第7話 レイチェルの威光

 1年が365日の太陽暦はこの世界でも使われてて、前の世界と違うのは転生者が浸透させたんじゃなくて最初から採用されてたんだよね……。


 気象コントロール技術も発達してるから設備さえ展開すればこの星全域規模で操作出来るけど作物栽培区画の規模に留めてる……そんな大掛かりな設備作るんだったら資源惑星へ行く為のスペースコロニー完成させなさいって話。


 マザーデバウアーが侵食してた大型コロニーは侵食跡が至る所にあるけど、ゼロから建造するよりはコストが安上がりの範囲なので再建される事になった……今も選りすぐりのAIたちが作業ロボットを動かしてる感じかな。


 外に出歩けるようになったらライブチケットが手に入ったのを機に今日私は気楽に話せる女の子と待ち合わせ……この巨大チアガールフィギュアの足元でね。


 頭までの高さは台座込みで5メートル……左足を後ろ上げにして右手は腰に、左手は上に伸ばし切ってて、その両手にはポンポンを持ち表情はウィンク……そんなポーズしてるから全高は身長以上になるけど、それよりも……。


 カルボナーラが複数の転生者の知識が統合されて行った事で正確に伝わったのと同じように、この世界に来た転生者なら誰もが見た事のある存在……女神レイチェルの姿なら証言情報の収集に全く困らないから、この像はかなり正確に再現されてるね。


 私の記憶でもレイチェルは所々に金色が混ざった鮮やかなピンク色の髪で、常に浮かんでるから髪の長さは足の裏を越えてた……瞳の色は青かったけど、正確には水色と青の間を常に行き来するように変化してたんだよね……あれは印象的だった。


 見事に着彩されたフィギュアではチア服だけど、レイチェルの服は純白でギリシャ神話の女神辺りが着てそうな装いで、背は私より低いから小柄な方。


 ところで転生する前に体型をかなり自由に出来るとレイチェルに言われたので私は胸を大きい子の手前くらいな感じで指定して身長を犠牲にしたから、ここ数年はなかなか順調に膨らんでる……これで大きい子たちに囲まれても恥ずかしく無いくらいにはなれそうだけど……あんな大ボリュームの大きい子……想定して無い。


 神は人智を越えた存在って言うけど、そんな所で人智越えなくてもいいですからってくらいレイチェルの胸はデカイ……大きい子2人分合わせても足りないくらいデカイ……顔2つ並べても、あれ程までの膨らみは得られないから、本当に何事……?


 というわけで今チアガール姿のレイチェル像の足元にいる私は、頭上を見れば大層立派に迫り出した、そういう部位を拝める事が出来る状況。


 そんなレイチェル像は重心が安定するように比重の異なる様々な素材が使われててその配置の計算はAIが行ったんだから普通に一大プロジェクトの末の産物。


 敵性存在の撃退とは関係無い大規模なプロジェクトが通ったのは、それだけ発案した転生者の熱意があったって事だし、転生者がやりたい事をこの世界の住民が支援してくれたという事でもあるし……1体の建造と自立が成功すると更にレイチェル像を作る流れが出来た始末。


 そんな気運を背景にレイチェル像が幾つも作られるようになると、他と見分けが付くようにコスプレさせるのが主流になって……この街には他に別衣装別ポーズのチアガールとピンク色ナース服のレイチェル像があり……ラディサが管轄する隣の街には紺色スクール水着のレイチェル像まであるんだよね……。


 敵性存在へ注ぐべき労力で何やってるのさって話だけど、住民からの非難は皆無で最初のレイチェル像が出来てから制定された、今後レイチェル及びラエチエルの名を付けない……そんな感じの国際条約は今もこの世界の住民たちに受け入れられてる。


 それだけこの世界の皆は転生者たちに感謝してるって事なんだね……先人たちには本当に感謝……さて、待ち人がやって来た。


「ルーちゃーん! こんちわー!」


 私の視界に灰色のようでロシアンブルーカラーの猫耳フード尽きパーカーにチェックのミニスカートを履いた、私より一回り以上背の高い女の子がそう叫びながら高く上げた手を元気に振ってて……私の傍までやって来ると、こう言った。


「あ、ゴスロリだー! ホルスタインパーカ-にしてたら、色がちょっと被ってた」


 やっぱりまだ明るい服は着る気分になれなくて、何を着るか考えるのが面倒くさくなった時の為に買っといた黒ゴス系にしたんだけど……今の私が着れば完全に喪服。


 被ったフードの隙間から黒に近いダークブルーの髪を覗かせたブラウンアイの女の子の名前はクレアことクレイラ・クラマーシュ……オペレーター仲間だったサンディことサンドラ・クラマーシュの娘さんで中3だから……15歳くらいだったかな?


 着てるパーカーは袖部分が長めで、今もクレアの手は半分以上が覆われてて指部分だけ見えてる感じ。


 サンディは30代だから随分早く子供を設けたけど、この世界は産める内に産んで人員増やしといた方が吉なとこあるから託児施設や制度が充実……まだ待機要員とはいえ現場を退いた私と違って、サンディはオペレーター育成学校の教員としての活動まで始めたんだよね。


 クレアは転生者じゃ無いけど、身に着けてるパーソナルデバイスに入ってるAIの名前はポチ……だからポチのマスターなわけだけど、クレアとはサンディが忙しい時に遊び相手になってる内に、お互い対戦ゲームの相手候補として声を掛け合うくらいの仲にはなった感じ……。


 ユズもポチも転生者なのでゲームをやれば人間と変わらない上にユズは地球人時代からのゲーマー……4人で対戦するゲームをやれば白熱した展開になりがち。


「あとね……この下に着てるよ、いつものシャツ……」


 クレアが言ったシャツは両腕部分がピンクで胸元に文字が書いてる白地の長袖デザイン……そして胸元部分にある楕円形ピンクの内側には抜き文字で『BIG』。


 どうしてそれを普段着に選んでしまったのだろうと思いながら膨らみという概念に乏しいクレアの胸を見つめる……最初に会った時から何も成長していない……。


 私は現在セールしてるシャツの検索をユズに指示……作成させた一覧をパーソナルデバイスで空間投影させてクレアに見せながら呟く……ちなみにクレアのパーソナルデバイスは手の平サイズのクマさん型。


「安物でいいなら1着だけ、奢るよ……」

「あ、ありがとう……」


 こんな思いをしない為に、私は大きい子になる道を選んだんだなって再認識しながらユズがシャツを選ぶ様を眺めて……その買い物も、結構すぐ終わったかな。

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