第17話 骸の群れは白かった
「ここからはわたくし……ラディサも皆様とお話しようかと思うのですが……如何でしょう?」
「ならば余も混ぜて貰おうかのぉ」
ラディサがそう言うとオルハの1機が私たちの所までやって来て……地上でオルハの遠隔操作部隊を率いてるルタちゃんの声が響いて……ラディサが答えた。
「それではわたくしからお話ししましょうか? あなたの方から質問しますか?」
「そうじゃのぉ……まずは――」
こんな感じでラディサとルタちゃんの会話が始まって……辺りはさっきまで死人が2名出たとは思えない空気になった……他の場所ではあるけど。
「お主らのリーダーは誰なのじゃ?」
「その質問にはお答え出来ません……これは解答拒否では無く、本当にわたくしどもにはリーダーが存在しないのです」
「お主らの目的は何なのじゃ? 今後の敵性存在の備えであるマギアスとAIに転生した者を亡き者にして行く事……普通に考えるならば人類の滅亡がお望みとなりそうじゃが……」
「わたくしどもは人類の滅亡に繋がるような事をしてはおりますが、それは優先される目的ではありません……わたくしどもはただ、マギアスを扱う者とAIに転生した者を殺す事……それが唯一の目的です」
「……どゆこと?」
ロージーが唐突にそう言ってた。
確かに人類の殲滅が目的なら障害となるマギアスが集中してるここよりも、手薄となった地上へ赴いて発電所などのインフラを攻め落とした方が効果的……それも今回の悪夢のシナリオの1つだった……なのにデモナスは揃いも揃って私たちがいるこの宇宙空間へやって来た。
「もう少し詳しく言ってくれぬかのぉ」
「それを行う事こそがわたくしどもの在るべき姿である……衝動とはまた異なるもので、わたくしどもという存在はその為に在るという強い確信が身体に満ちている……本能と呼べる程に」
「だから言ってしまうと、別にマギアスもAIも殺さなくてもよかったんだよね……デモナスの手で殺せばこちら側に引き込める時があるから最近は頑張ってたけど……リーダーいないから、このまま目の前に獲物がいるのに、ここで踵を返して行動終了しても、誰かに怒られたりするわけでも無い」
ここでエリーがそう発言……本当にデモナスに関する情報をどんどん喋ってる……そしてエリーの言葉が更に続いた。
「何て言うのかな……マギアスとデモナスを殺すのは、わたしたちの身体に流れてるエネルギー自体が命令するというか……んー、そう言うのも違う気がする……」
「話し合いの余地が有りそうで、無さそうじゃのぉ……」
ルタちゃんが嘆くようにそう言った。
要するにデモナスたちを放置してたらマギアスのパイロットと転生者AIは殺されて行き、それはデモナスの戦力増強に繋がる……今の内にデモナスを滅ぼすしか人類が生き延びる道が無いって事になる。
「これも聞いておこうかのぉ……お主らは何者によってデモナスにされたのじゃ?」「そんな方はいません……という回答は有り得ませんね。少なくともわたくしは確認していません……エレスタもそのような存在は見ていないのですよね?」
「うん……気が付けばデモナスを喚べる存在となっていた、としか……」
「そういう事ですので、その質問の回答は……少なくともレイチェル様ではありません、別の存在によるものです……となります」
「お主らは普段、何をしているのじゃ」
「……眠っている……のかな?」
「目が覚める度に自らはマギアスのパイロットとAIに転生した者を滅ぼす為の存在であるという強い意志を伴っている……そんな感じですね」
「どう考えてもお主らを生み出し、その強い意志を植え付けている存在がいそうじゃのぉ……しかし、それはお主らの与り知らぬ存在でもある」
デモナスの実態が大分明らかになったけど……理解は出来ても納得は出来ない内容だなぁ……エリーをこんな風にした存在がいるならば、打ち滅ぼしたい。
「要するに、わたくしどもの在り方は単純なのです……わたくしとエレスタのように自我があっても、それは余分なものであると言えるほど……そして、わたくしどもの理想とも言える在り方を成した者達を……お見せする事が出来るようになりました」
そこまでラディサが言うと、急にエリーが発言してラディサが答えた。
「あ、ラディサ」
「何でしょう?」
「そこの映像装置ハッキングしてセリアにこのデータ……というか今のわたしの姿、見せてあげて……まぁ見た目は人間で通りそうだけど」
「了解しました」
ラディサがそう言うとあれから結局、中途半端に動かしてまだこの近辺に転がったままの映像装置が私が見易い位置まで移動して来て……投影された映像は確かに人型で、魔族のような人外成分は無かったし……顔立ちはエリーとそっくりだった。
あの見事に編み込まれた髪は全て下ろされ、その色は濃い水色だけど髪のある程度下から先端に掛けて真っ赤な色へとグラデーションしてて……瞳の色は炎を眺めてるような気分になる赤系の色でオレンジ色が入ってるから一層激しい色に見える。
服は顔から下の部分を覆ってて……デザインは違うけど、今日の私たちが着てるものと同じ、体型にそのままフィットするタイプのパイロットスーツ……つまり顔部分しか肌が見えないけど、普通の人間の肌の色だと断言出来る色で、髪と瞳の色がこんなだから雰囲気が異様になって見えるだけかも……。
「では先程言った事を始めますが、果たして何体出現するのか……とくとご覧あれ」
ラディサがそう言って……程なくオペレーターの叫び声が聞こえた。
「B班の目の前に未確認の白い人型機体が出現しました! 全く同じ姿の機体が……3体います!」
作戦に出撃してる全てのオルハの視界を見れるルタちゃんなら状況を把握してるはずなので、どういう事かと尋ねようかと思ったけど……すぐに私たちの目の前にも5体現れた。
全長は25メートルという認識で十分で、人型だけど全体的なフォルムが生物的な印象が目立つ……全身が一体化してるからロボット感が更に薄れてる。
機体の主な色は白いけど、その質感から骨のような印象を強く受け、体の所々にあの不気味な青緑色が筋肉が膨らんでるような場所で血管のように分布してて……そうかと思えば青緑色の眼みたいな部分としても大中小様々に結構ある……他には黒ずんだ線みたいなものが所々にあるけど……どうやら紫の暗清色みたい。
全体的に見た一連の分布自体は左右対称だけど、さっきエリーが着てたパイロットスーツもこれとよく似たデザインで色に関しては完全一致……この機体もデモナスと呼ばれるのかな……それとも――
「なるほどのぉ……」
ちょっと思考が逸れそうになった時にルタちゃんが呟き、更に続けた……。
「この白い機体はデモナスの兵隊のような存在じゃろう……そして
「この出来立ての白い機体は自我を持たない……何も考えない……現れた場所にマギアス及びそのパイロット、AIに転生した者……それらが存在すれば襲い掛かる……わたくしどもという存在を実にシンプルにした存在です。仰るようにこの白い機体はわたくしどもの方で意図的に動かす事も可能ですが……今は指示を与えなくとも目の前に対象がいますので、このまま見物と行きましょう」
「今日は本当に持つなー……あまり力を使ってないのか活動出来る時間に大分余裕が出来て来たからなのか……とりあえずわたしたちは手を出さずに眺めてるよ……で、いいのかな……ラディサ」
「そうですね……わたくしどもと比べて性能が何処まで上か下か……それを判断するなら今日のところは手出ししない方がよいでしょう」
最後にエリーとラディサがそう言って……現れたのは白い量産型デモナスとでも言えばいいのかな。
5体一斉に向かって来るかと思ったけど、各々が手元にサブマシンガンやガンソードを生成……ウェポンコードが使えるみたい……じゃあ今の内に。
「レッドコード――ファイアライズ!」
左腕が無いのが心許ないけど、どの攻撃がこの状態でもダメージを受けてしまうかの調査はしておきたい……私は叫んだ。
「私が前に出る! ロージーは隙が大きくなった相手を一気に叩き込む感じで!」
「余も出るぞ! ロージーとやら、ガンソードの生成を3機分頼まれてくれぬか?」「あ、なるほど」
ルタちゃんの発言にロージーがそう呟く。
ウェポンコードは通常兵装を生成するから、他の機体に渡せば使えるんだよね……私は炎状態になったから同じ事は出来なくなったけど……ちなみに炎状態のマギアス同士なら生成武器の融通は可能。
こっちの班にもオルハは3機配備されてるから一応5対5の状況ではある……とりあえず私のマギアスのエネルギー状況は68%、損傷率28%……エネルギー切れの前に白い量産兵が活動限界になってくれるといいんだけど……そう思いながら私はこう言った。
「クリエイトウェポン――ブロードソード」
右腕だけで戦うのは慣れてる方だし、援護は期待出来る状況……各班は距離が大きく離れた場所にあるから、トロワカトルとかいう武器を持ったデモナスがこっちに来る心配はまず無い……アーテリヤとこの場所を往復出来るくらいの距離があるし。
戦いに集中しなきゃいけなくなったおかげでエリーの件を考えずに済むのは救いかな……でもこの戦いが終わったらちゃんと考える……しっかり向き合う。
今はまず、固まってる量産兵たちを分散させるよう動くかな……。
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