第10話 異世界からやってきたとかいう存在自体が非常識な相手から、常識を説かれた……

「ま、まぁそう言わずにさ」


「お断りします」


「ほらここは1つおおらかな気持ちで」


「お断りします」


「……」


「そんなことより」


「そんなこと!? おっぱいできるかどうかが、そんなこと!?」


「もううるさいですねぇ。そんなことより、だいぶ話したので喉が渇いたんです。お茶を飲みたいなって思うんですけど。できれば淹れたての熱いのを」


「お茶よりもその、おっぱいは?」


「女の子におっぱいおっぱい連呼するのは、どうかと思いますよ。常識的に考えれば、セクハラで一発アウトです。おまわりさーん、こちらでーす!」


「くっ、異世界からやってきたとかいう存在自体が超絶ド級に非常識な相手に、真正面から常識を説かれただと!?」


「で、まだお茶は出ないんでしょうか?」


「はいはい……出せばいいんだろ、出せば。今用意しますよ、っと」


「あ、濃い目でお願いしますね。わたし、薄いお茶と安物の茶葉は飲んだ気がしないんですよね」


「へいへい、濃い目ね」


「できればお茶菓子もお願いします。和菓子がいいですね。この世界に来たらどら焼きを食べてみたいなって、ずっと思ってたんです」


「さっきから注文多いなおまえ!?」


「熱くて濃いお茶を飲みながら、お茶請けををいただく。至極の瞬間ではありませんか?」


「それは否定しないけどな。ちょうどこの前実家から送ってもらった仕送りセットに茜丸の五色どら焼きが入ってたから出してやるよ」


 突然無職になった一人息子を心配した両親が、わざわざ段ボールいっぱいの食料品を送ってくれたのだ。


 お金があんまりなかったので、正直とてもありがたかったです。

 人の心の温かさが身に染みて本気で泣きそうでした。


「ところで、『出してやるよ』とか『熱くて濃い』ってすごいエロワードですよね」


「本っっっっ当に脈絡ないよな!? 『ところで』って言ったらなんでも言っていいと思ってないか? 今どき掃いて捨てるほどあるWeb小説でも、そこまで展開が雑なのはそうはないぞ? っていうか、いきなり何言ってるんだよ?」


「だって想像してみてくださいよ。こんな美少女に、今からトールは熱くて濃いナニを出すんですよ? もう! お茶とお茶菓子を出すだけで興奮するなんて、この変態! スケベ! 歩く種馬! さすが異世界を救った勇者様です!」


「いやほんと、俺、一言もしゃべってないんだが? いわれなき罪で、完全な冤罪なんすけど……?」


「でもわたしに言われて想像しちゃいましたよね?」


「それは、まぁその……」


「熱くて濃いのをわたしに出しちゃうトール自身を、微塵も想像しなかったと言い切れるんですか!? 言い切れる者だけが、まず石を投げなさい!」


「ぐっ……」


「さぁどっちなんです、変態なんですか? それとも性的不能なんですか? さぁさぁはっきりしてください!」


「なんだよそのどっちでも俺の評価がマイナスにしかならない最悪の2択は!?」


「ほらほらどっちなんです!」


「くっ……!」


「ほらほらほらほら――!」


「お茶を淹れる前に、ちょっと顔を洗ってこようかな」


 舌戦になるとどうにも旗色が悪かった俺は、この場からそそくさと一時退却することにした。


 地頭が違い過ぎて――もちろんエリカ>>(越えられない壁)>>俺だ――会話力で勝てる気がしないです……。


 …………

 ……


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