第12話 夜に紛れるもの

「ほら、こいつがあたいイチオシのカクテルシェーカーさ」


 デモナスがマギアスのパイロットを狙って来る以上、私と私の隣にいるリオさんことリオーヌ・スキャロウだって例外じゃない……襲撃された際の生存率を上げる方法として複数で行動するというのがあるから、今日はそれを実行……せっかくなので、こないだの国会中継見ながらやり取りした際に出来た用も済ませる事にした。


「わざわざ新品を買って頂きありがとうございます……オススメの銘柄をお聞きしただけでしたのに」

「あー……気にしなさんな。丁度新しいのを買おうか迷ってたら安売りしてて、3つ買うのが一番おトクだったってだけさ」


 私の他人行儀な言葉にリオさんはそう返した。


 任務中にモニタ越しで顔を合わせる事は何度もあったけど……こうして面と向かって会うのは初めてで、お互いどんな人間なのか掴めてない……リオさんは25歳前後でエリーより背が高いから割と長身の部類……それにしても、随分と露出の高い服装で来たなぁ……。


 リオさんの胸は結構大きいんだけど、ヘソ出し長さの白いチューブトップにデニムのホットパンツとルタちゃんより濃くて赤味のある褐色肌を存分に晒す服装……実際モデル体型に迫るプロポーション……マニキュアもしてて、その鮮やかなターコイズは肌の色も相まって一層際立ってる。


 首の根元が見え隠れする長さの癖毛たっぷりのウルフカットの髪はビリジアンで、瞳の色はブラックべリーのような暗い青紫色……さて、こんな格好で夜の街をスカイカーに乗ってうろついてるわけだから……。


「よぉ! そこのおっぱいデカイねぇちゃん嬢ちゃん! 俺らと一緒に――」


 早速湧いたので先手必勝。私はレムナントをレイピアで出してそう言って来た男性の喉元を貫通させる……私のレムナントは幻影までだから実害は無いし、最初に出現させた状態で暫く浮くだけ……直接触って動かす事は出来ないけど、意識を注ぐみたいな事をして動かすとかは出来なくも無い。


「悪いねー。こう見えて全然ヒマじゃないんだよ……邪魔しないどくれ」


「あ……さ、刺さってない……し、失礼しましたー!」

「流石は転生者様だぜ……ぱねぇ動きしやがる……」


 リオさんが言った後、スカイカーに乗った男性2人組はそう言いながら去って行った……とりあえず今夜は男性の類が寄って来たら、こんな感じで行こう。


 ちなみに今日の私の服装は毒々しい赤さを放つ頭巾とマントを羽織り、服は上がコバルトブルーの長袖パジャマシャツ、下は黒系でミニ丈のプリーツスカート……ニーハイソックスもシャツと同じようなコバルトブルーを選んで、スニーカーも赤い部分が目立つのを履いてる。


 やっと明るい色の服を着たんだけどモチーフにしたのはイチゴヤドクガエルだからこれ警告色……ちなみにリオさんと私は胸のサイズが同じくらいで私の胸は更に成長するからこの先、追い越す可能性も高い……さて、今度はエアバイクがやって来た。


「へい彼女! アタシとちょっとお茶しなーい? ……って一度言ってみたかっただけなの……それじゃあねー」


 ……何だったの今の可愛い子……急に声を掛けて来た思ったら去ってった……誰か来ない内にこれをやっておくかな……私はリオさんにこう持ち掛けた。


「あの、リオさん……魔石見せてもらってもいいですか?」


 そう言いながら私は自分の手の平を上に広げ、出した魔石をリオさんに見せる。


「ん? ほいさ」


 リオさんはそう答えながら私と同じように手の平の上に魔石を出現させる……魔石はマギアスを呼ぼうという意志が無ければ幾らでも出しっぱなしに出来るし、実体があるわけじゃ無い。


 だからマギアスを呼んだ後の消耗状況を気軽に確認可能……リオさんの魔石は私の手の平の傍まで来てるけど……やっぱり私の魔石、小さい。


 リオさんはマザー討伐部隊の中で一番魔石が小さくて私の魔石はそれをさらに下回る……一番魔石が大きかったのがマルスさんで次にエリーだったけど……果物だと私がミニトマトでリオさんが普通のイチゴ……その2つの体積が合わさったところでマルスさんのレモン半分くらいの魔石の大きさには到底に届かないほどの差がある。


 真っ赤な水晶のような魔石の形状はいびつになりがちで、エリー、マルティー、マルスさんのように何かを象ってそうな形だと、呼び出せるマギアスは強い傾向があるらしい……私の魔石を見てたリオさんが呟く。


「しっかしアンタの魔石は形が整ってるねぇ……魔石の回復速度がやけに速いんだっけか?」


 大きな魔石だったらそれは強みだったけど……こんな小さな魔石じゃ……ちなみにリオさんが魔石を出せるようになったのは21歳を少し過ぎた時期で、思春期を過ぎてもまだ魔石が発現する可能性はゼロじゃない事が判るケース……発現年齢は思春期半ばが圧倒的に多いけどね。


 そんな風に私はスカイカーを走らせリオさんと魔石を見せ合ってたんだけど……ここでスカイカーを通して周囲の状況を監視してたユズが叫ぶ。


「熱源反応接近中! 回避させるよ!」


 次の瞬間、スカイカーは急旋回して……さっきまで私たちがいた場所に暗めの青緑色の光が通過……。


 サイズのイメージ的にはスカイカーの全長を余裕で飲み込む直径の物体が上から来た感じ……私とリオさんは高度を下げて行くスカイカーから飛び降りまだ出したままだった魔石を握り締め、叫ぶ。


「サモン――マギアス!」

「来な……マギアス!」


 マギアスが赤い光を纏いながら出現し、やがて私は自分のマギアスの中に……リオさんの機体は主に淡い翡翠色だけど間近で見るとやっぱり綺麗で素敵な色合い……。


 スカイカーが飛び交う場所での地面は反重力フィールドが作動してるけど……人型機体でその上に乗ると程よく浮いた状態がやけに安定して保たれたまま立つ事が出来ちゃうから地に足付いた感覚で動いても大丈夫なレベル。


「少し前まで何の反応も無かったのに……本当にいきなり出現するんだね」


 パーソナルデバイスからユズの音声が響く……当分は私とリオさんでこんな風にデモナスを誘き出す事が出来ないか試しにやってみようか検討してたんだけど、初日で来た。


 しかもこの機体のボディは赤紫の暗清色で手と足の部分はライトグレー……そう、ラディサを葬ったデモナスだよ。


「クリエイトウェポン! ヘヴィマシンガン!」


 リオさんが武器を生成するやそのまま連射……弾丸は全てデモナスに命中したけど衝撃を受けてるだけでこれはダメージになって無い……ユズに分析してもらった内容をオペレーターする時の声で私は叫んだ。


「デモナス、銃弾通らず。バリアを展開しているような様子はありません」

「素の装甲でこれってわけかい……とりあえずガンガン行く――」


 リオさんがそう言った次の瞬間、デモナスの攻撃に気付いたリオさんは回避するも左腕を根元から切断された。


 マギアスが受けたダメージはパイロットに直接フィードバックされるわけじゃ無いから、その辺は人工機体と同じ……そしてコードにはこんなものもある――


「れ、レッドコード……オレンジヒーティング」


 リオさんが一旦後退しながらそう言って左腕の切断面に右手を当てると、その部分がオレンジ色に輝き出す……これでリオさんの機体の左腕は再生が始まった。


 オルハとかの人工機体には使えないけどマギアスが対象なら自他共に使える、回復魔法のようなコード……回復速度遅過ぎてかすり傷さえ戦闘中に直り切るか怪しいけどね、これ。


 魔石の消耗要素は機体の損傷と消費エネルギーの両方だから、しない方がよかったと断言出来そう……さてクリエイトウェポンは叫んでも威力が上がるわけじゃないから黙って生成したけど……こっちは発声しないの寂しいから、私は叫んだ。


「レッドコード――ファイアウェポン!」


 私は生成してたサブマシンガン二丁を炎状態にし、応戦を再開したリオさんの合間を縫って銃撃……結構命中して動作を阻む事は出来たけど……芳しく無いなぁ。


「……どうしたもんかね」

「情報が欲しいから長期戦で……とにかく色々やりましょう」


 幾ら相手に攻撃をたくさん当ててもダメージが入って無ければ何の意味も無い……リオさんに返事した私だけど、最悪私とリオさんがやられても、この戦いでデモナスに関する重要なデータを引き出したい。


 ここは相手に攻めあぐねてもらって向こうの手札を切らせる状況にしたいな……私はメッセージでユズにこう指示した。


「ユズ、あのデモナスを通過点に私とリオさんで常に直線を結ぶようになって回転する図をリオさんに送信して」

「こんな感じ?」


 言い換えれば常にデモナスを中心に離れ気味の位置でお互い反対側にいましょうって動き……ユズが直ちに作成した図解動画は私の意図通りだったので、それを送信しつつ私はリオさんに言う。


「この動きを試してみましょう……攻撃は牽制程度で」

「あいよ」


 そんな感じでデモナスの周囲をロクに攻撃もせずにぐるぐると回る……。


 時折デモナスは鞭のような武器を振り回してくるので結構リズムが乱される……その武器はやがて纏ってた不気味な光を失い本来の形状が明確になり、剣の刀身部分が蛇腹状になってる事が判ったけど……こういう武器、私よく知ってる……これは――


 そう思ってたら、私でもユズでもリオさんでも無い声が……聞こえて来た。


「そろそろ時間切れ……初撃で仕留め損ねて長引いたとは言え……まだまだ安定しない」


 その声を聞いた瞬間、それを確信する前に私の口から声が出た。


「エリー……?」


 間違える何て有り得なかった、理屈何て要らない……今、私が聞いた声はエリーのものだって、この身体が訴えるまでも無く確信してる――


 それに普段は剣の長さで、それを伸ばして鞭のように振り回せるこの武器はエリーのレムナント……形状も完全に一致。


「えっと。キミは……わたしの……知り合い、なの?」


 エリーがそう聞いて来たから、反射的に私はこう叫ぶ。


「そうだよ、セリア・シトルーク! あなたはエリー……エレスタ・コルテーゼ……エリーだよね?」

「セリア……」


 何度聞いてもエリーの声としか思えない……エリーがそこにいるという願望を今すぐ事実に変えたい……一旦私の名前を呟いたエリーは少し間を置いた後、もう少しだけ呟いた。


「……知ってる気がする」


 エリーが生きてた……ううん、生きてる。


 私がその事実を噛み締めようとした時、リオさんが発言してしまった。


「記憶喪失ってやつかい? いや、その前に何で――」

「上空から熱源反応!」


 その発言もユズの叫びで途中で掻き消え……私もリオさんもしっかり反応したので回避成功……熱源の正体はあの不気味な青緑色の光の弾丸……ここでエリーが呟く。


「じゃあ、わたしはこれで……」


 そう言った途端、エリーは何処かへ消えてしまった……まるで最初からそこにいなかったかのように忽然と……そして地面と言える場所に降りて来たのは別な機体。


 青緑の暗清色ボディでチャコールブラックの手足……酔ってたとはいえマルスさんを倒したデモナスの姿がそこにあった。


 エリーの機体もこの機体もマギアスと大差ない全長だけど……そんな情報、意味を為さないくらい状況は危機的なものになった感じかな。

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