第11話 国会にて

 今日は国会でデモナスをどう対処するかの討論が行われるみたいなので、その配信を私はぼんやりと眺めてた……。


「情報によるとデモナスは突然現れ去って行く……強固な防壁の中にあるサーバーのある部屋にもその壁が無いかのように侵入して来る……そんな存在に何を対策すればいいのでしょう!」

「デバウアーを倒した我々人類は5年間の平和を約束されたはず……それが何故このような事になってしまったのでしょうか!」

「この事態を放っておけば内閣への国民の信頼は低下の一途……打開策が必要とされております!」


 見事なまでに建設的な発言と無縁のまま時間だけが過ぎて行く中、私は唯一残った討伐メンバーのリオーヌ・スキャロウとネット上で適当な会話。


 これと言って取り上げる程の内容は無く、やり取りする内にお酒好きだと判明したリオさんが教えてくれてるノンアルコールカクテルのレシピとおすすめアレンジ方法の情報だけが積み上がって行く。


「デモナスの存在は脅威です! 早急な打開策を国民に示さなくてはなりません!」


 国会の方は見事に平行線……これはボイスチェンジアプリで壮年の男性たちの声を可愛い声に変換するパラメーター遊びでもするしか無いかなと私が思ってたその時、聞き覚えのある声と歌が国会の中を流れ始めた。


 配信画面を見るとそこには比較的情報量の少ないアイドル衣装のうららがいて……歌ってるのは、先日行ったステージが海中だった時にも歌った、静かで透き通った曲のアカペラ……最初のサビパートまで来ると2番目に行く前に歌うのを止めたんだけど……何故国会のど真ん中にアイドルがいるのか疑問に思う者は誰もいなかった。


 だって兼業アイドルうららのもう1つの本業は――


 国会議員の1人が呆れながら溜め息を吐くようにこう発言した。


「うらら首席補佐官……加熱した我々の頭のリフレッシュを図るお気遣いには感謝致しますが……歌では討論を進める事は出来ません」


 ライブ後、私はうららを特集した配信のアーカイブをかなり漁って、うららの事を本格的に調べた……アンコール前に言ってたけど、本名は麗乃うらの楽々らら――


 地球人時代は自分の容姿に自信が無いまま若くして外交官となった女性で、転生後は男性冒険者として生きるも音楽への情念を滲ませるようにハープを始めとする楽器を演奏したり、音楽を知る者同士でセッションまで行う。


 ライブの時に弾いてたのは、その時愛用してたハープがレムナントとなり短い時間だけ実体化して演奏も可能なタイプ。


 前世で培った音楽への情熱と地球人の頃から憧れてたアイドルへの想いを実現させようと、この世界の転生後はアイドルになるべく活動を熱心に行い……その傍らで、高給職である閣僚を目指し、そっちが先に頭角を現した。


 肩入れしてる政権の政策を歌にしたりと時には音楽も政治利用するけど、それでいてあの日のライブみたいな純粋な創作による芸術性溢れる音楽を見せ付ける……多少濁ったものを纏っていても、自らの中心には決して曇りの無い、輝く為に必要なものだけで構成された色鮮やかな宝石があるという主張を問答無用で放つ存在。


 そんなうららが手の平を上にしながら誰もいない演壇の方へ向け……こう呟く。


「我らが大統領の……入場だよ」


 次の瞬間、無数の光が集まっては音を立てて瞬いたかと思うと今度はそれが一気に弾け、その勢いを表す効果音が会場内で炸裂して……さっきまで何も無かった演壇の前に女の子が現れ、舞い上がってた長い髪が落ち着くと腰まであるその髪は前の方にも流れてて……それを平行ラインで切り揃え、額を覆う前髪も平行にカット。


 瞳と髪は同じ銀色で……それだけで自らが只者ではない事を示すかのようなオーラを放ち……服装は赤スカーフの紺色セーラー服で、襟や袖部分にある幾つかの白いラインを除けば一切の模様は無く、膝上までのスカートは単色そのもので……年齢は私と同じくらいだから、まさに中学生。


 背は私より低いけど胸はうららに迫る程の大ボリュームだからそっちのインパクトも凄い……そしてうららが言った通り、この女の子は――


「だ、大統領……」


 すっかり意表を突かれた議員が上擦った声でそう言ってる……。


 登場演出をしたのはうららかな……自分が歌ってる間に周囲の景色に溶け込むように描画して行く映像を纏った制服少女を壇上の前まで向かわせ……効果音が炸裂音になった瞬間に下から風を吹かせる仕掛けを作動すれば、さっきの手品の出来上がり。


 中学生大統領は会場全体を鋭い目付きで睨み回して更に議員たちを圧倒……そしていよいよ私らが住む国の大統領――天包院てんほういん優華ゆうかの声が辺りに響き渡る。


「諸君らには優秀な意見を期待していたが……ここまで時間を費やしておきながら、まともな意見が何ひとつ出せなかったようだなぁ!」


 声は女性だけど、男性でさえも簡単には出せないような力強い叫び声を上げた……天包院優華は地球人時代は男性の転生者……それ以上の情報は調べても出て来ないんだよね……女の子っぽく振る舞う気ゼロの気迫に満ちた言葉はまだまだ続いた。


「未だに道が分からぬならば、この私がお前たちに道を示そう……デモナスは間違いなく我々人類の脅威である……だが我々が為すべき事は何一つ変わらない事をるがいい!」


 怒声というよりも言葉に熱が帯びたような発声を繰り出し……更には身振り手振りも加えてる大統領は一層大きな声でこう言い放った。


「ひとつ! 転生者によるAIに依存しないより高度なAIの開発を促進せよ! これは今後デモナスの情報を収集し分析する際に転生者によるAIの喪失により高度な分析が出来なくなるのを避ける為である。ふたつ! 資源惑星探査船の建造リソースを増強せよ! これはデモナスが地上に目を向けてる間に探査船を飛ばし、宇宙空間へ複数の探査船を分散させ資源惑星到達の可能性を高める為である。みっつ! 宇宙空間における転送装置を活用する際の法整備を進めよ! これは宇宙空間での長距離物資運搬の際に処罰を恐れて転送装置を活用しない事による効率低下を避ける為である。よっつ! 兼ねてより――」


 そんな感じで大統領は次々と自らの意見を打ち出して行き……全ての発言が終わると国会は拍手で溢れ、大統領を讃える歓声により怒涛の状況を作り上げてた。


 転生者である天包院優華は小学生年齢の頃から選挙活動を始め、中学生になるまでにこの国の大統領になるという公約を掲げ……それを為した今、天包院優華を大統領として讃える際、今も会場で叫ばれて止まないこの名前で呼ばれてる。


「ジェシー! ジェシー!」


 女子中学生になるまでに大統領……選挙ポスターでJCの2文字は目立ってたろうね……それにこの世界、漢字を使った名前文化は転生者が持ち込んではいるけど特別視され続けた結果、皆おいそれとは使おうとしないから発音面での馴染みが薄い中でテンホウインは呼び辛いから大統領はこの呼び方で親しまれるようになった。


 転生先の家族の家名を変える事は指定可能だったけど、私もエリーもお世話になる方の家名は変えなかったから、この世界でのフルネームはセリア・シトルーク、エレスタ・コルテーゼになってる。


「ジェシー! ジェシー! ジェシー! ジェシー!」


 議員たちがジェシーこと天包院優華を讃える声はまだまだ続き……それからこの日は特に大きな出来事も無く静かに終わったけど……うららのライブとはまた違う熱狂を味わったなぁ。

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