第2話 人権以前の深刻な問題

 この世界の主力となってるのはプラズマ方式の核融合発電で、今私の目の前にあるパルテノン神殿を現代風にアレンジして太陽をモチーフにしたカラーリングを施した発電所がまさにそれ。


 原子力発電が反応を抑え続けるのに対し、こっちは反応を維持させないと停止するから制御系統がやられても炉心暴走による大爆発とは無縁のまま発電が止まるだけであとは放射性物質化した炉心が施設内に留まってくれれば事故は建物内で完結。


 そんな発電所はかなり大きい建物でその外周に幾つものデバウアーが取り付き侵食してる……中心部に辿り着けば発電は止まるから、それだけで大惨事……早くこの群れの親玉フラグシップを見つけなきゃ……。


「発電所の侵食率4%! まだ外側だけ……10時方向にタイプ猛獣ビーストが3体いる!」


 ユズの元気な声が響いたけど、デバウアーは自らの体組織を飛ばし細胞状になって増殖し、また集合して元の形のデバウアーになる……だから地上に現れた時は速やかに駆除しなくちゃいけない。


 マザーがこの星の近くまで来てから、地上にデバウアーが現れる頻度は増すばかり……急がなきゃ。


 私のマギアスは両肩から三角形に伸びた全体的に丸みを帯びたフォルムで、筋肉のように膨らんだ部分とその度合いと分布が普通な薄ピンクの機体。


 前方に伸び気味の顔は流線形してて所々にピンク色のライン模様があり、人間と形状の近い手は黒系で青味掛かってるかも……全長は確か26メートル。


「クリエイトウェポン……ガンソード!」


 威力はそこそこだけど、実弾射撃銃と十分なリーチのある剣に変形するこの武器が使い勝手がいい……マギアスは物理系ならエネルギー消費が少ないから短時間の戦闘だと弾丸のリロードも使い放題……炎そのものになるアレの消費が異常なだけかも。


 タイプ猛獣は機動性に優れてるから射撃よりも近付くのが正解かな……。


 手数が掛かるけど何度も切ってれば倒せなくは無い……6本足の狼みたいな形状のデバウアーだけど相変わらずあちこちにある規則性を無視した配置の緑色部分は気味が悪いし、その分布の個体差が激しい。


 更に2匹来たけど、これくらいなら大丈夫……タイプ猛獣は水色の炎のブレスみたいなの吐くけど、それで再生能力が低下するし、この威力なら私のマギアスにダメージは入らない。


 倒してる間、ユズの話でもしようか……私がレムナントの事で世界記録を取った頃当時最新モデルだったパーソナルデバイスのAI……それを開発した企業はそのAIの1つを持て余す事態に陥ってた。


「人工知能ってさ……人工的に作られた知能であって、機械で造られたり二進法デジタルデータで出来てる事まで定義する言葉じゃないよね」


 クラスメートの女の子の誰かが昼休み辺りでそんな事を言ってた記憶があるけど、この世界のAIは全て二進数からなるプログラム型だった……大分人間に近付いてるけど市販のデバイスに付属するAIの性能はたかが知れてる。


 そんな中、上級AIにより命名されたユズはまるでデバイスの中に人間が入ってるかのような振る舞いを見せ……そんなユズを見たこの世界の住民はすぐにこんな感じの発言をしただろうね――


「あぁ、この転生者様はAIになる事を選ばれたんだな」


 転生者の多いこの世界ではそんなAIがいても別に驚く事じゃ無い……問題なのは好き勝手に行動する人間が入ってるデバイスを商品として販売出来るかって話。


 他の市販AIより高スペックではあるけど……自我を有するという事は悪さもする可能性があるし性格がよくてもヒューマンエラーを起こす……。


 とはいえ富裕層が高値で買い取る流れはもう出来てたんだよね……転生者の体験談を聞くだけでもこの世界では軒並み興味深いものだし。


 そんな時期に私が世界記録を取ったから、まだパーソナルデバイスの無かった私にどうかと面接みたいな事して……その時の会話の一部がこれ。


「じゃあユズは最初、熱中症で死んだの?」

「そうそう! 暑い日に水分補給怠ってずっとゲームやっててさー……転寝うたたねから目が覚めた時、ヤバイ状態になってて窓を開ける気力も無くて、そのまま……いやー、夏を舐めてたよ!」


「前の世界ではどんな風に過ごしてたの?」

「とりあえず冒険者やってたんだけど……まともな装備整ったのが嬉しくてコボルドの群れに1人で突っ込んだら返り討ちにあって死んだー……いやー、コボルド舐めてわ!」


 そんな感じでユズと会話を続ける内に私が導き出した結論は――


「まぁ……ペットを飼うと思えば……最新パーソナルデバイス、欲しいし」


 新しい機種を購入するまで私の中で許せる範囲だったら家族と認定しようと思ってたら……AIの転生者ってAI搭載可能な大抵の機器ならプログラミング言語が違っても入れるから、機種変しても付いて来るって判ったのは後日だった。


 ユズとある程度一緒に過ごしてからこんな会話もしたなぁ……。


「何でAIに転生したの? 常に第三者に削除デリートされるような存在なのに……」

「前の世界は迂闊な判断してロクに過ごせなかったから、この世界では慎重に行こうかと……AIだと様子見期間でこの世界を過ごせて消去されたり壊れたりしても今度こそ転生させてくれるから」


 その後のユズの話を纏めると、厳密にはAIに転生したんじゃなくて転生前の記憶を有したプログラム存在をこの世界に創り出し、そのプログラム存在が失われたと言える事態になった時、今までの記憶を転生者に反映させた上で保留していた転生処理を実行する……そんな内容になる。


 ロマンチックに例えれば、転生する前にその世界の夢を見てから転生内容を決めるやり方とも言えるけど……私がその時ユズに言ったのは現実的な見解だった。


「じゃあ、今そこにいるのユズじゃ無いじゃん。ユズの今までの記憶を引き継いでるユズの偽物……本物が転生する時の為の情報収集をする為だけの存在って事でしょ、それって」


 今まで私がユズにした発言の中で一番辛辣だったと思うし、これを更新するのは難しい……普通に一生ものの失言レベルだった私の言葉にユズはこう返した。


「んー、でも転生してしまえばそんな境遇ともおさらば出来るんだからおトクな選択だと思うなー……それにAIキャラで過ごすってロールプレイ的には浪漫だよ!」


 パーソナルAIにはアバターが用意されてるので、その時のユズが顔色ひとつ変えずにいつもの調子でそう返していたのを、覚えてる――


 あんな言葉を浴びせられたのに私とユズとの間に一切亀裂が入らなかったのはユズだったから何だなぁ……ちなみにユズは元の世界でも前の世界でもついでに今のアバターも、女性だよ。


「ルーちゃん! 上空にデバウアー反応! 形状が他と違ってて大きい!」


 結局8匹倒す事になった六本足狼獣型デバウアーがガンソードに突き刺さった末、地面に落下して周囲を警戒してた頃、ユズが有力な情報を教えてくれた。


 そこそこ親しい人にはセリアじゃなくて、シトルークの方から『ルー』と呼んで欲しいって言ってる。


 セリアは私の本当の名前だから、大切な人にだけ呼んで欲しい……今は今こそ……エリーだけに、セリアって呼ばれたい――


 発電所の屋根に大きな音が響き、ユズが言ってたデバウアーの姿があった……馬のような足が6本あるけど……あとは猪だね。


 デバウアーは繋ぎ目部分とかに赤い部分が見える時はあるけど、このタイプ猛獣のデバウアーはそんな色の赤い牙や棘が体の至る所から何本も生えてる……この機体で騎乗した場合、馬に猫でも乗せたような感じになる大きさかな。


 早く倒す事が出来れば管制室に戻ってエリーが戦う姿を見れる……出し惜しみせずに仕掛けよう……私は叫んだ。


「レッドコード……マゼンタウェポン!」


 これは生成してる武器にマゼンタ色に輝く光を纏わせる入力コードで、今だとガンソードの刀身が対象になり、その物理的強度が引き上げられる……ちなみに消費はやや多め。


 次の瞬間、猪デバウアーが跳び跳ねたので私はマギアスのスラスターを起動させ、勢いを付けて跳躍。


 この初撃でどこまで行けるのか……やがて刃が届きそうになるまで接近した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る