第18話 デモナスとその脅威
「やはり通常兵装では歯が立たぬのぉ……」
「マゼンタハンドだと完全じゃ無いけど防げてる」
ルタちゃんとロージーがそう発言……あれから戦闘が続きマギアスの消耗度合いは私がエネルギー44%、損傷率32%でロージーがエネルギー79%、損傷率6%。
量産兵はデモナスの劣化版ではあるけど、その装甲はマゼンタウェポンで強化してやっと太刀打ち出来る強度だから、大幅に劣ってるわけじゃない……。
「そういえば、この白いの……わたしたちで操作する事も出来るんだよね」
不意にエリーがそう呟くと、戦闘に参加出来ていなかった1体が一直線に動き出してエリーの傍まで来るとエリーのデモナス左上腕部に手刀を浴びせたけど……自分の装甲を貫けるだけの威力があるか確認したかった感じだね……結果は拡大して見ても無傷だった。
やがてエリーはデモナスの手をかざすように前へと伸ばし、呟いた。
「ブラックコード――メナスウェポン」
次の瞬間、私が応戦してた方の量産兵の青緑色の眼球部分が発光……全身から黒いオーラを噴き出し始めて、それまでの攻撃が継続されたものの炎状態の私がダメージを受ける事は無くて……またもエリーの声が聞こえた。
「ブラックコード――メナスウェポン」
今度はエリーの傍の量産兵が同じ状態になり、私の目の前の量産兵の状態は解除されずにそのまま……つまりデモナスがいれば、こんな風に強化状態の量産兵を複数体生み出せるって事だよね。
引き続きエリーが呟いたけどロージーとルタちゃんも発言した。
「遠くにいても付与出来るみたい……武器扱いなんだなぁ」
「……ヤバくない?」
「これは……致し方あるまい」
そしてルタちゃんは心苦しそうな声で更に続けた。
「のぉ……ラディサ殿。あと10分ほど猶予を貰えんかのぉ……其方たちに対抗すべく作った兵器の転送がもう少しで終わるのじゃが……その兵器が強化状態の白いのに通用するか試させて欲しいのじゃ……ダメかのぉ?」
ルタちゃんが今回の作戦を敵側に暴露してしまったけど……今後の為に今は勝利よりも色々試したいという事情は向こうも同じ。
今日もマギアスのパイロットを2人失い、マギアスがいなくてはこの白い量産兵すら対抗手段が無いとなったら人類が負う事になる絶望は大きなものになる……だからルタちゃんは賭けに出た感じだね。
「わたくしは構いませんが……エレスタは?」
「その兵器をいつでも破壊出来る位置で待機して、余計な事したら破壊……その前提はあるけど提案には協力するよ」
あっさり乗ってくれたような状況にはなった……それから10分が経ちそうになった頃、足場となってる建造物の一画が左右に開き、音を立てながら巨大な物体が迫り上がって来た。
強化された量産兵の位置は既に固定されてて、どんな形状の兵器かを知ったエリーは機能停止が即座に狙える位置へと陣取る。
「ご協力頂き本当に痛み入る限りじゃ。さて、これはまだベータ版じゃが……」
「ほへー」
「これが……」
「バハムート……ですか」
間の抜けた声をロージーが出した後に私が発言したらラディサが一番美味しい台詞を持ってった……現れたのは超大型でその口径もとんでもない、レールガン式の三連装砲……開発中だからデザインは簡素だけど、既に圧巻ものだなぁ。
エリーがあの剣を振り被っていつでも砲身部分を断てるように警戒……ラディサは的である強化量産兵の真横で観察待機してる。
「では見せて貰うとするかの……放てぇーーい!」
ルタちゃんがそう叫んだ次の瞬間、バハムートの砲口から轟くような音と共に弾丸が放たれ、辺りに衝撃波が広がる。
今も全身が黒い炎を纏ってる強化兵はラディサが固定してるので弾丸は狙った胸部を完全に捉え、命中……強化兵の胸部は穿たれ、その周囲には放射状にヒビが入ってる……三発同時に当てれば撃破が見込めそうな結果。
「……2発目は少々お待ちください」
ラディサがそう言ったので、その通りにしてると強化兵のヒビ部分の修復が始まり穿たれた部分も次第に塞がって行く……完全に塞がるまでは5分くらい掛かった。
そういえば血みたいなのは流れて無かったから、一応はロボット機体なんだね。
「では2連続で当てて下さい」
「再生能力……マギアスにも一応あるけど」
ラディサの後に私がそう言ったけど、物言わぬあの量産兵もマギアスと同じようなコードが使えるという事かな。
その後、バハムートの弾丸は2発直撃し、効率的に破壊出来るよう計算してたから強化された状態の量産兵は胴体部分が消し飛ばされ、散らばった四肢から再生が始まるという事も無くて……それを確認したラディサが言う。
「本当に最後まで威力テストに徹しましたね……エレスタ、そのバハムートは今日のところは破壊しないであげましょう。そろそろわたくしどもも活動限界です」
「今日は本当に持つなー……これなら次はまともに活動出来そう」
エリーがそう言った次の瞬間、私たちの目の前にあの白い量産兵が4体現れた……新しくだから、この場に8体いる事になる……やがてラディサが続けた。
「ブラックコード――メナスウェポン。それでは次があれば、また会いましょう」
「こんな感じで、これからはこの白い兵隊が突然沸いてマギアスとかを襲うんだね……これから数が増えて行くはず」
ラディサは既に強化された1体を除いた7体の量産兵を強化し、それを見たエリーが呟いてた。
ずっと炎状態で過ごしてた私のエネルギーは残り11%……置き土産の8体を相手取るのは分が悪過ぎるけど……。
「ロージー。私が引き付けてワームホールを開くまでの時間を稼ぐから、上手く撤退して……後の事はお願い」
もう私はこうするしか無い……ここで起きた出来事は大手メディアのチャンネルで生配信されてるんだから今まで得た情報は人類に共有されてる……今回の作戦の成果としては有り得ないくらい大収穫。
大した力の無い私が生き延びても何にもならない……エリーの事で傷心してるヒマさえ、もう無いんだなぁ……。
「……わかった」
聞き分けのいい言葉がロージーから返って来た……それじゃあ、やるだけやってみよう。
その後は何とか8体とも皆から遠ざける事が出来た……何も考えずにマギアスを追い掛けるだけの存在が相手だから、難しい事じゃ無かったね。
エネルギーは残り3%……これが無くなれば、さっきから何度も喰らってるはずの銃撃に斬撃に手刀……その数々が無効化出来なくなる以前に私は宇宙服で放り出されるわけだけど……程なくその時が来た。
マギアスが解除される際は全身から赤い光を放ちながら無くなって行くんだけど、その大量の赤い光全てがルビーの破片のように見えて……綺麗だった。
少し前からずっと魔石を出しながら手の平を眺めてた……ただでさえ小さな魔石が一層小さくなって、そんな小石と呼べるかも怪しい私の魔石も無くなっちゃった……ここは宇宙空間だから落下はしないけど、強化兵のどれかの攻撃が当たるのも時間の問題……ロージーは大人しくワームホールで帰ってくれたね。
援護してくれてるオルハもあと1機だけど、もういいよ……私はもうすぐ……そう思ってたら――
突然、私の右手が急に輝き出したので慌てて目をやるとそこには魔石らしき形状のものが光を放ってた。
それは単色の青い結晶で大きさはエリーの魔石くらい……青い輝きは本当に強く、凄まじい力が秘められてるという確信が押し寄せる……あぁ、そうか――
――この世界には……あるのかな、奇跡。
マザーデバウアーに総攻撃を仕掛ける前にエリーが零した言葉……それを思い出してたけど、今なら言える……エリー、こういうのがね……私は青い魔石を握り締め、口を大きく開き……まずは心の中で呟いた。
「――奇跡なんだよ」
そして叫んだ……多分、言わなくてもいい、この言葉を呪文のように――
「サモン――マギアス!」
そろそろ無くなり始めた数多の赤い光に青い光の群れが混ざり始める。
強化兵は急に小さくなった私を見失ったのかこの青い光に圧倒されたのか……妨害とかが一切無いまま私は機体を出現させ、周囲のコックピットはいつもと違う景色。
この機体で何が出来るかは、もう頭の中に流れ込んで来てる。
「クリエイトゥエポン。デュアルソード」
まず私は両手に片手剣を生成し……続けて言う。
「ブルーコード――シアンウェポン!」
これはきっとマゼンタウェポンやメナスウェポンと同じ、持ってる武器を強化するコード……さて、敵は8体とも周囲にいる……だったらこの技を叩き込む!
私は2つの剣を無駄なく振り回し8体の白い強化兵を踊るような動きで切り刻み続ける。
一撃一撃の感触はそんなに深くは無いけど……この攻撃を絶え間なく当て続けてればいずれ相手がズタズタになる事は前の世界のモンスターたちで実証済み……特に数が多いだけの相手には何度もお見舞いした……その刃をここでも振るうだけ。
強化兵が再生しなくなるまで、ひたすら切り刻み続け、時間は掛かったけど正面だけでなく背後に回る斬撃を織り交ぜ8体全員に満遍なくやってるから、何も思考能力が無い強化兵から反撃を受ける事は無く、新たに敵が現れる事も無かったから、8体全ての撃破を終えた私は開け直してもらったワームホールで帰還。
この時の映像は後から確認出来た……青い魔石で喚び出した人型機体の全長は32メートル……要所要所のフォルムが洗練されてて、ボディは大理石の一番白い部分だけで構成されたような白さと質感を放ち、所々にある鮮やかで青いラインは面積比的に結構な分量で、手と足の部分は銀色の金属で出来てるかのような色と質感。
今もこの手の平で青い魔石を出す事が出来るから、この青いマギアスは私の機体だと言ってよさそう……本当にあの時、『奇跡』が起きたんだなぁ……だったら――
私とエリーがもう一度やり直せるくらいの未来がこの先あるって奇跡……信じてもいいのかな?
でもまずは……この世界に奇跡はあるんだって、エリーに伝えよう……やっぱり、エリーへのこの気持ち、ずっと私の中で変わってない。
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