第59話 オスプレイ
俺とエリカと中野さんは、ヒナギクさんに引率されて惑星探査用・次世代有人ロケット試作五号機『H4X-105おおとり』の打ち上げ準備が極秘裏に進められている種子島宇宙センターへと向かった。
環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』が用意してくれた、要人輸送用の特別なオスプレイに乗りこんで、あとは空路でひとっ飛びなのだそうだ。
静音性に優れていて、窓がついているから外を見ることができる特別仕様機のオスプレイで、種子島宇宙センターまで東京からわずか2時間ほどで着くらしい。
「まったく、こんなものまで所持しているだなんて……オスプレイは最新の軍事機密の塊でしてよ?」
「古来より、備えあれば憂いなしと言いますから♡」
「あなた方の備えがありすぎて、日本政府の方が憂いそうですわ……」
これにはさすがのヒナギクさんも呆れていた。
というか一応宗教結社なんだよね?
宗教ってこんな物騒な兵器を所有できちゃうの??
もしかしなくても、在日米軍の司令官や総理大臣までメンバーだったりするから??
「わたし初めて飛行機に乗りました! すごいです、こんな鉄の塊が本当に空を飛んでいるなんて!」
そんな2人のやり取りを尻目に、窓から外を見下ろしながらエリカがはしゃいでいる。
「だよな、分かる。実を言うと俺もそう思わなくもなかったりもするんだ。こんな鉄の塊が空を飛ぶなんて不思議だよなぁ」
揚力って言うんだっけ?
空気の流れに差を作るだけでこんな鉄の塊が空が飛べるだなんて、ほんと不思議だよなぁ。
「……トールは本当に世界第3位の経済大国で、科学技術大国でもある日本国の国民なんですか?」
そしていつも俺を褒め殺しのごとくよいしょしてくれるエリカにしては珍しく、いぶかしげな視線を向けられてしまう俺。
「まぁそう言うなって。文系でブルーカラーと来たら、そんなもん科学技術とは最も縁遠いところにいるようなもんなんだから。日本を動かしてるエリートとは住んでる世界が違うんだよ」
「はぁ、そんなものですか……あれ、でもこの機体、さっきはヘリコプターでしたよね? ぐるぐるが上で回ってましたもん。ああいうのはヘリコプターって言うんですよね?」
「おっ、よく知ってるな」
「でも今はぐるぐるが前を向いていますよね? これは飛行機という乗り物です。つまりヘリコプターから飛行機に変形したってことですか?」
窓から見えるプロペラを指差しながらエリカが小首を傾げた。
「さすがエリカ、よく気が付いたな。このオスプレイはヘリコプターと飛行機のいいとこどりをした最新の可変航空輸送機なんだよ」
俺はニュースで聞きかじっただけの知識を華麗に披露した。
ちなみにこれ以上のことは全く何も知らないので、ツッコんだ話はやめてくれな?
「ふわぁ、飛行機とヘリコプターなんて全然違うのに、そのいいとこどりをやっちゃうなんて。やっぱりこの世界の進歩の速さはすごいですね!」
エリカが子供のように目を輝かせていた。
興奮とかワクワクって感情がこれでもかと伝わってくる。
きっとこういう新しいことや技術に強い興味を持つ人間が、専門分野に進んで世界に羽ばたいていくんだろうな。
地を這ってばかりの俺には、エリカの姿はまぶしすぎるよ……。
エリカという全てにおいて優れたスーパーエリート女の子と身近に接するようになってわずか数日で、俺は事あるごとにそういった「違い」をこれでもかと身に染みて実感させられていた。
「それに眼下に広がる青い海が、とてもとても綺麗です。海をこんな風に真上から見ることができるなんて信じられません!」
でもエリカがこんなに楽しそうにしているのに、俺が勝手に格差を感じて暗い気持ちになって、せっかくのわくわくに水を差すような真似はしちゃいけないよな!
俺は人としてそこまで堕ちちゃいないし、自分勝手でもない。
「ほんと綺麗な海だよな。正直俺も空から海を見る機会なんてまずないから、エリカと同じようにちょっと感動してるんだ」
だから今は難しいことは考えないで、俺も素直に空の旅を楽しむとしよう。
なによりエリカはこれから世界を救うんだから、気持ちよくいてもらわないと。
「えへへ、一緒ですね。トールと同じものを見て感動できるなんて、これぞ新婚旅行の醍醐味ですよね」
「ま、そうかもな」
だから俺は、いつものようにぐいぐい来るエリカの言葉にもにっこり笑って同意した。
すると――
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