第60話 本音

「あれあれあれ? おやおやおや?」


「な、なんだよ?」


「珍しく否定しないんですね? てっきり『新婚旅行とかここぞとばかりに既成事実を作ろうとするんじゃありません』的なことを言われると思ったんですけど?」


「俺の物まね、地味にうまいな……」

 さすがエリカ、何をやってもそつなくこなしやがります。


「はっ! さてはついにトールもわたしの魅力に完オチしてしまったというわけですね? もうトールってばぁ、そうならそうと早く言ってくださいよぉ♪」


 エリカがくねくねと気持ち悪い動きで身をよじりながら、俺の胸元を人差し指でつんつんと突ついてきた。


「あのなぁ、エリカの魅力はもう十分すぎるほど伝わってるってば」


「えへへ、嬉しいです♪」


「でもまぁなんだな。ぶっちゃけると、エリカにはこれから世界を救ってもらうんだから気持ちよく事に臨んでもらおうかな、とか思わなくもないかな」


「な、なんて打算的な!? 酷いです、わたしは今トールに大いに失望しましたよ! 天国から地獄とはまさにこのことです!!」


「いやあ、何ごとにもモチベーションは大事かなって」


「残念ながら、わたしのモチベーションはおおいに低下しました。回復するためにはお詫びに新婚のキッスをしてください、ギュッと力強く抱きしめて下さい。耳元で愛の言葉をささやいてください。それと婚姻届けにも判子を押して欲しいですね、なんなら子供も作りましょう」


「さすがに要望が多すぎるだろ……最後のは論外だし、せめて1つにしてくれ」


「では──」


 エリカが口を開きかけたところで、


「なるほど、これは先にこれでもかと要望を出しておいてから、いくつか引っ込めることで妥協したように見せかけて、実際は一方的に相手の譲歩を引き出させる交渉テクニックの1つですね♡」


 横合いから中野さんが指摘すると、エリカはそっと俺から視線を逸らした。


「おいこら、お前の方がよっぽど打算的じゃねぇか……」


「いいえトール、打算的などという言葉を使うからいけないんです。例えば戦略的と言い換えればどうですか? ほら、一気に知的な感じがしてきませんか?」


「全然しないから。戦略的に恋愛するとか言われたらドン引きだから」


 俺はもっとピュアピュアな恋愛に憧れてるんだよ。


 最初はグループの友人って関係で始まるだろ?

 そこからイベントとか事件を通して関係が深まっていくとともに、気持ちも通じ合っていって。


 そして勇気を出してクリスマスデートに誘って告白して。

 聖夜のイルミネーションに祝福されながら2人は恋人同士になるんだ。

 そういうアオハルな恋をしてみたいんだよな。


 あ、はい。

 いい年してキモくてすみません。

 女の子という存在に夢を見ていますね、分かります。


 でも心の中でくらい、女の子に夢を見たっていいだろう?

 誰に迷惑かけるでもないんだからさ。


「だいたいキスくらい普通にちゅっちゅすればいいじゃないですか。アメリカなる国ではあいさつ代わりにちゅっちゅしているのだと、女神学院で習いましたよ?」


「残念ながら、ここはアメリカじゃなくて日本だからな。でもま、無事に超巨大隕石を回避できたら考えておくよ」


「ぶぅ、わたしは今したいのに……キスぅ、キスしたいですぅ! トールのいけずぅ! キスぅ! キスキスぅ!!」


「なに急に駄々っ子みたいになってんだよ。完全にキャラ違ってんだろ」


「あまりにトールが難攻不落なので、ちょっと別方向から攻めてみました。えへへ、てへぺろ」


「あのなぁ、俺は別にエリカのことが嫌ってわけじゃないんだよ。でも俺にも心の準備ってもんが必要なんだよ」


「心の準備ですか?」


「いきなり女の子とキスしたりとか、女の子とろくにお付き合いもしたことない俺には難易度が高すぎるんだ。その辺を察してくれると嬉しいかな?」


「むふふ……なるほどそういうことですか。まったくもう、トールってばほんとヘタレなんですから。でもそれはそれで奥ゆかしくていいと思いますよ♪」


「ありがとなエリカ」


「じゃあとりあえず、くっついて座るくらいならいいですよね?」


 そう言うとエリカは俺の返事も待たずに俺との距離をぐぐっとゼロ距離に詰めると、俺の腰に手を回しながら半ば抱き着くようにくっついてきた。


 エリカのおおきくて柔らかい双丘が、俺の二の腕にぎゅむっと押し付けられる。


 や、柔らかい……!

 ものすごく柔らかいぞ!?


 知ってたけど、改めて再確認っていうか!


「え、あ、うん……ま、まぁこれくらいなら……」


 その包み込まれるようなふくよかで優しい感触に、しどろもどろになってしまう俺だった。


 とかなんとかそんな感じで。

 新婚旅行(とエリカが言い張る。しかし俺もまんざらではなかった)をしながら空の旅を満喫した俺たちは、種子島宇宙センターへと降りたった。


 それにしても大きな滑走路がなくても垂直離着で狭いスペースにピンポイントで着陸できるオスプレイって、革命的に便利な乗り物だよな。

 しかも変形がカッコいいし。


 やっぱり変形メカは男の子の永遠のロマンだぜ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る