第15話 雷の刃の先に

「こんな途方も無い作戦……よく通ったのぉ」


 発言はオルハを遠隔操作してるルタちゃんだけど……防衛暦四十三年の夏も近付いて来て、私は少し前に15歳になってた。


 結局オルハマーク3の開発は間に合わなかったものの、そんな時間が満足に無いくらい今回の作戦は迅速に決まった……ジェシー大統領が作戦の必要性を力説したり、うららがそれを後押しする内容で曲を作ったりとPRも活発だったのも大きいね。


 人類初のデモナス討伐作戦だけどこの作戦は無茶さ加減が酷過ぎる……作戦が空振りに終われば膨大なリソースを無駄遣いしたとしてジェシー政権に盛大な亀裂が走るのは目に見えてるし……その事を聞かれると天包院てんほういん優華ゆうかはこう言い放ってたね。


「確かに内閣支持率を大幅に失う懸念は拭えないだろう……だがこのままデモナスたちに敵性存在の備えであるマギアスや転生者AIを駆逐され、立て直せぬまま次なる敵性存在が来れば人類そのものが失われるだけだ! この作戦は今後の敵性存在への作戦の在り方の礎の1つとなる……そんな価値ある挑戦を前に我が身可愛さに逃げ腰になる方が遥かに無様である!」


 とは言え無茶な事に変わり無いから、主な理由を3つほど挙げようか……。


 1つはワームホールの再利用……ワームホールは遠く離れた入口と出口を短い距離で繋ぐ通路みたいなもので、転送装置と違って近道してるだけだから通る対象が何かを損なうリスクが一切無い。


 第二の敵性存在『ブラヴ』……倒すまで一番長引いたこの外敵は自分たちが潜伏してる場所からワームホールを開け、私たちが拠点としてる惑星『アーテリヤ』へ攻め込んで来るタイプだった。


 この時に開けられた穴は後に開閉技術が確立され、今回はそれを開いて利用する感じ……今までは新しい敵性存在に利用されるのを防ぐ為、ずっと封鎖されていた。


 無茶2つ目はそのワームホールを開閉するには膨大なエネルギーが必要な事……エネルギー自体は核融合発電で賄えるけど、開閉を行う際は都市の大半の機能を停止させる必要があるから国民の理解を得る必要がある。


 3つ目はマギアスの大量投入……これを一気に失ったら本当に政権終わっても文句言えない……ただでさえ数の少ないマギアスがここ最近ごっそり減ったんだし。


 今回利用する複数のワームホールに配備されたマギアスの部隊はどの班も少数……その中にはリオさんがいるけど、ワームホールから出る場所はどこもアーテリヤから多少離れた宇宙空間で、位置さえ判ってれば宇宙服で放り出されても救援が問題無く間に合う距離……戦闘となっていいように足場となる建造物も用意されてる。


 そんな場所で幾ら待ってもデモナスは現れずに今日と言う日が終わるのがこの作戦の悪夢のシナリオだけど、全員が生還出来るわけだから最悪じゃない……さてワームホールが一旦閉じられ、班の全員が持ち場に着いたので私も行動を始めよう。


「各機! デモナスの姿を確認するまでその場で待機して下さい。緊張感を保てるのであれば自由時間として過ごして頂いて構いません」


 というわけで私はまたオペーレーターをする事に……一日中現れない可能性だってあるから好きなもの持ち込んで時間を潰す事も許可されてる……パーソナルデバイスには色んなゲームとかも入ってるからね。


 私も片手間に出来る4人対戦ゲームをユズ、クレア、ロージーで遊ぶけど……当然周囲の警戒と監視は怠らない。


「あちゃー……目的地まで2マスなのに6が出ちゃったよー」

「えっ!? 確率128分の1のイベントがここで起きちゃうの?」

「ランダムテレポート効果のカードが楽しくて使い続けたけど……ここ、どこ?」

「全班の周囲異状なし……あ、止まった物件マス、全部買える」


 前のRPG世界にあった都市や村の名前を元に構築したすごろくマップで6面ダイスを振って進む事をベースに様々な効果のあるカード各種の助けを得ながら資金を貯めて各地の物件を買い集め、最初に設定した年数までに誰が一番お金持ちになったかを競うゲーム……マスは青がお金が増え、赤がお金が減り、黄はカードが貰える。


 私とクレアはこのゲームやり込んでるから普通に遊んでて、初プレイのロージーはカード使うのが楽しいらしくゴールする毎に変わる目的地を無視して黄マスにばかり止まってる……ちなみに赤と黄は色んな追加イベントが起きるからリスクもある。


 ユズはこのゲームの内部データを全て把握してるから順調プレイになりがちなんだけど……たまに確率の偏りが押し寄せて思わぬ敗北を味わう事も多々……毎月1人ずつ行動し3月の決算を除くから11ターンで1年が経つ。


 そんなゲームの年数が積み重なる内に、いよいよ異状が発生した班があるので私はオペレーターへと戻った。


「C班が何者かの攻撃を受けました! デモナスによるものと思われます!」


 C班には知ってる人がいないけど、作戦参加者の主な情報は全て目を通してる……この班は男性2名とオルハが3機いる班だね。


「ちぃっ! 今度こそCPUにカードゲームで勝てそうな流れが来るぞって思ってた時によぉ!」


 各々が何をして過ごすかもモニターするって事前に言ってたんだけど、そう叫んだ男性がやってたのはトランプを使ったババ抜きだね……最弱設定を2名入れてた。


 確認されたのはデモナスの武器でよく見られる微妙に明るい青緑色が黒い炎か何かを纏ったようなものじゃなく、エネルギーが稲妻のような軌道を描きながら迸りつつ男性が搭乗するマギアスの位置を狙って来た感じ……そしてこれが何であるかを私は直感的に理解した……でも、そんな事が……? もう少し様子を見よう。


 やがてすぐに第二波が来て、事前に熱源として察知は出来たから男性が乗るマギアスは辛うじて回避……一筋と言うには太過ぎるこの決して直線を描かない荒ぶる一閃を再度見た私は、転生者としてこの意見を叫ばざるを得ない。


「C班が受けている攻撃は転生前の世界にあった魔法――サンダーボルトと酷似しています!」


 動揺が走る管制室を他所にこの雷を撃ったであろうデモナスの姿が見えた……そのボディは黒同然で赤みを持つ暗清色で……一切の灰色が感じられ無いその手足はまさに純白。


 全長は今までのデモナスと大差無いけど、何やら妙な武器を持ってる。


 槍のような長さの剣の刀身2本を上下にくっ付けたようなそれは金色の金属のみで構成され全体の形状が左右対称……刀身には鑑賞性の高い彫刻が施されてて、人間に置き換えれば片方で1メートル越えそうなくらいの長さで、刃の幅も結構な広さでそれが最終的に鋭い先端を為している。


 こういう特殊な形状の武器って前の世界では伝説クラスの固有武器だって相場が決まってるけど……やがて情報が入って来た。


「トロワカトル! あの形状……間違いない……魔王軍幹部の雷の四天王が使ってた武器……あの雷に貫かれて私は死んだんだ!」


 ネットでそんな発言をしたアカウントは知名度も結構ある転生者だし、確定だね。


 私のパーティーはまだ魔王軍が出現してないモンスターの凶暴化が起きてるだけの時期にダンジョンでお宝探検隊してて強いモンスターからは大抵逃げてたから、こういう情報には疎い……命辛々手に入れたアイテムを皆で眺めるの、案外最高だった。


 次の瞬間、トロワカトルが勢いよく投げ付けられ、さっき発言してた男性のマギアスの胸部へと迫って行き、咄嗟に男性はこう言ったけど……。


「っと! レッドコード! ファイアラ――」


 間に合わない。


 トロワカトルが命中するや自らの周囲に雷を発生させ、一連のダメージを受けマギアスは解除されてしまい、足場部分に放り出された男性パイロットの体の断面は雷で焼かれたような感じになってた……それを見てたもう1人の男性が叫ぶ。


「れ、レッドコード! マゼンタバリア!」


 もう1体のマギアスの前方にマゼンタ色のバリアが形成され始めた……そう、前方から。


 バリアがドーム状になり周囲を包み切るまでの形成時間には個人差があるんだけどこの男性は遅めだね……次の瞬間、背後に回ったデモナスの手刀が男性が乗るマギアスの胸部を貫き、立て続けにマギアスのパイロットとその命が2名失われた――


 トロワカトルがデモナスの手元に戻って行くと程なく消え去り、デモナスもその場から去ろうとしたけど……ここでルタちゃんの声が響く。


「余のオルハたちには目もくれぬと申すか! のぉ、お主よ……こちらはマギアスを2機も失ったのじゃ……手ぶらで返すのは忍び無いとは思わぬか?」


 オルハたちは全機無人……物資は犠牲になるけど、オルハたちだけでデモナスにどこまで太刀打ちが出来るかのデータが欲しい感じかな。


 幾らかの赤味を帯びた黒いデモナスがこう言うと、そのまま去ってしまったから、試しようが無かったけどね。


「時間稼ぎには付き合いませんよ」


 とりあえずデモナスにはパイロットがいて3人とも女性であるという事だけは判った……さてリオさんのいるB班はまだデモナスの気配無し……そう思ってたら――


「近辺にデモナスの姿を確認! 現在こちらに被害はありません!」


 その機体を見て、エリーのデモナスだと判ったので私は管制室から飛び出した。


 今回編成された班は3つでアーテリヤに近い順でAから割り振られた……私とロージーはこうして簡易管制室内で待機するA班。


 上級AIがいるから前に通ってた管制室と精度は変わらないけど……マギアスを喚び出した私とロージーはすぐにエリーの機体がいる場所まで辿り着いた。


「エリー……」


 せっかくの機会……一度だけ……ただの願望に過ぎないけど、言っておきたい……ロージーにもまだ攻撃しないよう言ってある……私はこう続けた。


「あのさ。話があって……聞いて欲しいん、だけど」

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