第11話 異世界召喚術師トールの物語――完。

 その後、俺は冷たい水で顔を洗ってしっかりと目を覚ました。


 そして普段は家の中で着ることはない外出用のちょっとマシな服を着て、寝癖をしっかりと直して身だしなみを整えると、異世界からきた美少女エリカと一緒に朝ごはんを食べた。


 食パンを焼いて、レタスをちぎってミニトマトとキュウリを切っただけの生野菜サラダという簡単な朝食だったけど、エリカは美味しそうに食べてくれた。


「それでさっきの話に戻るんですけど」


 食後のコーヒーを一口飲んでからエリカが言った。


「ごめん、さっきの話ってなんの話だっけ?」


 なんかもう超展開が続くわ、おっぱいでからかわれるわで、最初の話とか言われても本気で覚えていない件に関して。


「トールが異世界を救った勇者だというお話です」


「そういやそうだったな。俺って勇者だったんだ、すっかり忘れてたよその設定」


 エリカいわく俺は異世界召喚する召喚主であると同時に、異世界を救った勇者――でもあるらしい。

 もちろん実感などない。


「あーでもその前に1個だけいいかな?」


「なんでしょう?」


「俺がエリカを異世界召喚したのは納得したんだけどさ。それで俺はこれから何をすればいいんだろうか?」


 俺は疑問に思っていたことを尋ねてみた。


「と、いいますと?」


「ほら、異世界召喚ってのはたいがいの場合は召喚主が困っていて、された方はその力になるために奮闘するっていうのが定番だろ?」


「まぁ一般的にはそのような感じですかね」


「けど一般人の俺には、エリカを異世界召喚してまで解決してほしい悩みなんてないんだよな」


「まぁそうでしょうねぇ」


「逆にエリカにしても、やっぱ異世界召喚されたからにはこの世界の危機を救ったりするもんじゃないのか? なにか世界を変える使命みたいなものでもあったりするのかなって、気になってたんだけど」


「ふむふむそういうことですね、トールの疑問点がどこにあるのかは理解しました」


「ちなみに俺の方は、そういう世界を変えるみたいな気持ちはこれっぽっちもないからな? エリカは知らないかもだけど、俺が住むこの日本って国は世界で一番平和な国の一つなんだ。だからそこまでしてやらないといけないようなことは――」


「それでしたら心配は無用です。異世界に召喚されたことで、わたしは既にその目的を果たしておりますので、トールがあれこれ思い悩む必要はこれっぽっちもありませんから」


「……ん? 目的は既に果たした? どゆこと?」


「ちょうどいいですね。トールが勇者様であることと一緒に説明させていただきます」


 エリカは女の子座りをやめて正座をすると、スッと背筋を伸ばして言葉を続ける。


「さっきも言いましたように、わたしは異世界転生・転移の女神さまが治める基幹世界『ディ・マリア』からやってきた巫女です」


「そうみたいだな」


「そしてわたしが異世界転移をすることによって異世界間の均衡が回復し、異世界転生・転移の女神さまもやれやれ一安心。一息ついた女神さまによってわたしのいた世界も祝福で満たされるんです」


「へー、そう言うシステムなんだな。で、その後どうなるんだ?」


「終わりです」


「……は?」


 まだ説明が始まったところなのに、いきなり終わりと言われて俺はポカーンと口を開けた。


「だから終わりなんです。異世界転移しましたので、今ごろ故郷の世界は女神さまの祝福であまねく満たされていることでしょう。お父さん、お母さん、故郷のみんな! エリカはやりましたよ!」


 グッと可愛らしくガッツポーズする異世界美少女巫女さんなんだけど、


「え、つまりなに? 異世界転移そのものが目的であって、それを果たしたら転移先では特にすることがないってこと?」


「端的に言うとそうなりますね。理解が早くて何よりです。そして世界を祝福で満たしたトールは、世界を救った勇者様なわけなのです」


「いやいやいやいやいや。え? マジで?」


「マジです」


「エリカが異世界転移することが最終目的?」


「はい、それがわたしの最終目的です」


「転移したこの世界で悪の秘密結社や黒づくめの謎の組織と戦ったり、世界を破滅の危機から救ったりはしないの?」


「この世界に危機が訪れているのでしたら微力を尽くしますけれど、なければ特には」


「あ、そうなんだ」


「ちなみにわたしは巫女ですので、戦闘能力などはからっきしです。運動能力は平均よりもちょい上くらいでしょうか。成績は座学でとるタイプですね。なので世界を救うような際どい場面ではあまり役に立たないと思われます」


「あ、そうなんだ……」



 異世界召喚術師トールの物語――完。



 次回作にご期待ください!



(作者注:まだまだ続きます! 物語上の演出です! それと応援ありがとうございます! 気に入ったらフォローと☆をよろしくね! なにとぞ~(>_<))

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