2019/12/14 四角い机上で三角形の相談を

 時は昼。冬にしては温かい日だったと思う。場所の詳細は分からないが、どこかの大学内のカフェテリアであるらしく、白を基調としたモダンなデザインがだだっ広い空間に落ち着きを与えている。四方を囲む棚には箱に入った様々な菓子類が積まれていて、土産店が乱立しているかのようにすら思えた。

 私がいるのは入り口に近い隅にある四角いテーブル。ミルクティーチョコでコーティングされたホールサイズのバウムクーヘンを頬張りながら、向かいに座っている友人と駄弁っていた。

 大きめの一切れにフォークを突き刺したとき、その声は降ってきた。

「それ、オイシイ?」

 片言だった。私に留学生の友人がいただろうか。右後ろの斜め上方、母音が曖昧な声の主の方に振り向くと、ターコイズブルーの瞳と目が合った。やはり、私はこの女性を知らない。おそらくは彼女の友人であるだろう男女二人が後ろについていたが、そのどちらについても覚えが無い。唯一思い出せたのは、この学校にはスウェーデンから来た留学生がいるらしいという過去の伝聞だけだった。

「それ、オイシイ?」

 彼女は再び繰り返す。ブロンドのポニテは明るいのに、表情は何か真剣な悩みでもあるのか曇っている。私は、棚にあるお菓子の中から何を選ぶのか悩んでいるのだと判断し、「美味しいですよ」と答えてから席を立った。そして、すぐ背後にある棚を指し示した。そこには数種類のバウムクーヘンが山になっていた。もちろん、私が食べているミルクティー味もある。しかし、彼女の顔はさらに曇った。

 ああ、きっと違う。私は瞬時に誤りを理解して座り直した。彼女はきっと不器用なのだ。「それ、オイシイ?」は会話のきっかけ作りにすぎない。彼女が本当に聞いてほしいのはその後に続く話だ。

 席につくように促すと、彼女ではなくその後ろにいた二人がさっと移動し、私から見て左側に女性が、右側に男性が座った。「それ、オイシイ?」と聞いてきた彼女は空いている椅子を取ってくるわけでもなく、左側の席の背後に立った。

 座った二人が代弁をするのだろうか。そう思っていたのだが、いざ話を聞いてみると、むしろ悩みを抱えていたのはこの二人だということが分かった。

「つまり、君は第二親等類似に惚れたってことだな」

 ことを話し終えた男性に、友人がそう言った。

 第二親等類似の意味は知らないし、本当に意味のある言葉なのかも分からないが、どうやら左側にいる彼女に好意を抱いているある男性に、右側にいる彼が惚れてしまったということらしい。そして、座っているこの二人は親しい間柄である、と。

 つまりは、三角関係だ。恋愛経験に乏しい私に、三辺ながらも感情が複雑怪奇に交錯するあの関係性を解消してくれと、その手伝いをしてくれというのだ。異性愛と同性愛まで絡まった危うさを孕んでいる問題を。

 何故私に頼もうと思ったのだろうか。私には力不足であることは明白だ。しかし、友人は乗り気でいる。テーブルに体を乗せて、もっと詳しい話を聞かせてほしいと言わんばかりである。

 さて、どうしたものか――。



 ここで、目が覚めた。

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夢物語の備忘録 大河井あき @Sabikabuto

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