依存を断ち切れ

アール

依存を断ち切れ

とある月が綺麗に輝く深夜のこと。


その男は、とある悩みを抱えながら誰もいない公園のベンチに座り、物思いにふけていた。


その悩みとは、自らの性格に関連することだった。


彼はとても気性が荒く、それに加えて短期で、何かあるとすぐに人を殴ってしまうという厄介な性格の持ち主。


本人は他人を傷つけたくないと常に思っていたのだが、何か気に入らないことがあるとすぐに我を忘れてしまうのだった。


「あーあ、こんなどうしようもない性格、誰か治してくれねえかな……」


彼はそうポツリと呟いた。


別に誰かに向けて言った言葉ではない。


常日頃から蓄積されている体内のストレスが、思わず口から漏れてしまったような、そんな独り言。


だが、そんな男の独り言に、返事を返す者が闇の中から突然現れた。


「私なら治せますよ」


思いもよらなかった自分への返事に、男は驚いた。


「なんだと。だ、誰だ」


「どうも、こんばんは。

私の名前はロベルト博士。

とある研究所の所長をしているものです」


闇の中から突然姿を現した、聡明な顔をしたその男は彼に対してそう名乗り、ペコリとお辞儀をした。


「あんたの名前なんてどうでもいい。

…………それよりも今の言葉、本当か?」


「ええ、本当ですとも。

私なら貴方のその厄介な性格を見事に治して差し上げます。

あ、ご安心下さい。お代は結構ですので」


自信たっぷりに言うその言葉に、男はどこか頼もしさのようなものを感じていた。


しかし、一瞬踏みとどまる。


……いやいや、待て待て。

相手はついさっき出会った得体の知れない男だぞ。

そんな男の言葉を信じて見るのは危ないのではないのか。


男の脳にそんな思いが一瞬よぎったが、すぐに好奇心という大きな力によって、掻き消えた。


「……そこまで言うなら、是非とも治してもらおうじゃないか。

……それで、一体どうすればいいんだ?

その研究所に行けばいいのか」


「いえいえ、すぐこの場で治療はできますよ。

なにせ、この瓶に入っている錠剤を飲むだけなのですから」


そう言ってロベルト博士は、胸ポケットからその瓶を取り出し、男の前でジャラジャラとその中身の錠剤達を鳴らしてみせた。


「これは私が開発した薬で、

名前を更生薬こうせいやくと言います。

元々は違法薬物などの依存に苦しむ人々を救う為に開発された薬なのですが、多様な使い方が出来る、とても万能な薬なのです」


博士の説明に男はうなずき、瓶の中から取り出されたその一錠を、掌の上に乗せる。


そしてそれを持参していたミネラルウォーターと共に一気に喉の奥へと送り込んだ。


すると薬による変化はすぐに訪れた。


まるで凶暴、という言葉がそのまま現れたような、男の硬い表情が崩れ、とても温和な顔をした真面目そうな青年の顔へとみるみるうちに変わったのだ。


「俺、目が覚めたよ。

まるで世界が変わったみたいだ。

小さな事で俺はいつも、人に対して暴力を振るってしまっていたんだな」


角が取れて、どこか穏やかになった口調で男はそう呟く。


「良かった。

効果が現れてきたようですね」


博士の言葉に対し、男はうなずいた。


「貴方のくれたこの薬のおかげです。

これから僕は真人間として生きていくことができますよ。

もう、これから僕は一生このげんこつを使わない事を誓います!

本当にありがとうございました……」


「いやいや、お礼なんていいんですよ。

……そうですか。

もう2度とその拳を人に対して付かないと誓いましたね?」


「ええ、もちろんです。

暴力で物事を解決するなんて、そんなのとても幼稚な行為です。

私は今日から平和主義者として、これからの人生を歩んで行きますよ……」


その言葉を聞き、安心した様に博士はうなづくと、静かな声でこういった。


「ふふ、そうですか。

それじゃ、それなりの報酬を

あなたから頂くとしますかね」


……それからはあっという間の事だった。


突然、闇の中から現れた顔を隠した複数人の者達に男は襲われたのだ。


もちろん何度も男は反撃を試みようとしたが、思いとは裏腹に何故か体が動いてくれない。


しかし相手はそんな無抵抗な男に対して遠慮なく所持していたバットを振り下ろした…………。



やがて夜が明けた。


朝日が眠っていた街に、暖かな風と光を送り込んでくる。


そしてそれは、誰もいない公園の端で倒れている、無一文な一人の平和主義者に対しても同じ事であった。

































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