第13話 大きい手と小さい手
「レッドコード! マゼンタ――」
「右に跳んで! リオさん!」
リオさんがマゼンタウェポンの宣言を始めると左手にサブマシンガン、右手に剣を持ったデモナスは一気に間合いを詰め、リオさんの機体の胸部を狙って来たから私はそう叫びつつデモナスにサブマシンガンを当てて動きを鈍らせ……その隙にリオさんは回避に成功。
相手の刃はリオさんの機体の左腕部分をかすめたけどまだ全然再生されてないから空振りに……それにしても形状は違うけどデモナスにもクリエイトウェポンのような武器生成コードがあるって事なのかな……攻撃を外したデモナスはすぐに体勢を整えると、また動かなくなった……やがてリオさんが発言する。
「やっこさん……何で全然攻撃して来ないんだ、やりにくいったらありゃしない」
「どうもこちらが攻撃する瞬間を狙っていますね……リオさん、ちょっと私の動きを見てて下さい」
そう言うと私はサブマシンガンを撃ちながらデモナスへ突撃し……程々の距離まで接近した辺りで弾切れになったので後ろ斜め左に跳ぶと既にデモナスが撃って来てた弾丸の群れを回避する結果となり、私はスラスターを作動させ空中で右に移動しながらこう発言した。
「このように通常兵装による銃では弾数カウントで弾切れの瞬間さえ狙って来ます」
だから変則的な動きが必要だけど準備動作で大抵読まれるから本当に厄介……向こうも無暗に攻撃して来ないから、様子見距離を取り続ければこちらの被害を抑えられはするけど……私がリオさんにそう動くよう指示してから暫くが経った。
「ラチが明かないねぇ……一気に攻めるよ! 援護頼んだ!」
今のリオさんの発言は了承し兼ねるけど、このまま戦闘を長引かせ続けても進展が無いのも事実……でも後先考えずに行動するのを一番避けたい相手なのにリオさんは見るからに頭に血が上ってる……。
その後、リオさんが右腕の前腕部を突かれた刃で吹き飛ばされるまで、そんなに掛からなかった。
オレンジヒーティングで回復を図った左腕もまだ前腕部すら再生出来てないんだよなぁ……後手になってしまうけど、リオさんの安全を考えると……私は提案した。
「リオさん。ファイアライズしてください」
「こんな街中でファイアブラスターかい? 近所迷惑ってレベルじゃ済まないよ?」
「いいえ、防御に使います。相手の攻撃が全て物理攻撃という前提になりますが」
炎状態になった弾丸をデモナスに当てても別に燃えるわけじゃ無い……デバウアーの時は何かに反応するように燃えてたのにデモナスではそれが起きない……そうなるとデモナスにマギアスの炎は有効な攻撃方法じゃない可能性がある。
もしもマギアスが炎になった状態で向こうの攻撃が全て素通りするならデモナスは物理的な存在という事が確定するんだけど……炎状態は相手の攻撃をすり抜ける事は出来ても、こっちが相手を通り抜けられるようになるわけじゃ無いんだよね……相手に炎を吹き付けてるのと同じ条件だから。
「レッドコード! ファイアライズ!」
リオさんがそう叫んだ……十分な距離を取ってたのでリオさんのマギアスは何事も無く全身が赤い光でコーティングされた状態になって……リオさんが更に発言。
「ここからどうするんだい?」
「……そのまま逃げるか、ギリギリまで攻撃の機会を窺うかは任せます……リオさんの現在のエネルギー状況を知りたいので魔石を出して下さい」
私がそう言ってリオさんが魔石を出すと私のモニタにリオさんの現在の魔石が立体データで送られて来たので、それをユズが解析……リオさんの魔石の100%状態なら知ってるからね……私のも確認して、リオさんにメッセージで報告。
「現在のリオさんのエネルギー状況58%、損傷状況31%。私はエネルギー81%損傷2%です」
エネルギーがゼロもしくは全壊状態になるかがマギアスが解除される条件で、全壊状態だと再び出せるギリギリ段階になるまでの所要時間が、枯渇したエネルギーが満タンになるまでの時間よりもずっと長い……リオさんが途方に暮れ気味の声で発言。
「……どうしたもんかねぇ」
私はサブマシンガンを相手に向けて膠着状態を作り出せてはいる……リオさんが逃げようとしたら追い掛けて来るのか……それとも孤立した私を確実に仕留めに来るのか……そう考えてると――
「へいへい彼女ぉ! お取り込み中のようだねー! ……このテンション楽しいわ」
さっきのなんちゃって軟派少女がエアバイクに乗って現れ、そう言った……デモナスへの牽制は維持しつつ、私は呆れ声でこう言った。
「……デモナスと交戦中です。民間人の方は巻き込まれる恐れがあるので避難してください」
「まーそだけどさー……アタシにもこれ、あるから……」
その女の子は金髪とは違って反射が大分少ないレモンイエローの髪を私より大きい胸まで来た辺りの長さでボブカット。
全体的にふわふわした髪は至る所で可愛いらしいカーブを描きがちで、瞳はエメラルドのように鮮やかな緑を放ち、背は私より上な気がする……でも一番重要な情報は女の子の手の平にあるのが魔石な事――
エリーの魔石に迫るくらいの大きさでここまで整った形がある……その事実に私が唖然としてる間に、外見的に私と同じくらいの年齢と思われる少女はこう続ける。
「混ざってみようかなって! というわけで、まーぎあーす!」
エアバイクから飛び降りた少女が握りしめた魔石からは赤い光が放射状に溢れ……やがて姿を現したマギアスは異様な形状だった。
ちゃんと人型してるけど全体が花のようなフォルムで、肩から先が無くて……その延長線上には普通の手と大きい手が1対ずつ浮かんでる……特に大きい方の手は自らの胴体部分を覆えそうなほど……。
ボディは主に水色で普通の手が黄色で足部分もその色……大きい手はオレンジ色で機体の全長は30メートル台だった。
足場があるのに依然として着地せずに浮いた状態で、スラスターが作動してるけどそれがかなりの数……どうやら飛行型みたい。
「行っくよー! レッドコードぉマゼンタハンド、ファイアハーンド!」
飛び入り少女が調子のいい声でそう宣言すると大きい方の右手が炎状態、左手はマゼンタ色の光を帯びて強度が上がった……これだけ手が大きければ盾としても機能するし、浮遊してる手は見るからに自在に飛ばせそうだから炎状態の手で攻撃も有効。
オレンジ色が赤い光で包まれる事で真っ赤になった巨大な手が早速デモナスに襲い掛かる……こんな目立った動きだから簡単に回避されるけど、そこを私がサブマシンガンで追撃する。
次の瞬間、弾丸はデモナスを直撃したはずなのに全てすり抜けてしまう……私が驚いた声を上げる事も忘れて呆然としてると――
「……撤退ですね」
女の人の声が聞こえた……初めて聞く声じゃ無い気がする……この落ち着いた感じの声、何処かで……? もう一言くらい聞けば思い出せそうだけど……今の言葉通りデモナスは戦線から離脱し、新たに別な機体が現れる事は無かった。
「アタシ! グレンダ・ロージウム……転生者だからレムナント出せるよ!」
状況が落ち着いたと判断し、3人でスカイカーに乗りながら自己紹介……こういう時に自宅に向かわせる機能があるから、さっきのエアバイクは今頃まだ深夜と言うには怪しい時刻の夜の空を自動運転で元気に走ってる。
グレンダが見せてくれたレムナントは大きな鳥の羽根で、装飾品にも使えるし文字を書くとかが出来るマジックアイテムかもしれない……そんな1本の羽根だけど鮮やかな色が至る所にあり、虹の七色とはまた違う色が使われた羽根は派手な印象が目立ち、さっきまでの出来事を思い返して乱れ始めた私の心を多少は癒してくれたかも。
エリーがデモナスのパイロットだった――
その事実に直面したばかりだというのに、未だにそれを信じる事が出来ていない私がいる……そんな風に戸惑いながらの思考を巡らせた末、私は決意する。
――次に会った時はエリーと話をしよう。事情次第では力にだってなりたいし……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます