被害者たち
アール
被害者たち
その日、小さな広場の片隅にて、とある被害者の会が開かれていた。
「じゃあ、今からこの会をはじめるよ」
この会の主催者である僕の言葉と同時に、周りに集まった多くの子供たちは一斉にうなづいた。
「まず、僕がこの会を開いた理由を改めて説明しておきたいと思う。
隣町に住むアールという13歳の男の子。
ヤツはとても暴力的だ。
この街に先日引っ越してきたからというもの、ヤツは生まれ持ったその腕っぷしと、そして大人にこびるその狡猾さでたちまち大人達を欺き、僕たちから色んなものを取り上げていった」
僕の言葉がしんと静まり返った広場の中に、響き渡る。
その言葉である者はしくしくと泣き、またある者は拳を近強く握りしめ、その怒りを堪えていた。
「だから僕はこの会を開き、仲間を集めることにしたんだ。
一人ではヤツに勝てなくても、複数なら勝てる。
さあ、今こそ団結の時だ。 みんな告白しよう。
そして結束を高めるんだ!」
その言葉に広場にいた沢山の子供達は皆立ち上がり、僕に向けて拍手を浴びせ始めた。
「いいぞ!」 「よく言った!」 「その通りだ!」
僕は思わず誇らしくなり、しばらくその声に耳を傾けていたが、すぐに我に帰ると進行を続けた。
「じゃあそれぞれ順に、ヤツにどんな酷い目に合わされたのか、告白していこうじゃないか」
その言葉に彼らはうなづくと、一人ずつ順に告白をし始めていった。
「僕は集めていたお気に入りのCDを取り上げられたんだ……。
でも返却を催促したら、顔を4発殴られて……」
「俺は恋人にプレゼントする為にと貯めておいた現金6万円を……」
「僕は理由もなく、いきなり殴られたんだ……。
お前の顔がムカつくからいけないんだよって……。
親に相談しても意味がなかったよ。
あのいつも礼儀正しいあの子がそんな事するはずないでしょうって……。
すっかりアイツに騙されてしまってるんだ……」
「僕も学校の先生に相談してみた事があったんだ。
だけど返事はみんなと同じ。
あの子がそんな事するはずないって……。
一体どうすればいいんだ……うう……」
みんな次々と、日頃のヤツの非道の数々をさらけ出していった。
全く、許せない。
こんなにも沢山の人達を苦しめてきたなんて。
ヤツには必ず痛い目を見させなければ。
僕は皆の言葉に耳を傾けながら、そう固く胸に誓った。
そうしているうちに、皆の告白が終わったようだ。
「主催者さん。最後はあなたの番だよ」
そばにいた幼い男の子が僕にそう声をかけた。
僕はゆっくりとうなづいた。
皆の告白を受け、改めて僕は敵がどれだけ手強い存在であるかを実感した。
生まれ持った大きな体、そして狡猾さ、凶暴性。
そして極め付きは最近、ますますヤツは調子に乗ってきた。
今こそ皆で団結し、ヤツを止めなければ。
僕は告白の為にふぅっと一呼吸置いた後、皆に向かって自分が受けたヤツからの被害を告白した。
「…………僕は妻だ」
被害者たち アール @m0120
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