第10話 悪魔の巨体

「それじゃあテーブルに置くね」


 管理AIであるラディサを失った隣の街だけど、ラディサは前々から突然自分がいなくなった時の事を想定して即日復旧プランを立ててたので街の機能はその日の内に平常時に戻ってた……常に街の運用に必要なデータと自分の処理内容と同等の事をする為のシステム構築は終わってたからね……その辺の混乱は一切無かった。


 そんなラディサを手に掛けたロボットらしき黒い腕……今回マギアスを呼び寄せて応戦したマルスさんを亡き者にした黒い機体がその全貌を示してくれると思ったんだけど……今回は全体像のほとんどが監視カメラの映像で明らかになったので立体データにするのに困らなくて……今、私がいるのは仮想空間のいつもの集会所。


 相変わらずお洒落な茶器が並ぶテーブルの上に、問題の機体を35センチくらいで再現した模型を置いたのは、さっきの発言をしたクレミーで、アバターは前回と変わらず。


 今日の私のアバターは防御力の概念が怪しいくらいの露出度になるアーマーを着た戦士……ちゃんと下に冒険者っぽい服を着てるから露出狂疑惑は発生しないよ。


「うーん……」

「こっちがラディサちゃんを殺した実行犯の機体の腕部分を元に、今回の機体の形状で再構築した模型」


 悩まし気に声を出してた私にクレミーが更にそう言って比較用の模型を置く。


 それを見てたポチが呟くけど、今日のポチは青肌人魚なアバターで下半身は泉に浸かってる……瞳に白目部分が無いから、またも人外路線。


「ボディは暗清色だけど色相違いで手の色も違うねー」


 ラディサを両断した機体のボディは赤紫の暗清色だけど今回の機体は青緑の暗清色な上にライトグレーであるはずの手もチャコールブラック……こんな風に比較検証をするまでも無くマルスさんを倒した機体はラディサとは別機体だという結論に辿り着ける……でも色以外はよく似てる……事件当時の映像を振り返るかな。


 この日のマルスさんはお酒が入ってて、複数の可愛い女の子を侍らせながらスカイカーを走らせつつ夜景を眺めては次の店を探してた……そんなスカイカー目掛けビームショットが雨のように浴びせられ……こういう時に小回りの利く機種だったので、スカイカーのAIの自動反応により辛うじて回避。


 地上には何やら全長約26メートルの人型ロボット機体がいて……それを見たマルスさんはスカイカーから飛び降りて魔石を掲げマギアスをび出す。


 スカイカーは自動運転だったけど今度は立派な飲酒運転……余計な器物損壊しなければお咎め無しだけどね。


 お酒で判断力が鈍ってる状態では分の悪い相手で、やがて謎の機体は武器を振るい出す……ラディサの時と同じ黒い炎に包まれた仄暗い青緑色の剣を……剣全体の形状が本当に完全に一致してる。


 もしもマルスさんがレッドコードでファイアライズしてれば結果は違ったかもしれないけど……まだどちらが優勢か判断が付かない段階で問題の剣がマルスさんのマギアスの胸部――コックピット部分を突き刺し、マギアスは解除されマルスさんは出血しながら落下……そして謎の機体はいつの間にか現場から消えていた……。


 そういえばマルスさんは転生者じゃないんだよね……そもそもあの時の討伐部隊はエリー以外に転生者いなかったし。


 だから誰が強力な魔石を持っているかは出させてみるまで判らないのがこの世界だけど……マギアスを出現させる魔石はある日突然、手の中にあるって感じ……統計的には思春期の中盤辺りに発現が集中してる。


 私の魔石は12歳の半ばくらいだったなぁ……とにかく一連の事件の映像で重要なのは異なる機体が同じ剣を出現させたという事。


 最初の連続ショットだって色も明るさ加減も黒い炎に包まれてるのも、その剣と同じ状態……ルタちゃんが言ってたように、マギアスが使うマゼンタウェポンのような武器強化コードを今回の機体が使ったのだとしたら……そんなの、まるで――


「黒い……マギアス……」


 そこまで考えると私は不意にそう呟いてた……そしてこの日から立て続けと言うには断続的だけどマギアスのパイロットや上級AIのサーバーが黒いマギアスに襲撃されては死亡する事件が起きて行き……その中にはマザーを討伐したメンバーでもあるヴェネット・マッセラーズ、マルティー・サラディウスも含まれていた。


 今やマギアスのパイロットや各地の上級AIを狙う黒い機体の存在に世間はすっかり大騒ぎ……ネット内で名付けられた黒い機体の呼称も各メディアで採用されるようになったね……。


 マギアスがラテン語で魔法を意味するマギア、ギリシャ神話での巨人ギガース……その2つを組み合わせてた要素も汲んで、一連の黒い機体は次に現れるであろう敵性存在への主力となるマギアスを奪い、インフラに欠かせない上級AIを潰す悪魔デーモンのような所業を繰り返す事から……『デモナス』という呼び方が定着した。

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