにリリサを紹介したくて来ました」
ラディサのその発言で確定した……やっぱりそのデモナスを操縦してるのは――
「皆様、お初にお目に掛かります。ラディサと仲良くして頂き感謝しています。皆様とは一度お会いしてみたかったのです」
例の機体から聞き慣れた感じのする落ち着いた声が厳かに響く……語気が少し荒々しい部分もあるけどラディサの声とそっくりかも……程なく前の世界では魔王軍幹部にして暴雷の四天王――フルグリリサの言葉が更に続いた。
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